第2話 領都バカラへ襲撃突破
ホルド伯爵家の領都バカラへは馬車で20日の道のりだと聞いたが、途中の村で馬車を預けたので、車だけだと3倍の速さだから、1週間で着けるだろう。
車は、ベッドを畳むとゆったり6人掛けの席が増やせる。騎士さん達は交代で二人掛けの助手席に来て、監視レーダーと双眼鏡で、前方の警戒にあたってもらっている。
ガルーダ男爵以外は、皆20代の若者で怪我をした三人以外は、ベテラン騎士のようだ。三人は、21才の陽気なクラン、20才の真面目なボッチとおとなしいアークだ。
リサの方が年上と知り驚いていたが23才のリサは途端に姉御風を吹かせ、大きな態度で三人の世話をやいてる。
他の6人は、隊長格のロンドと副長格のマック、弓の名手だというナスカ、ハルバードの使い手ボルバ、短剣投擲のドット、二刀流のサムがいる。
ところでロンドに聞いたのだが、狼の群れに襲われた場所は、なにか特別なことがない限り、通常は獣が出る場所ではないそうだ。
この道中は、数日前の夜営地でも通常いない毒ヘビが深夜馬車に忍びより、危うく夫人達に危害が及ぶところだったとのこと。
なにか作為的なものを感じると言っていた。
3日目の夜営地に着くと、間もなく監視レーダーに1人か1匹夜営地に近づくのが確認された。それは俺達の夜営地が視認できる位置まで来ると暫く停止し、こちらの様子を伺っているようであった。俺達は何気なく夜営を行い平静を装うと、そいつは一直線に引き返してレーダーの圏外に消えた。
「どうやら、盗賊かなにかのようですね。」
「ロンド、盗賊とは限らないのでは。」
「ソラ殿、では何者だと言うのですか。」
「伯爵夫人とトミーくんを狙う者達、あまりにもタイミングが良すぎます。
ガルーダ男爵、心当りはありませんか。」
「うむ、もしかしたらザルド子爵の手の者達かも知れぬ。伯爵閣下はお年を召し、病床にあられる。此度里帰り中の夫人とトミー様が急遽、お帰りになるのも閣下の病状が悪化したからだ。」
「なるほど、お家乗っ取りですか。では討伐しなければなりませんね。夜営は中止です。車に乗ってください。敵中を突破します。」
すぐに荷物をまとめ、車を発進させる。10km程前方で50人ばかりの騎馬兵出会うが隊列を撥ね飛ばし一気に走り抜けた。。
「ひゃぁ、20人くらい撥ね飛ばしましたよっ。やつら覆面をして鎧を服で隠していますが、ありゃ騎士達に間違いありませんね。
ここにいるなら、ザルド子爵の騎士達ですぜっ。」
「皆、夜営は無しだ。このまま領都までノンストップで行くよ。ラビ、リサ、交代で運転を頼む。皆も交代で寝て、休養を取ってください。」
それから2晩、車中でレトルトのカレーやシチュー、カップ麺などを食べながら、昼夜走行した。領都に近づくにつれ、行き交う馬車が増えたが警笛を鳴らし追い越した。
そして、領都の門に着くと、伯爵夫人が『謀反ですっ、直ちに通しなさいっ。』と、叫び、驚く衛兵達をあとに、領主館へと乗りつけた。
領主館に入ると、ザルド子爵が慌てて出迎えに来た。
「これは、エミリー様。ずいぶんと早いお帰りで。」
「途中でザルドの騎士達に殺されかかったわ。覚悟はいいでしょうね。」
「はっはっは、なにをばかなっ。かかっ」
そう言った途端、ザルド子爵の首が宙に舞った。俺が切り捨てたのだ。こういうのは、下手なやり取りなどせず、主犯を殺してしまうのに限る。証拠などなんとでもなる。
現に俺達に切り掛かろうとしていた子爵の騎士達は唖然として立ちすくんでいる。
彼らは、統率者を失いその場で投降した。
駆けつけた領兵が牢に連行した後、ハルヒ伯爵の病室に向かった。
病室に入ると、すかさず着陸艇のキャシーから通信が入る。案の定、毒を盛られている。解毒処置を施したそうだ。解毒の薬を装い栄養ドリンクを飲ませた。
「薬を飲ませました。明日の朝には回復するでしょう。今夜はこのまま寝かせておいて大丈夫です。
ところで、伯爵閣下に毒を飲ませたのは、誰かな。」
そう言って室内の者を見渡すと、侍女の一人がぶるぶる震えている。
「家族を、家族を殺すと脅かされて、仕方なかったのです。」
『嘘です、嘘をついています。』
キャシーからの通信だ。嘘発見器の反応だろう。
「誰かこの人の家族を知ってる?」
「父親らしき人にお金を渡しているのを見ました。」
「帰る家などないようで、宿下がりの日に街を彷徨いているのを見ました。」
「だそうだが、家族って誰かな。」
「父親です、いつもお金をせびりに来るのです。」
「その父親はどこに住んでいるの。そんな父親なら、殺された方がいいんじゃないの。
幾ら貰ったんだい。正直に言えば命までは取らないよ。」
