二階
尾八原ジュージ
二階
と。
とん。
ととん。
音がする。
目を覚ます。
二階か、いや。
もう階段にいる。
私は布団から出る。
廊下は暗くて冷たい。
階段の上は暗くて臭い。
ものの腐った臭いがする。
中程に、白い足首が見える。
骸骨のように痩せ細っている。
「姉さん、もう下りてこないで」
今さら部屋から出てこないでって。
何度も何度も何度も言っているのに。
なぜ生きてるうちに出てこなかったの。
どうして死んでから部屋から出てきたの。
あんたのせいで私、さんざん苦労したのに。
私の声は、怒気と怨みと、悔恨を孕んでいる。
とんとん、と足音が遠ざかる。足首が闇に消える。
私は溜息をついて、冷たい廊下を踏み、部屋へ戻る。
生きているときにあんなに呼んだのに、どうして今更。
私はもう、姉への同情も、流す涙も枯れてしまったのに。
二階にはまだ、死んで腐った人間の臭いがたちこめている。
私はいつか、この家に火を放ってしまう気がして仕方がない。
姉も二階も、無意味に老いた私も、すべて燃えてしまえばいい。
二階 尾八原ジュージ @zi-yon
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