第10話 あつまるなどうぶつの森

(ガルシアさんも行っちゃったし…)

私は栞里さんが働いているというペットショップに向かうことにした。

「すみませーん!」

「はい?」

何やら大きな白い袋を抱えて歩く獄人に道を尋ねた。

「ペットショップ…悪いけど分からないな。おじさん、地獄に来て間もないからね」

「そうですか。ありがとうございます」


2人目は通行人の女性に、3人目は男性に、4人目は路上で弾き語りをする女性にそれぞれ聞いたが、同様に分からないとの答えが返ってきた。


(地獄のペットショップだぞ? さぞかし有名になるだろうに…)

あてもなく歩き続けた結果、路地の果てまで着いてしまった。地獄の街はずさんな造りになっているようで、建物と建物の間の路地、そこから先がまだ造られていなかった。だだっ広い赤土あかつちの大地が広がっている。


(仕方ない…戻るか)

そう思ったそのときだった。




(…ん? なんかいる…)

路地の端から100メートルほど前方に岩があるのだが、そこから猫のような可愛らしい顔を覗かせる「何か」がいる。


(…あれ? 1匹だけじゃない! 犬みたいなのとハムスター…ん? ハムスターにしてはデカくない?)

猫のような何かと、犬のような何か、ハムスターのような何かの計3匹が見えている。


(…やっぱりあのハムスターデカい…てか何あの猫!? キモッ!)

ハムスターはSUVのようにゴツいし、猫にいたっては顔は猫でも体はムキムキの馬のよう…なんでどいつもこいつもデカいんだ。

犬に関しては、ごく普通の柴犬に見える。

だが、ヤバいのは見た目だけではない。それ以上にヤバいのは…




「来て…る? こっちに…来てる!?」

その3匹がこちらに猛スピードで向かってきているのだ。いま私の周りには獄人がひとりもいない。私は来た道を全力で走った。

柴犬はともかく、デカハムスターとキモネコホースに襲われては二度目の死を迎えかねない…


★ ★ ★


「くふ…くはは…!」

今あいつを追っかけてる3匹の獄獣ごくじゅうは、紛れもなく俺が用意したものだ。ペットショップからこっそり拝借して岩陰に隠したんだ…


「走ってる走ってる…」

上空に浮かんで観察してるんだが、ここからの眺めは実に愉快なものだ。

あの獄獣たちが向かってるのは、おおかた元いたペットショップだろう。

ほーら…みるみるうちに追いついて…


「…あれ?」


★ ★ ★


「…あれ?」

何が起きたのかすぐには分からなかったが、すべてを理解したとき、私は目の前の景色に愉悦を感じずにはいられなかった。


気がつけば私は、の頭上に乗っていたのだ。


「キネホ」の頭が、シーソーの片方のように私のお尻を乗せたのだ。そのまま長い首を滑り落ち、たまたま上手く胴体にまたがることができた。

とにかく早く、とにかく便利だ。

左側に目をやると、デカハムスターも問題なく付いてきていた。柴犬はというと…


「…ああ。もうあんな遠くに…」

歩幅があまりにも違いすぎる。柴犬は遠くの方でひと休みし始めた。


(…ん? あそこって…)

しばらく走っていると、大きなビルが左手に見えてきた。よく見ると1階部分にはキネホの仲間のような生き物が何頭かいる。

(ああいうビルの1階って普通は駐車場とかだよね? あそこで飼ってんのかな?)

こんなに大きな生き物を飼っていたら変な匂いが充満しそうなものだが、この子たちからは特に匂いはしてこない。


ビルを確認したキネホとデカハムスターは徐々にスピードを落としていき、やがてビルの前で大合唱を始めた。


「ニャーン! ブルルル…ニャーン!」

「チュチュチューチュー! チチチ…」

私も負けじと参加した。

「お前たちは完全に包囲されている! 武器を捨てて出てきなさい!」


「与羽ちゃん!?」

2階の窓から栞里さんが顔を出した。驚愕の表情を浮かべている。

「栞里さん。ここが栞里さんが働いてるペットショップですか?」

キネホの背中に乗っているから2階の窓からはそれほど離れていない。会話は楽チンだ。


「そうだけど…うちから獄獣が3匹いなくなったんだけど、もしかして与羽ちゃんのしわざだったりする?」

人聞きの悪いことを言う人だ。


「いえ、私はただ街を散策してただけで…そしたらこの子たちがいきなり襲ってきて、そんで成り行きで今この子に乗ってます」

「どういうことなの…」


「ヘッ…ヘッ…ヘッ…」

柴犬はようやく追いついたようだ。

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笑顔の絶えない地獄です サムライ・ビジョン @Samurai_Vision

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