第5話

 サクラは頬を赤く染めながら呼吸を乱す。


「はぁ……はぁ……」


 笑みを浮かべながら小首を傾げるマナブ。


「どうしたの? ん?」


 微笑みながら囁くサクラ。


「んっ、ちょっと熱くなっちゃったかな」


「なんで熱くなっちゃってるの?」


「はぁ……体の奥から、熱が湧き上がってきて……ふぅ」


「つまり、興奮してる?」


 首を高速で横に振るサクラ。


「ううん、そんなんじゃないよ」


 サクラは明るい笑顔を浮かべた。


(こんなことで興奮なんかしたくない! 絶対にイヤ!)


 サクラは細めた目を玄関の扉に向ける。


(マナツっ! 助けて!)


 マナブはサクラの衣装から手を引き抜く。


「強がらなくても大丈夫だから、ね?」


 手を衣装の下半身部の隙間に滑り込ませるマナブ。


「次は……こっちに行くよ?」


 サクラは顔をしかめながら手を握りしめた。


「うーん……」


 サクラは後ずさり、マナブから距離を取る。そして、手を叩きながら笑みを浮かべた。


「あっ、さすがにそろそろ私の友達が家に来る頃合いだと思うので、マナブさんそろそろ帰って欲しいかなー?」


 マナブは目を見開きながら玄関に視線を向ける。


「あっ、そうだよな! 忘れてた。サクラは友達と用事があったんだよな、ごめんごめん」


 微笑みながら何度も頷くサクラ。


「うんうん。友達と約束があるから、マナブさんはまた今度で!」


 こわばった顔を作りながら親指を立てるマナブ。


「了解。さすがに長居しちゃダメだよね」


 マナブは手を振りながら玄関に向かう。


「じゃあ、オレもう帰るね。またね」


 サクラも大きく手を振って見送る。


「あっ、お気をつけてー!」


 マナブは玄関を開けると外に消えていった。それから、扉が小さな音を立てながら閉まっていく。


 サクラは眉尻を下げながら大きなため息を吐きだす。


(はぁ、今日は最悪な一日だよ)


 顔の前で手を組み、玄関を見つめ続けるサクラ。


(マナツ、早く来ないかな? というか、早く来て! 私の弱った心を甘い気持ちで満たして!)


 サクラは口に手を当てながら笑みを浮かべた。


(マナツと早く一緒にチョコレート作りたいな。あ、できれば甘々あまあまな時間もっ!)


 マナツは無表情でサクラを見守り続ける。


(あーあ。驚かすタイミングがわかんなくなっちゃったよ)


 マナツは目を細めながらサクラの顔に視線を送り続けた。


(ボク、何やってるんだろ……)


 マナツは視線をサクラから天井に移し、じっと眺める。


 家の中にサクラの軽快な足音が響き渡っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イヤなのに、体は正直者なので、密室濃厚トライアングル化が止まらない! !~よたみてい書 @kaitemitayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