第3話 魔獣狩りと収穫祭



 俺は、魔獣の出没頻度の高い順に回ることにして、伯爵夫人に同行した騎士達の内から弓の名手のナスカ、ハルバード使いのボルバそれに若手の三人、クラン、ボッチとアークの5人を連れて行くことにした。

 リサとラビにも、各々二人ずつ護衛兼助手が付けられた。


 俺はまず、キャシーに命じて、21世紀の日本の軽装甲機動車(5.56 mm機関銃)、96式装輪装甲車(40mm擲弾)、16式機動戦闘車(105mmライフル砲)を各1台製作させた。

 なぜ21世紀のものかというと俺が幼少期にプラモデルマニアであって、これらの模型を作っていたからだ。

 そして、10日間5人にみっちり運転と銃火器の使い方を訓練した。



 魔獣の出没頻度が高いのは領都バカラからもっとも遠方にある辺境タガール地方であり馬車で40日以上掛かる。

 俺達は、街道を通らず、キャシーに最短路を調べてもらい草原を進んだ。

 その結果、8日で到着した。平均時速60kmで夜間も3時間速度を落して走行した結果だ。この間に見掛けた魔獣を倒し、射撃訓練にもなったし、運転技術も向上した。

 もちろん倒した魔獣は、倒し放しだ。


 着いたラクスル村は、魔獣狼の群れが村の木製の防壁を今にも破らんとしているところだった。左側から3台が並走して機銃掃射を浴びせる。たちまち500匹余の魔獣狼の群れは蹂躙され、俺以外の2台は逃げた魔獣狼を追って森へと入って行く。


 村の入口を開けてもらい、中に乗りつけると、村長に手短に被害状況を聞き、怪我人の手当をする。俺の運転手のアークには消毒と血止めをさせて、俺は重症者からキャシーの補助を得ながら治療していく。

 酷いあり様だ。ざっと50人、中には腕や足を噛みきられた者もいる。それでも、噛みきられた腕や足を縫合して、キャシーが細胞再生を行なったから、無事に回復するはずだ。

 全員の治療が終わる頃、追撃していた2台が帰って来た。森には魔獣狼以外にも魔獣熊や魔獣虎がいたとのこと。木々が邪魔で装甲車では入って行けないので、明日からは2人を防衛に残して4人で森に入ることにした。

 装甲車には、食料も大量に積んで来ており、村に引き渡すととめに、炊き出しを行なった。


 次の日からは、運んで来たセメントを使い、木で作った防壁の外側に川砂利とセメントで高さ4mのコンクリート壁を、村人に教えて作らせた。手押し1輪車10台と96式装輪装甲車が資材運搬にフル稼働だ。

 森での狩りは15日間で入口から10kmまで入り、魔獣狼102匹、魔獣熊43頭、魔獣虎36頭を狩って、森の入口近くにいる魔獣達は、ほぼ皆無となった。防壁のコンクリート工事も終了し、補修用に手押し車1台とセメント5袋を残し、次の村へ向かうことにした。


 村を出たあと、アレク達に『資材がちっとも減ってないんですけど。』と言われたが、俺の魔法だと言っておいた。キャシーが原子から組成するから魔法と言えば魔法なのだ。

 辺境にある4つの村を2ヶ月で回り、帰路の5ヶ所の村で防壁を作ると、3ヶ月ぶりに領都へ戻った。



 領都周辺の農村ではリサの指揮の下、土壌改良や灌漑用水路の建設が進み、牛馬を使った土起こしや、等間隔の作付けがなされて、多種多様な農作物が栽培されていた。

 一方、ラビの方は蕎麦や小麦での乾燥麺や酵母を使ったパン焼き、干した果物や茸やもやしの栽培が広められ、派生して菓子パンやピザ、各種料理が広められていた。

 従来のパンは、ライ麦から作られる硬い黒パンが主食であったから、ほとんど革命的とも言える。

 発酵食品も大豆醤油や味噌、味醂、チーズ作りが始まっていて、秋の野菜収穫後には、各種漬物作りが予定されているそうだ。

 加工食品は、秋の収穫!以降になるのは仕方ない。

 一番のヒットは、二十日大根ともやし、茸類で早くも市場に出回っている。市場では、新しい作物なので食べ方や料理の方法が口頭で伝えられ、市場の人達は皆、暗記しているらしい。

 小麦はまだ作付けが始まったばかりだが、キャシーが1万tも作ったとのことで、各村にも豊富に出回っているとのこと。

 パン焼き用のオーブンが凄い売行きで、鍛冶職人達も休む暇がないと聞いた。

 総じて、ボルド伯爵領は空前の活気で、秋の収穫後に益々期待が高まっている。


 領都に戻った俺は、農作業用のスコップ、ツルハシ、草刈り鎌や脱穀機を発注し、全て伯爵家買上げとした。また、魔獣狩りの武器として、クロスボウとバリスタを発注し、これも全て伯爵家買上げとした。

