宇宙衛星駐在員 惑星ソラリス介入指令

風猫(ふーにゃん)

第1話 惑星ソラリス介入指令

 西暦6023年、俺は、アルファ星域の宇宙ステーション衛星D51の駐在員となって、25年が経つ。

 地球に誕生した人類は、細胞再生のメカニズムを手に入れ、ほとんど不老不死の生命を維持して、宇宙開拓へと乗り出した。

 無限に広大な宇宙である。幼少期の300年余を地球で過ごすと、各々割り当てられた星域の開拓に派遣されるのである。

 宇宙ステーションでの任務は、星域の生命活動を感知して、その文明進化の状況を地球のマザーコンピューターに送ることだ。

 俺はまだ未知の星域に来て浅く、探索すべき惑星は数知れない。


 宇宙ステーションでの暮らしは、孤独かと言うと、そんなことはない。ステーションのメインコンピュータである『ララ』は機械体だが、部下として好みの『AI』を製作できるし、俺も10体の部下を作った。


 人類型生命体の存在する惑星『ソラリス』のデータを送ったあと、一週間後に任務初の指令が来た。『ソラリスの人類は地球人類と共存共栄可能な生命体であるから、知的レベルを向上させて、地球人類と接触させられるように教導せよ』というものだ。

 いわゆる『惑星介入指令』である。


 

「なあ、ララ。いったいどうすりゃいいんだっ。介入なんて初めてだし、怖いな。」


「ソラ司令、人類型生命体への教導介入は、直接接触による調査から始めなければなりません。私は惑星生命体の探索を継続しておきますから、司令はソラリスへ行き、現地の人類と接触を図ってください。

