ガルシアのくだらない試み

第9話 ヨハネ、ガルシアに会う

「ちなみに栞里さんって、生きてた頃はなんのお仕事をしてたんですか?」

ワイシャツを着る栞里さんに聞いてみた。

「私はペットショップで働いてたんだ」


ほーう…ペットショップ…地獄では生前の仕事と同じような仕事をするはずだが…

「地獄でも…というか、地獄にペットショップってあるんですか?」

「うん。一人暮らしの人も多いからさ、ペットショップって結構需要があるらしいの」


地獄のペットショップ…見てみたいな。


「よし…それじゃ行ってくるね。鍵置いとくから、外に行きたくなったらかけといて。…あ、それと…」

栞里さんがふと言いとどまった。


「あっちにすごく険しい山あるじゃない? あそこには『赤い人』が収容されてるらしいから、近づかない方がいいよ」

はて?


ってなんですか?」

「目が緑だったり黄色だったりする人がいるって話…したじゃない? あの山には目が赤い人がいるの。ここに住んでる人とは比べ物にならないくらいヤバい人ばっかりらしい」


目が緑、黄色、赤…それってまるで…


「信号みたいですね!」

笑いながら言ったが、栞里さんは笑わなかった。ただもう一度「近づくな」と念を押して出て行った。




(…そんなにヤバいんだ)

ニコニコと穏やかな栞里さんが、あんなにも真顔で注意喚起しているのだ。好奇心で動くのはやめておこうと思う…


(でも暇だな…)

私はテレビをつけたが、「ズッキリ」という、朝に観るにはスッキリしない番組や、「地獄のみんなー! 元気ー?」という、子どものいない地獄に相応しくない教育テレビなど、いかんせんどれも楽しくない。

「お部屋探しはゲミゲミで♪」不協和音で合唱するCMを観たのを皮切りに、私は電源を切った。


(よし! まずは外に出よう!)

玄関を施錠し、とりあえず路上に出た私。

だが肝心の目的がない。例のペットショップに行こうにもどこにあるのか分からないし、竜二さんの家に行っても羊羹とお茶くらいしかないし…




(…おおっ?)

なんと奇遇な…が遠くの方にいた。なぜここに?

私は建物の物陰に隠れながら彼に近づいた。そして彼に近づき…




「えいっ!」

ギュッ

「あぁんっ…!!」




「…え?」

なんだそのリアクションは…!

「…てめぇっ!」

彼は涙目でこちらを睨んだ。

「…えっと…驚くかなーって思って…」

「…二度はないぞ。二度と尻尾に触るな!」


彼は尻尾を後ろ手で守りながらキレている。

「…ごめんなさい…まさか尻尾が性感帯だったなんて…」

極めて申し訳なさそうに謝ったつもりだが、余計に怒られた。


「性感帯とかじゃねぇ! だいたい知らねぇ人の尻尾をいきなり握るとか、お前よく今まで捕まらなかったな!」

「そんなに敏感なのに、なんでブラブラ出してるんですか。…もしかしてそういう趣味ですか?」

「お前どんだけ…はぁ…もういいわ。相手すんのもバカバカしいわ」


そう言うと彼は背中を向けて去っていった。

すかさず追った。

「昨日より口調がくだけてますね。それが普通の話し方なんですか?」

「あーそうだよ。てか付いてくんなよ」

よく見ると彼は警棒のようなものを持っている。取り締まりだろうか?


「私は清水与羽です。あなたにも名前はありますか?」

「あるに決まってんだろナメんな。俺はガルシアだバカ野郎」

浅草の大御所芸人のような言い方だった。


「ペットショップってどこにあるか知ってます?」

「知らねぇよ。そのへんのにでも聞けばいいだろ。てかさっきから邪魔なんだよ! 付いてくんなって!」

「ガルシアさん…」

「なんだ!」




じゃなくてでは?」

「…似たようなもんだろ。もういいだろ」

ガルシアさんは冷たく言い放った。


★ ★ ★


(相変わらずとんでもねぇやつだ…)

あいつに痛い目を見せられると思い引き受けた監視の仕事。

ついさっき、尻尾を握られるわ細かい誤字を指摘されるわで逆にひでぇ目に遭わされた…


「ピャヒィ! ピャヒィ!」

「こらポチ! そんなハレンチなことしちゃダメ! 殺されるわよ!」


清水与羽にどのような嫌がらせをしようかと考えてたとき、獄人の女が楽しそうに散歩させてるのが目についた。

そういえばあいつ、ペットショップはどこかとか言ってたな。




(…これは使えるかもな)

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