第27話 少しだけ

次の日は自然と目が覚めると

まだ朝日が顔を出したばかりの

薄暗い空だった。


少しだけ唇に、彼の感覚が残ってて。

私は、下唇をツーって指の先でなぞって、

それだけでなぜか幸せになった。


彼の彼女が、どんな人でどんなところに行って

そのことはどんなキスをして、

当時の私に、それを想像するだけの頭は

残ってなくて、むしろ彼が、

私にあんなに優しい顔を向けながら、

他に愛している人がいるなんてこと、

少しも考えられなかった。


『ふわー、疲れた。』


まだ何もしてないのに、上機嫌で天井に

そんなことを呟いて、帰ったまま眠りについて

しまった体を流しに、シャワーを浴びた。


少しずつ、じんわりと温まる体と、

じんわりと蘇る記憶。


少しだけ、少しだけ。

私はもう少しだけ、彼のものでいたかったし、

彼を私のものにしておきたかったんだ。


言葉も伝えあわないうちに、そんなことを

ねだるようになった私は、

少しだけワガママだ。

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きっと醒めない夢の中で はなくそ @haru_kaze_

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