第4話 ボルド伯爵領の改革

 翌年の春になり、農地拡大と農作物の多種多様化が進み、加工食品の普及と相まって、領外からの商人が、ボルド領の商品を求めてやって来るようになった。

 初秋から始まった綿花の収穫により、準備が整っていた製糸工場と織物工場が稼働し、一月後には、衣服の縫製工場も既製服の生産を始め、まもなく領内に安価な新品の木綿服が出回り始めた。

 一連の産業拡大で、潤っていた領民達は、こぞって木綿服を買い求めて、その評判から領外の商人達も欲しがったが、商人への売買は、原料不足から綿花と引換えとしたので、大量の綿花が領内に持ち込まれ、各工場はフル稼働を続けた。各工場の機械設備に関心が集まったが、ボルド領の秘密として当分の間は秘匿とした。


 それから、同じく春には領主館の南側に、伯爵にも秘密としていた公園が完成した。

 公園内は、木々や花々が植えられ、小川や石畳の小路があり、いつの間にか小鳥やうさぎやりすの楽園となっていた。

 公園内には、茶店や売店もあり、芝生区画にはアスレチック遊具があり、子供達の人気スポットとなっている。


「まあ、こんな素敵な森を内緒で作っていたのね。びっくりだわ。」


「トミーくんのために作った庭を大きくしただけですよ。」


「休日に領民達が弁当を持って遊びに来ておるようじゃのぉ。商店街だけでなく、領都の名所ができたわい。」


「あっ、おうちの時計台が見えるよっ。」


 公園からは、昨年冬に伯爵邸に建てた5階建ての白亜の時計塔の大時計が見える。

 1時間毎に鐘が鳴ったあと、からくり人形が踊って、オルゴール曲を流す優れものだ。

 時計台の小型を商店街にも作った。時間を守る習慣を作るためだ。

 街の魔道具店では、柱時計や目覚し置時計ポケットに入る懐中時計が人気商品になっている。

 また、領都の職人街ではオルゴール作りが盛んに行われており、曲作りのために領外から楽師達が呼ばれて来て、ボルド領に音楽の文化をもたらしている。

 

 そんなふうに、ボルド領が賑わいを見せている中、隣地のバッカス候爵領から使者がやって来た。

 俺達も伯爵に呼ばれて、使者と対面した。


「ボルド伯爵閣下、領地の繁栄お見事でございます。我がバッカス候爵も関心しておられます。そして、私タルレめを交易を結ぶ使者として遣わした次第です。」


「海のあるバッカス候爵領とは、是非にも交易を望むところじゃが、お互いのために取り決めたい条件があるのじゃ。

 ソラ殿、説明してやってくれんか。」


「はい、伯爵家の相談役のソラと言います。隣にいるのは、同じくラビとリサです。

 条件とは互いに関税を掛けないことです。関税を無くすことで互いの商人が安価で品を購入できます。それは領民が買う値段も安価になるということです。

 関税分の税収減は、安価な品の売行き増で他の品も売れ、商人の売上増により売上の税で何倍にもなって返って来ます。」


「なるほど、自分の領地で生産したのと同じになる訳ですな。そして売上が増えると。

 良いでしょう、私は賛成します。最終決定は候爵閣下の了承を得てからとなりますが、取引の詳細を、あらかじめ決めておきたいと思います。」


「それでは、別室に各産業の責任者達を集めておりますから、互いの要望をそちらで。」


「ほう、なるほど、準備が早い。伯爵閣下の領地がめざましく繁栄するのも判りますな。」  


 バッカス候爵領との関税無しの交易が決まった。通商路を確保するための道路建設も取り決められた。特筆すべきは、この世界初の蒸気機関による鉄道が敷かれることになったことだ。バッカス候爵領の海産物を短時間で運ぶために決まったもので、建設資材はボルド伯爵領から提供する。