「 · · 金貨10枚です。」
「たった金貨10枚ですか(10万円)。職を失う方が大きいでしょう。」
「子爵様が雇ってくださると。」
「嘘に決まってます。伯爵殺しの証拠を生かして置くとでも思ったのですか。」
「牢に連れて行きなさい。子爵の謀反の証人です。」
別室に戻った俺達に、伯爵夫人が改めて礼を言って来た。
「なんてお礼を言えばいいか。ソラさん達には、感謝してもしきれません。
急ぐ旅でないと伺いましたので、どうかしばらくこの館にご滞在ください。トミーも喜びますので。」
「そうですね。俺達も落ち着くまで気がかりですし、しばらくやっかいになります。」
翌朝、ホルド伯爵が意識を取り戻した。
「おお、エミリー、トミー。儂はどうしたのじゃ。」
「旦那様は、ずっと眠っておられたのです。」
それから、ガルーダ男爵が事の経緯を話し、俺達のことも説明した。
「そち達は、ボルドー家にとって、命の恩人じゃ。この恩は忘れんし、なにかそち達の望む礼をさせてもらうぞ。
この謀反のケリがつくまで、ゆっくり領都の見物でもしてくれ。」
「ええ、ありがとうございます。そうさせてもらいます。」
次の日、ボッチとアークそれに侍女のテレサさんの案内で、さっそく街に出た。
領都のメインストリートには、3階建ての商店が建ち並び、車道と歩道があり、なかなかの賑わいを見せている。
日用品の店や食品の市場を見て回り、この星の生活レベルを調査した。
そして、意外な店を発見した。
「テレサさん、この店は置物にしては値段が高いようですが、アンティークとかそういうものですか。」
「いいえ、ソラ様。ここは魔道具の店です。入ってみましょうか。」
『カラン、カラン。』入口を入ると扉にはベルなどないのに店の奥の方で音が鳴った。
「いらっしゃい。」
若い女の子が奥から出てきた。
「ちょっと、魔道具を見せて欲しいのだけど、説明をしてもらえる。」
「構いませんよ。分からないことがあったら聞いてください。」
テレサさんが並んでいる魔道具の使い道を説明してくれる。たまにテレサさんが知らない魔道具もあり、店の女の子が説明してくれた。
火を使ったランプやコンロ、チャッカマンの類いや製氷機や冷蔵庫、領主館で見た水洗便器もある。水道のようなものは、量と経費の問題で作れるが売れないそうだ。井戸のポンプはあるそうだし、魔法で水を生むまでもないということらしい。これらは魔獣から採取される魔石で稼働するのだとか。
そして驚いたのは、これら生活魔法以外に、極大魔法を使える魔法使いが10万人に一人くらいだがいると聞いたこと。
王城には宮廷魔法使いが数人いるそうだ。
俺達の知らない魔法という知識外のことはこれから詳しく調査する必要がある。
ザルド子爵の謀反を王城へ報告した結果、2週間後には監察官一行が来て、毒殺を図った侍女や襲撃を行った子爵家の騎士達の取り調べを行った。
その結果、毒ヘビや狼の襲撃も彼らの仕業と判明した。監察官の一人は、真偽を見抜く魔法使いとのことで、尋問を受けた者達は、隠し切れなかったようだ。
監察官はあらかじめ、謀反の事実を確認できた場合の処分を指示されて来たようで、騎士達は、犯罪奴隷。自白した侍女は、賄賂の没収と解雇処分となった。
そして、襲撃に屈しなかった伯爵夫人には白金貨10枚(1千万円)がくだされ、ガルーダ男爵は子爵に昇爵され、後任の男爵はボルド伯爵が任命することとなった。
男爵の任命権を任されることは異例とのこと。たぶん、王家が任命したザルド子爵が謀反を起こした王家の詫びだろうとのこと。
伯爵夫人は、下賜された白金貨を全て俺にくれようとしたが、ガルーダ男爵と騎士達10名各々に金貨50枚(50万円)、俺達三人で白金貨2枚(200万円)、伯爵夫人が白金貨3枚として分配してもらった。
『夫人も偶には伯爵に気兼ねなく、ドレスを仕立てられてはいかがですか。』と言うと、『まあ、繕いが見られたかしら。』と言って笑っていた。伯爵夫人なのに質素なドレスで倹約して苦労しているのがわかったから。
それで伯爵から、領地の経営状況を聞くと領都以外では魔獣による被害が発生していて経営を圧迫しているとのことだった。
俺達は、暫く当地に滞在し、ボルド伯爵領の文化レベル向上と伯爵家の財政改革に乗り出すことにした。
俺達三人は分担し、魔獣対策は俺、農林水産業はリサ、衣食住の生活改善はラビが担当して行うこととした。キャシーは全員の支援だ。さっそく各々現状視察を開始した。
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