夜明けと白昼夢
鹽夜亮
夜明けと白昼夢
時計が午前四時を静かに示している。必要のない覚醒を重ねた交感神経は、体中に張り巡らされた歪な鎖のように重い。
あらゆる些細な音までも全て同一の音量で知覚され、視界と記憶はまるでコマ送りのように、覚めきっている。私は煙草を吹かしながら、数年前に事故を起こした一瞬のことを思い出していた。全てがコマ送りになり、脳のストッパーが外れたかのように自らの生命維持のための行動を自動で行う…そんな瞬間を思っていた。
人は、日常生活をする上でその能力の半分も使っていない、とどこかで聞いたことがある。なるほど、勿体ないと感じる人がいることも当たり前の話だ。だが、待ってほしい。
自らの生命が危機に陥った一瞬間の刹那、あの瞬間が常に続くとしたら?あらゆる情報が途方もない正確さで知覚されながらも、記憶への処理は置き去りにされ、永遠にも感じられる今に取り残される、そんな瞬間が日常的に表れたとしたら?…
私は答えよう。それは地獄だ。人の脳は決して怠けているわけでも、出し惜しみをしているわけでもない。必要以上の情報をフィルターにかけ、時にシャットアウトしているだけだ。それが取り払われた時、脳と心は、そして身体は、それ自身に長時間耐えることなどできない。
私は今それを痛感している。脳内に響く鐘のようなライターの音を、暴風のような暖房器具の声を、肩や首の筋肉の緊張のその細部も、手足の先の血管一つ一つの脈動も。…
呼吸は浅く、心拍は速い。意識的に行わなければ、深呼吸すらままならない。瞳孔は開いている。眠気など、とうに忘れた。
ああ、こんな時に白昼夢が見られたら良いのに。あらゆる刺激に支配された現実を離れ、夢の世界へ落ちてゆけたのなら、どれほど幸福だろう。己の生を究極に実感しながら、私はそこから離れたいと望む。それの行き先は死ではない。
望んでいるのは、ただ必要最低限たる感覚の鈍麻である。……
私は神経により生き、そして何より神経により蝕まれる。
夜明けと白昼夢 鹽夜亮 @yuu1201
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