 心配することはありません。地球の歴史でいう、原始時代か中世か、或いは、近代かのいずれかですから、冒険のつもりでお出かけください。」


「ここからじゃ、偵察衛星で映像を見るのは無理ってことなのか。」


「途中に、流星群の環状帯があり、映像電波の受信は困難です。当ステーションの移動は惑星生命体光学探査の関係上、移動すべきではありません。」


「はぁ、小型着陸艇で接近探査しろってことか。わかったよ、やるよ。」


 小型着陸艇の乗員は4名。俺のほか、医療AIを1名と戦闘AIを2名を連れて行く。

準備を終え、俺は惑星ソラリスへ向かった。



 小型着陸艇で惑星ソラリスの周回軌道に乗ると、ドローン型偵察機を飛ばして、惑星ソラリスの人類を映像で見た。

 地球の歴史でいう中世のような石造りの城壁都市があり、人類は地球人類に酷似している。俺達が紛れ込んでも何の違和感もないだろう。


「司令、この星はまるで地球ですね。おまけに剣や槍の中世そのままですよ。」


 地球で生活したことはないが、情報知識を持つうさぎ獣人AIのラビが言う。


「海も山もあるし、森の植物相も類似してます。ただ、動物は爬虫類の大型種や凶悪なものがいるようで注意が必要ですね。」


 伊達メガネを掛け女医をイメージした医療AIのキャシーが、解説する。


「ラビは耳を隠さなきゃだめね。そんな長い耳の人はいないようよ。」


「うん、大丈夫よ。縮めちゃうから。」


 りす顔の西洋美人をイメージしたAIのリサが言うと、ラビは耳を人並の大きさに縮めた。ちなみにAI達は、どんな人類型生命体にも紛れ込めるように変身機能を備えている。


「司令、大気の分析データが届きました。

ほとんど地球と変わりませんが、酸素濃度がやや高いようです。植物の占める比重が高いからと推定されます。」


「現地潜入に全く支障なしか。ラビとリサは現地の武器に合わせ、剣術を睡眠学習しておくようにな。」


 しかしこの時、俺の指示が適切でなかったことが間もなく判明する。ラビの学習した剣術はフェンシングで、リサは西洋式の直剣、そして俺は、日本刀の剣道だった。




「それじゃあ覚悟を決めて、第一次遭遇と行くか。キャシー、城壁都市から適当に離れた着陸座標を決めてくれ。」


「了解。城壁小都市の郊外に着陸します。」


 着陸艇は、森の近くの草原に着陸した。

 キャシーは、光学迷彩で保護した着陸艇に残り、俺達の後方支援に当たる。

 俺とラビとリサの三人が、惑星ソラリスの大地に降り立った。


「司令、西に向かってください。1km先に救助が必要な現地人がいます。」


「えっ、なんだよその設定。いきなりじゃないか。」


「遭遇は、恩恵を与える救助に限ります。急いでください。」


 着陸艇の外に出ると、爽やかな風と濃い草木の匂いがした。それに凄く体が軽い。

 そうか、気にしてなかったがこの星の重力は、宇宙ステーションで標準設定している地球の重力の約半分だった。

 いつもの倍の跳躍力を備えて、草原の中を三人で疾走する。たぶん、マラソン程度だが100m12秒くらいの速度だと思う。


 あっという間に、遭遇地点に辿り着いた。

 1台の乗用馬車が狼のような群れに襲われている。鎧を付けた者達10人が、馬車を護って群れと戦っているが、狼の群れは100匹以上いるようで、かなり劣勢だ。

 俺達は、現地語通訳で『加勢しますっ。』と言って群れに飛び込んだ。

 三人で次々と狼達を倒していく。瞬く間に10匹ずつを倒し、さらに10匹ずつを倒した頃には群れの半数近くが死体となり、ボスらしいのが遠吠えを吠えると、逃げて行った。

 狼の群れが遠くまで逃げ去ったのを見届けると、馬車の方を振り向き様子を伺った。

 三人ばかり倒れている。俺達は近づき、声を掛けた。言語は自動翻訳装置で翻訳されている。


「まだ生きてますか。」


「ああ、だが助からん。」


「俺達が治療します。」


 そう言って、三人で各々倒れている人に近寄り、しゃがみ込む。

 俺が見た者は、手足も咬まれているが、致命傷は喉を咬まれた傷だ。リュックから消毒液や血止薬を出し、傷口を洗浄して包帯を巻いた。そして化膿止めの入った栄養剤を飲ませる。

 その間に、隠密モードで上空に来ていた着陸艇から、細胞再生光線を照射して内部の血管や内臓の破損を治療した。治療は傷口が残るように留めた。

 俺達が治療した三人は、意識を取り戻したが大量の出血をしており、担架でもないと運べない。


「なんと、君達は治療もできるのか。ああ、お礼を言うのが先だった。助成忝ない、危ないところをほんとうに助かった。」


「いえ、近くにいたものですから。それより、皆さんはどういう方達ですか。」


 中年の恰幅の良い男が話し掛けてきた。

 その時、馬車の中から女性と手を引かれた幼い男の子が出てきた。


「おお、姫様。ご無事でなによりでございます。」


「ガルーダ男爵、その方達が助成くださったのですね。

 危ないところをありがとうございました。私は、ホルド伯爵家の妻エミリと言います。それにこの子は、長男のトミーです。

 トミー、あなたもお礼を言うのよ。」


「ありがとぅ。」そう言って母親の後ろに隠れてしまう。まだ幼く3才くらいだろうか。


「旅の途中のソラと言います。こちらはラビとリサです。」


「ソラ殿、我らは伯爵家の領都に帰る途中でこざってな。このあり様では歩いて近くの村まで行くしかござらん。もしできれば、護衛を頼めぬか。」


「ええ構いませんよ、急ぐ旅ではありませんから。それより、馬も逃げてしまったようですし、向こうに俺達の乗り物がありますから、それで行きましょう。ラビ、リサ、運んで来てくれ。」


 俺は密かにインターホンで、キャシーに大型キャンピングカーを原子組成で作るように命じていた。ラビもリサも聞いている。

 すぐに二人は駆け出して行って、間もなくキャンピングカーで乗り付けて来た。

 乗り付けられたキャンピングカーを見て、皆さん驚愕しているが、まず寝かせている三人を車内のベッドに移した。

 この大型キャンピングカーは、8人乗で車内には8人のゆったりした座席と2段ベッドが左右で4つある。

 車には、伯爵母子とガルーダ男爵と俺達。伯爵家の馬車に護衛の者達6人が乗り、馬車を先頭に領都に向かって出発した。


 初めは、車内の設備と乗り心地に驚いていた伯爵夫人達も、ラビが飲物や菓子などを配りかいがいしく世話をすると、トミーくんがお菓子を貰ってご機嫌となり、賑やかに談笑を始めた。

 リサは、怪我人の世話をしている。皆、少しは動けるようで、流動食や飲物を与えられて元気にしているようだ。  

 トミーくんは、お菓子に飽きると外を見たがり、助手席に来たがったので、男爵が抱いて助手席に座った。

 車内には、カーステレオから静かなBGM曲が流れ、トミーくんは気持ちよさそうに寝てしまってベッドに移した。


 4時間程走ったところで、川があり夜営に良さそうな場所があったので、少し早めだが夜営することにした。

 と言っても、バーベキューコンロと折りたたみ椅子を出し、冷凍庫から焼き鳥と焼き肉セットを出して焼くだけだが。

 車のベッドにいた三人もだいぶ回復したようで、バーベキューの席についた。

 車には周囲の監視レーダーがあり、人や獣が周囲2km以内に入ると、警報が鳴る。


 ガルーダ男爵と騎士さん達には、酎ハイをサービスで出した。トミーくんは、ラビの膝の上でご機嫌で焼き肉を食べさせてもらっている。


「あらあら、トミーったら、すっかりラビさんに甘えて、しょうがないわねぇ。」


「ラビは子どもぽいのです、身体も子どもなのですっ。」

 そう言って、胸を張るリサに皆が笑い声を上げる。二人ともまだ大人には見えないから。

 お腹いっぱい食べて、馬車に二人残してキャンピングカーのシートで寝た。ベッドには伯爵夫人とトミーくん、ラビとリサが一緒で寝たから、余裕だ。

 翌朝は、焼き立てパンにベーコンエッグ、トマトサラダにクリームシチューのメニューに皆驚愕しながら、もりもり食べていた。


 出発の際、怪我人の三人は、かなり回復していたが念の為に車内のシートに座らせた。

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