最終話 新しい気持ちで迎える週末
◇ ◇ ◇
「――んん」
「お目覚めになりましたかにゃ」
「!? ご、ごめんなさい! 私寝ちゃってたみたいで」
「大丈夫にゃ。素敵な夢が見られましたかにゃ?」
「……ええ。とても素敵な夢を見ていた気がします」
女性はお店に来た時とはまったく違う、晴れやかで穏やかな表情をしていた。
彼女の周囲を覆っていた<闇雲>も、いつの間にか消えている。
――すごい。これがブックパイの力なの!?
「それはよかったにゃ。そろそろ閉店時間なのにゃ」
「帰ります。ええと」
「お代はけっこうにゃ」
「……へ? いえそんな。ちゃんと払います」
女性は驚いた様子で慌てて財布を出そうとする。
「お客様は、当店1人目のお客様なんです。ですので感謝の気持ちとして、サービスさせていただけると嬉しいです」
「……そう、ですか? それなら。ありがとうございます。また来ますね」
「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」
◇ ◇ ◇
翌日の夜。
閉店ギリギリの時間帯に、1人の女性が駆け込んできた。
「すみませんっ! まだいけますか?」
「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ」
――あれ?
この女性、昨日星宮カフェに来てくれたお客さんだ。
モフに「カフェの記憶は残らない」って聞いたんだけど……。
女性はスマホを見ながら店内を回り、『休日に作りたいスパイスカレー』『スパイス辞典』『パイレシピ80』と次々と本をピックアップしていく。
どうやら昨日のブックパイを食べて料理に目覚めたらしい。
それからふと立ち止まり、面陳にしていた文庫の新刊も1冊手に取った。
『八匹の猫の冒険』だった。
レジに来た女性は、ワクワクした様子で会計を待っている。
「料理お好きなんですか?」
「ええ。内容は覚えてないんですけど、昨日不思議な夢を見た気がするんです。それから無性に何か始めてみたくなって。そういえば私料理が好きだったなって。明日は土曜日ですし、久々に作ってみようかなと思ってます」
「素敵ですね」
「ありがとうございます」
会計が終わると、女性は笑顔で会釈して帰っていった。
女性を見送り、いつも通り店のシャッターを下ろす。
「ねえモフ、星宮カフェの記憶は残らないって言ってたよね?」
「残らないにゃ。でも、体験が引き金になって生まれた気持ちは消えないにゃ。ブックパイの効果は無意識下に残り続けるのにゃ」
「そっか。そうなんだ。ふふ」
あんなに沈んだ顔をしていた女性が、期待を胸に店に駆けこんでくるなんて。
何か始めてみようって思ってくれるなんて。
嬉しい。とても嬉しい。
まるで自分まで変われたような、キラキラを分けてもらったような気持ちになった。
「来週もお客さん来るかな? 次はどんなブックパイが生まれるのかな――あ! モフ見て!」
「にゃ?」
紬@読書垢 @Tsumugi_iro 20分
久々の投稿です!
ふと昔通ってた本屋さんのことを思い出して、仕事帰りに行ってみました。
レシピ本だけ買う予定がうっかり文庫まで。猫かわいい。
この土日は鱈入りのカレーパイを作ろうと思ってます!
将来はカフェやりたいな。
#星宮書店 #購入本
「これきっと、さっきの女性だよね? SNSで投稿してくれてる!」
「……やっぱり凛は、スキル使いの才能があるのにゃ」
「うん?」
「何でもないにゃ。来週も星宮カフェ開店が楽しみにゃ」
「うんっ! これからもよろしくね、モフ♪」
◇ ◇ ◇
木曜日。星宮カフェ閉店後の深夜。
神界図書館の一角に、光とともに一冊の新刊が追加されていた。
背表紙には、『猫人族と鱈カレーパイ』という文字が光っていた。
【完】
転生してないのにスキル【ブックパイ】をもらったので、本屋の片隅でカフェはじめました! ぼっち猫@書籍発売中! @bochi_neko
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