 また、この鉄道建設に合せ、伯爵領内の辺境タガール地方までの鉄道建設も行うことになった。この両鉄道路線は、1年後に完成。

 建設は地方区間毎に同時に開始されたことにより、早期完成を成した。また、その工事は地方に活性化をもたらした。

 ラビは、各駅ごとの駅弁作成を企画し、各地を駆けずり回っていた。領都だけは、リサが受け持ち、複数の駅弁を作った。


 鉄道の開通とともに、海産物だけでなく、人と物流が盛んになり、相乗効果で両領地の繁栄が顕著になった。

 そして、そんな両領地を羨む他領主達は王城を動かし、鉄道建設や工場機械の開示を求めて来たのである。

 そして対応を協議するため、再び、候爵の使者としてタルレさんが来ている。


「伯爵閣下、お久しぶりにございます。皆様もご壮健でなによりです。」


「おお、タルレ殿も子爵に昇爵されたとか、お祝い申すぞ。」


「これも伯爵閣下と皆様のおかげです。候爵領に発展をもたらしていただきました。」


「ところで本題じゃが、此度の王城からの要請、候爵家ではいかが考えておる。」


「はい、あまりにも身勝手な要請に候爵閣下も辟易しておられます。ソラ殿はいかがお考えでしょうか。」


「我々の領地にとって、全くメリットがありません。苦労した努力をただ取りするなど、ありえませんよ。要請なのですから、断りましょう。」


「しかし、王城からの要請、ただ断ることはできますまい。」


「条件は公爵家と伯爵家の領地の倍増。それぐらいの貢献になると思いますよ。それならば協力すると。

 もし渋るなら、二領の独立も考えると。」


「えっ、それでは我らが討伐されるのでは、ありませんか。」


「大丈夫です。力を示さなくては、付け上がられるだけです。ボルド伯爵領は、こんな日に備えて戦備が完了しております。」


「分かりました。候爵閣下にボルド伯爵家の意向をお伝え致し、王城へ返答致します。」



 王城からのさらなる要請は、領地の加増はできない。独立など認められないであった。

 それで放置した。業を煮やした貴族3家が勇んで2千の軍勢で攻め込んで来たが、装甲車50台で全滅にした。そうして、3領の領都に攻め入り、領主館を砲撃で領主もろとも跡かたもなく葬った。

 いずれこの惑星の王侯貴族は、文明進歩の妨げになると考えていたので、この宣戦布告は渡りに舟であった。

 この報復に震え上がった王城と他領貴族達であったが、俺は許さず、王城へ10日以内の降伏を勧告した。

 そして、期日まてに返答がされなかったので、王城へ攻め入った。

 王都は破壊せず、防衛に出て来た5千の軍勢を蹴散らし、王城に籠もった王族を城ごと砲撃で灰燼に帰した。

 その後、1ヶ月以内に降伏しない貴族には殲滅すると布告し、10家余りの貴族を同様に殲滅した。

 降伏した貴族からは、領地を没収し、全て代官を配して産業進行を図った。

 新たな国をソラリス共和国と命名し、代官による議会と、俺達が選出した大臣で政治を行なった。

 初代総理は俺であり、任期は5年で再選はなし。代官による議会の議長にはボルド元伯爵、法律裁判所長にはバッカス元候爵を任命し、副総理にタルレ元子爵を指名した。



 俺が総理大臣をする任期中に、農業その他の産業革命をやってしまわなければと、国内の改革整備を急速に進めた。

 広域鉄道網の整備、都市部近隣の道路舗装と乗合馬車の整備、国内各地の産業の開拓や振興など。  

 この結果、牧畜酪農地域、小麦などの穀倉地帯、綿花の栽培及び製糸工場地区、鉱山と製鉄精錬地区、サトウキビの栽培地区、甜菜糖の栽培地区、果樹栽培地域及びそれに伴うワイン農場地区、酒類は各地で個性ある麦酒や焼酎、ウイスキーなども作られている。

 それぞれに、地区内での競争が生まれている結果、商品の進化発展がめざましい。

 これには、俺が仕掛けたせいもある。王都で毎年恒例行事として、各種品評会を行なったから、優勝商品には王都品評会金賞などと泊がつく。商品も作った人も誇り高い栄誉を得る。

 ああそうだ。ラビ達が関与した駅弁の品評会もあったよ。審査するのに、食べきれなくて苦労したと、大食いのラビが言っていた。


 国防のため軍隊も作った。全部で8師団。派閥ができないように、1年毎にランダムで人事異動させてる。その方が師団の戦力の均衡も図れるしね。

 ちなみに異動は、各師団で公開ルーレットで決めさせている。はずれを引いても1年後に期待できるんだ。

 

 社会福祉は早くから取り組んだ。病院、職業斡旋所、孤児院、老人軽作業施設、母子家庭託児所などなど。各地の工場にも託児所ができてる。

 公共施設は、住民登録所や警察、消防所、などなど。


 5年間めいっぱいやった。ラビとリサも頑張ってくれた。キャシーは蔭の力だ。

 そして、5年経って、総理大臣を副総理のタルレに引き継いだ。



「おい、ソラ総理が辞めて寂しくなるなぁ」


「この5年、世の中がめざましく変ったからなあ。ソラ総理のおかげだ。」


「ねぇねぇ、ソラ総理ってまだ若いよね。

まだまだやれるのにね、もったいないわ。」


「噂じゃ、外国に行かれるらしいぜ。他所の国も良くなさるらしい。」


「あのお方は、神様みたなお方じゃわい。

儂らの暮らしを豊かにしてくだされた。」


「母ちゃんっ、公園も総理が作ってくれたんでしょう。」


「そうよ、学校だって、病院だって、みんなソラ様が作ってくださったのよ。」


「じゃ、やっぱり神様じゃんっ。」


 時として、子供の直感は真実を言い当てるのだ。俺は今、神のごとき役割を果たしているのだから。




【他の投稿のため、しばらく中断します】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙衛星駐在員 惑星ソラリス介入指令 風猫(ふーにゃん) @foo_nyan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