第3話 呼び出し

ライザーは一通りのことを話し終えると会議室から出て行った。


それにしても面白いやつだった。見た目はつまらなそうな真面目人間といった感じだったが、とても強い個性をお持ちのようだ……




 ただ、ライザーの話を聞いていて思ったことがある。


ライザーはもちろんのこと魔族という存在は基本的に聖人をひどく嫌っている。それは父さんにも当てはまるはずだ。魔王なのだから当然のことだろう。


ただ、俺はどうだろうか。


元々この世界に生まれるはずのなかった存在が俺だ。


転生した俺には魔族とはいえど聖人に対する悪感情は一切ない。




 ただ、これを魔族の皆が知ってしまったら驚くことは間違いない。


なんなら軽蔑される可能性も十分にあり得る。




俺は果たしてどうするべきなのか。


答えを探そうにもどこにも見つからない。


何に頼ればいいのかも分からない。


自分のこれからするべき行動について考えているうちに俺は寝ていた。




「入れ」


「失礼いたします」


「わざわざすまないな。さあ、椅子にかけたまえ」


「ありがとうございます」




 アルベルが寝息をたて始めてから30分ほど経った頃だろうか、ライザーはレングスに呼ばれていた。場所は今日ライザーとアルベルが話していた会議室だ。




「やってあるか?」


 レングスはライザーともあろう男が忘れるはずはないとは思いながらも念のために確認する。


「もちろんでございます」


ライザーは会議室全体を覆う結界を作ったのだ。別に怪しい話をするつもりはないが、念のためだ。結界を作ることで、会議室の外にいる者たちは何も聞こえないし入ることもできなくなる。結界を破ることは可能だが破るまでは音は聞こえない。




「今日はすまなかったな。本当は私からアルベルには伝えるべきだったんだろうが」


「いえ、レングス様はお忙しいのですから仕方がありません」


「アルベルはどうだった?」


「そうですね、アルベル様は非常に興味を示しているようなご様子でした。私に質問をたくさんしてこられました」


「そうか、それはよかった」




 レングスは魔王とはいえどれっきとした父親だ。ましてやアルベルは初めて生まれた子供だ。愛情はあり得ないほどにある。しかしレングスは普通の魔族とは違う。魔王なのだ。アルベルに付きっきりでいるのは不可能だ。だから、ライザーに頼んだのである。




「ライザー、お前にはアルベルが聖人についてどう思っているように見えた?」


「おそらくですが特になんとも思っておられないかと」


 ライザーの予想は当たっていた。アルベルは聖人に対して何も思っていない。好きでもないし嫌いでもない。何故なら関わったことがないから。もし他の魔族たちが言っているようなクズ供なら関われば分かると考えていた。




「がーはっはっはっ!! 流石は我が息子だ!」


「血は裏切らないのですね」


 レングスは愉快に笑い、ライザーは苦笑を浮かべる。




 そう、この男、魔王レングスは聖人に対して悪感情を抱いていない。もちろん今まで関わったことのある聖人の中には、この世でクズな奴らランキング(編魔王)の上位に入るような者たちもいた。ただそれは一部であり、聖人全員がそうだとは考えていなかった。




 レングスにだって嫌いな者などたくさんいる。しかし、聖人という一括りで判断するのは間違っていると考えていた。




 今は亡き前魔王、つまりはレングスの父親はこの真逆だった。彼が魔界を治めていた時代には、各地で戦争が勃発し魔族、聖人共に甚大な被害を受けていた。こうも違うと本当に親子なのか疑わしいほどだ。




 レングスが聖人に対して悪感情がないと知っているのはライザーを含めた5人のみ。その5人は全員が最高幹部である魔進軍のメンバーである。




 何故5人なのか、簡単な話である。他の者たちに知られてはまずいからだ。他の者たちはこれら5人とは異なり、聖人に対して悪感情を抱いている。それは魔進軍のもう5人にも当てはまっていた。


もちろんそれぞれの悪感情の強さは違うが……




 魔進軍のメンバーはレングスにとっても信用できる者たちである。しかしながら流石に思想の壁は越えられない。彼らの中にある伸びきった根を引き抜くことはレングスといえど無理であった。




 愉快に笑っていたレングスだが、笑い終えたのか笑みは消え真剣な表情へと変わる。




「まあ、よい。ライザー、できるだけアルベルに気をかけてくれ」


「もちろんでございます。アルベル様の成長に繋がるのでしたら喜んでさせていく所存です」


「感謝するよ」




 レングスは組んでいた足を元に戻し、前屈みの姿勢になる。


「ライザー、本題を話そう」


「本題、ですか?」


 ライザーには全くといって心当たりがなかった。


「ああ、急な話なんだが――――」




「失礼しました」


「ああ、おやすみ」


 ライザーはレングスの話が終わったため会議室から出る。そして指を鳴らして結界を解除する。




 まさか、もうあれをやるとは……


常識的に考えたら時期としては早すぎる。


ただレングス様がおっしゃることも理解できる。


もしかしたら、いやほぼ間違いなくアルベル様は……

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ろくに魔法が仕えない魔王はありですか? @koyo0727

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