第26話 さいごの
『もう会えないの、?私たち。』
「んー、会えないかもなぁー。」
ゆうはついていた膝を開いて、
また私の横に立った。
『じゃあ、どうすんの。私いっぱい泣くよ?』
「それは、困ったなどうしよっか。」
冗談気味に笑って、また当たり前みたいに、
ゆうは私の手を握った。
「うそ。」
瞬間に、その手に力がこもる。
へ、何が嘘?
流れた涙に吹き込む風が、
夏の暑くなった顔の温度を少しずつ下げた。
『なに、が』
今、もう一度ゆうの唇が触れた私の唇は、
ジンジンと熱くなるというのに。
「俺、お前のこと本当に好きなの。大切なの」
『うん。』
「だから時々、また現れていい?」
そんなこと聞かなくても、
ゆうはいつもそうだ。
猫みたいに、ふらっと現れてふらっと消えて。
そうやって私の心を掻き乱して、
それがゆうじゃないか。
いつも通り、じゃないか。
『ゆう、どこにも行かないでよ。』
「いつも、トモコの胸の中にいるよ。」
ここってゆうの手のひらが、
私の首の付け根の、鎖骨の辺りに触れる。
『約束?』
「そ、約束。」
私とゆうは、
奇妙な人間だったのかもしれない。
本当に好きな人を、恋人に出来ない人間と、
それを甘んじて受け入れて、
理解できてしまう人間と。
私たちは、街頭の少ないこの街の、
わずかなあかりに照らされて、
辛くて苦しい、最後のキスをした。
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