あまいもの

ゆうやけ

空が茜色に染まる放課後。私は白い息を吐きながら、全速力で走っていた。

「お疲れい！」

私は満面の笑みで、自転車を押す幼馴染の背中に激突した。

「…相変わらず元気だな。」

背中に激突された彼はジトリと私を見つめた。その切長の目にドキリとする。赤くなる頬を空の所為にして、彼の自転車のカゴに私の荷物を突っ込む。

「おいおい、俺はお前の荷物は運ばねーぞ。」

「後ろ、乗せてくれるんでしょ？」

私は、いつも彼の自転車の後ろに乗せてもらっている。溜め息を吐き、やれやれとでも言う様に

「しゃーねーな。」

と言ってくれた。

「えへへっ。ホントは嬉しいくせに。」

「誰がお前なんかを乗せたがんだ。ただ重いだけじゃねーか。」

「何だとー！」

いつもみたく言い合いを始める。すると、彼の友人である男子達が、こちらに来た。

「お？夫婦喧嘩か？」

「ヒューヒュー！」

案の定、私達を囃し立てる。それを聞いた彼は反論を始めた。

「なッ…誰がこんなのと！」

っ…そうだよね。知ってる。ただ、私の本心とは裏腹に、言葉は口を突いてするする出て来る。

「おっとぉ？こんなの、とは良い度胸してんじゃん。私みたいに可愛い子、すぐ持ってかれちゃうぞ？」

戯けてみせる。皆が笑ってくれる。

「ほら、乗れ」

何だかんだ言いつつ、結局乗せてくれる。そんな何気無い優しさに思わず胸がキュンとする。

「なぁ、お前さ、自転車乗らねーの？自分で。」

彼は突然聞いてきた。

「うん。乗らない。怖いもん。」

「…子供か。」

「子供じゃないから、だよ。」

夕闇の迫る空を見上げ、呟く。彼はその真意を理解してない様だった。それが良い。それで良い。ぎゅっと彼に抱きついてみる。彼のリュックに阻まれ、彼の体温が感じられない。

「…っと！あぶねーな…急に抱きついてくんな。」

「だって落ちちゃうもーん。」

「はぁ…」

曲がり角を曲がれば、そこは家。まぁ、彼の家はすぐ隣なんだけど…それでも淋しいものは淋しい。私はぴょんと自転車から降りた。ただ、彼はさっき来た道を戻ろうとした。

「ちょ、ちょっと待って。どこ行くの？」

すると、彼はキョトンとして言うのだった。

「どこって…塾。」

「…受験？」

私達は受験生ではない。でも、難関校を受けるなら、準備していたっておかしくない。

…別々になっちゃうのかな。

「ああ。偏差値高いとこ行きてーし。」

ぐちゃぐちゃの感情をぜんぶ飲み込んで、平静を装いながら、

「そ。甘いもん食べて頑張れよ！」

と、彼の背中をバシバシ叩く。

「痛え。叩くな。」

さすがに露骨すぎた？まぁ良いけど。

「ただいま」

誰もいない家に帰る。自室に入ったとたん、疲れがどっとおそってきた。

「…てか、わざわざ送ってくれたのかよ。」

今になって気づく。

「自転車…ね」

子供じゃないから、こわい。

君の後ろが取られることが。

どこにも行かないから。

はなさないで。

「あまいもの…死ぬほどあるんだろうな…」

こっそり彼のリュックにいれた手からは

あまくて

にがい

チョコレートのにおいがした