 大量発注に鍛冶職人達は、俺の指導で分業をするようになり、多勢の職人が集団で作業をする工場とも言うべきものができ始めた。


 開拓地には、水車を導入し用水路を巡らせ農地を広げている。また、水車を導入できない街中には、蒸気ボイラーを導入し、初期の産業革命を起こしている。


 そうしてうちに、秋の収穫が始まった。

農民達だけでは手が足りず、臨時で町から女や子供達が駆り出された。

 そして加工場の稼働である。町に溢れた野菜などは漬物として保存加工される。

 春まで野菜不足にならないだろう。


「ソラ殿、ちと相談したいのじゃが良いか。」


「なんでしょうか、伯爵。」


「うむ。収穫祭をやりたいと思うてな。

なにか良い祭にするプランはないかのう。」


「領都の広場で料理の炊き出しをして、舞台で歌や踊りをやって貰ったらどうですか。

 それから収穫祭にちなんで、作物の種類ごとに作物の出来ばえを競わせて、優良な作物を作った人には、賞状と賞品を上げたらどうでしょうか。」


「その作物の優劣を誰が決めるのじゃ。」


「誰でも良いのです。皆が見ていますから、ひいきなどできないと思いますよ。

 何人かの村長と街の著名人を指名すれば、いいのではないですか。」


「うむ、そうしよう。まず一人はソラ殿じゃな。」 


「俺より、リサが指導したのですから、彼女にしてください。」



 こうして、秋晴れの日にボルド領都の収穫祭が開かれた。

 広場には舞台が、地面にはむしろが敷かれた会場の周囲では、炊き出しの大鍋が煮えたぎって、鍋や無料の酒や飲物の供給場所には行列ができている。

 舞台では、ボルド伯爵の挨拶が始まった。


「皆の衆、今年の秋は大豊作じゃっ。これも皆で頑張ったからじゃ。今日はその祝いじゃから、大いに食べて、まあ少し飲んで楽しむようにしてくれ。」


『はははっ領主さまぁ、ケチくせいこと言わねぇでっ。』


「「「「「わはははっ。」」」」」


 伯爵が降りた舞台上では、子供達の合唱や村単位の踊りが披露され、歓声が上がっている。そうして、皆に料理や飲物が行き渡り、会場が落ち着いた頃に、いよいよ収穫作物の品評会が始まった。

 持ち込まれたおばけカボチャや、二なりの大根に会場がどよめき、奇抜な形の野菜に笑いがもれる。

 最後にリサが審査の発表に段上に上がると割れんばかりの拍手や掛け声が鳴り止まず、しばし、リサが唖然として立たずんでいたのが印象的だった。

 みんな、リサの功績をたたえたのだろう。

そんなふうにして収穫祭は、大成功だった。




「ソラ兄ちゃん、遊んで。」


 そう言ってトミーくんが危なっかしく駆け寄っ来る。転びそうなところを、間一髪抱き上げた。


「坊っちゃん、急に駆け出すなんて危ないじゃないですかぁ。」


 慌てて、追いかけてきた侍女さんが、膝に手をつき、はぁはぁ息をしてる。

 男の子は、どこの人類も腕白だなぁと思わず微笑んでしまう。


「よし、ブランコしようか。」


 伯爵邸の庭に作った小さなブランコと、小さな滑り台。俺の身長より高くは作れなかった丸太とロープの手作りの遊具だから。


「あら、ここにいたのね。」


 伯爵夫妻が仲良さげに歩いて来た。


「ソラ殿、すまぬの〜。子守までしてもらって。はははっ。」


 ちっとも済まなそうではないが、夫婦揃 

っての庭の散歩は楽しそうだ。


「いえ、暇してましたから構わないです。」


「そうじゃ、今年の税収じゃが去年の5倍を超えとる。これもソラ殿達のおかげじゃ。」


「あなた、そんなに増えたの。じゃ、ドレスを1着新調してもいいかしら。」


「いいともいいとも、エミリーには結婚以来苦労を掛けた。ドレスなど何着でも作るが良い。」


「伯爵夫人、チャンスですよ。100着ぐらい作って貰えばっ。」


「あら、そんなにあったら探すのに困るし、体型が変わったら、もったいないわっ。」


「夫人、そう言うのを貧乏性と言うのですよ。」


「まあっ、うふふっ(はははっ)。」


「ところでソラ殿、館の南側と工場地区に、作っておるのは、なんなのじゃ。」


「南側のはできるまで秘密です。新工場は、今年植えた綿花の綿糸工場と織物工場です。来年には安価な綿の布の服ができますよ。

 それも仕立て済みの服が。」


「まあ、大きさの違う人は困らないの。」


「大きさを3〜4種類作りますから、心配ありません。機械で布を織ますから、今までの何倍も早く布ができますし、ずっと安価で皆が買えるようになりますよ。」


「まあ、素敵。女性がとても喜ぶわ。だって、皆、古着ばかり着ているんですもの。」


「伯爵、話は変わりますが、ここから北の海がある領地はどなたの領地ですか。」


「バッカス候爵領じゃが。」


「いずれ伯爵領に交易を求められたら、互いに関税を掛けない契約をしてください。」


「 · · · 。」


「お互いの領産品に関税を課さないことで、品物が安価で大量に流通します。そして、商人が潤った分は、他の商品の取引の資金に回り、領内の繁栄に繋がります。

 商人の潤った分、売上による税収も増えるのです。」


「そうなるなら、互いの領地にとって良いことづくめじゃわい。」

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