カクヨムをワタシ色に染めたい

脳幹 まこと

カクヨムをワタシ色に染めたい


 ピ〇ミンというゲームがある。赤いやつや青いやつ、黄色いやつを沢山引き連れて、モノを運んだり、自分達よりはるかに大きい生物と戦ったりするというものなのだが、私はやったこともないゲームの、そのイメージに強く惹かれている。


 儚い命、懸命に戦う命の眩しさ、という性質もあるが、それとは別に「数の多さで圧倒する」という側面が、頭の中の悪魔的な回路を刺激するのだ。


 ある日、刺激量がある閾値いきちを超えた。


 レベルアップのSEとともに、現在進化を遂げている「自然言語処理AI」を基にすれば、機械的に生成された自作小説がカクヨムの新着欄を常に埋め尽くすという行動が出来てしまうのではないか、という閃きが脳裏に浮かんだ。


 例えば、筆の乗りが早い人は日に2~3本投稿も出来るだろうが、(文法を十分に学習した)AIが作り出す文章量はそれを遥かに上回るだろうことは容易に予測できる。

 1作品1秒は流石に早すぎるにしても、1分もあれば1000文字クラスのショートショートであれば作文出来るだろう。


 その後、タグ付けや、企画への参加、一言コメント、あらすじを添えて投稿するのを自前でやるにしても(この操作もブラウザ操作を覚え込ませることで、ある程度自動化できるだろう)、作文と合わせて3分程度のはずだ。


 3分で1つのショートショートが出来上がる。

 すると、これを1日中(睡眠時間、休憩時間等を考慮し、約12時間)やると、計算としては20作品×12時間=240作品が投稿可能になる。


 寝ている間も、筆の乗りどころの話でないAIライターさんは小説を延々と執筆し続ける。1分で1作品なら、1日で1440作品。文字数でいうと144万文字。

 この時点で、大半の小説家の総作品数を上回っているだろう。しかも、このライターにはネタ切れという概念が存在しない。

(対して人は12時間しか動けず、作業量も遥かに少ない)

 こうなると、どちらかというと投稿者ヒト側のせいで公開が遅くなっている始末なのだが……


 これでも十分に優れているとは思うが、カクヨムをワタシ色に染めるというのはまだまだ過言であろう。




 本題。

 この小説群によって、カクヨムの新着小説欄をジャックにするにはどれだけの労力がいるのだろうか。


 今しがた、新着小説欄の動向をしばらく観察してみたが、カクヨムの新着小説欄(30作品)表示はおよそ15分周期で切り替わっているように見えた。

 これは単純計算で30秒に1作品上がってくる計算になる。


 流石にこの欄を常時自分の作品で完全に埋めることは出来ない(どれだけ迅速に投稿したとしても、一度投稿された作品は他作品を30作品投稿するまでは残ってしまう)が、例えば、自分の作品が半分(15作品)は存在しているという状況は作り出せる。

 簡単な話で、新着欄が1巡(15分経過)するまでに30作品投稿すればいい。すると、誰かが1作品投稿した時、自分もまた1作品投稿したことになって、およそ半分占有することが出来るのだ。


 するとどうなるかというと、誰かの新着小説の目に入る時間が半分になり、残り半分が自分の小説を見る時間に変わることになる。


 モラルの面からすると、まあ、不純極まりないものだ。


 しかも、これらの小説は単純なスパムなのではない。一作一作が別物であり、ある程度きちんとした文章構造を伴っている。勿論盗作でもない。よって、AIによって連発されるマシンガン・ノベルを弾くことは容易に出来ないはずだ。



 ただ、一時的にであれば、人力でやれないこともないし、所詮はウケを狙った荒らし的な存在でしかない。

 本気で「ジャックした」と言い張るのならば、ある程度の期間、継続的に新着小説欄を埋め続ける必要がある。例えば、カクヨムは3月で6周年を迎えるので、6年間上記の作業(新着小説欄を半分埋める)を実行し続けるとする。


 そうなると、どれだけの準備が必要になるのかというと


①作品を用意する。1分で2作品投稿ペースなので、1日で2880作品、1年を365日として換算すると、6年で630万7200作品となる。

 上述のAIライターさんの性能では12年かかるが、これはPCを何台も購入して並行で実行したり、スパコンを使えば、もっと早く実現できる。

 今回はPC4台体制で稼働することを前提とすると、3年で作成が完了できる。


②630万7200作品の投稿準備を整えておく。

 タグ付けや一言コメント、企画参加などを行うのだが、元々の前提でいくと、投稿準備(人力)に2分/作ということなので、30秒間隔での投稿は物理的に不可能である。

(すべての作品の投稿準備を終えるのに1人だと24年かかる)


 なので、事前準備は確実に必要となる。

 事前に作りおきしておけば、公開ボタンを押すだけでいいので、長くとも10秒/作程度で完了するだろう。

 20秒の準備期間が生まれることになるので、630万7200作品すべてを準備する必要は厳密にはないのだが、正直焼石に水である。


 極力負担を減らすため、ある程度は自動化としたい。

 文章を要約するプログラムなども出てきているので、一言コメントやあらすじ欄、タグ生成は最適化できるかもしれない。

(その時々で発生する企画への適切な参加は難しい気がする、これは人力でチェックすることになるか)


 大半の作業をコピペだけで済ませられるようになったとしても、1作品の準備に15秒はかかると思われるので、小説執筆と同じだけ(3年程度)の期間が取られることが予想される。

 ①と同時並行で進めることで、3年+αで事前準備が出来るだろう。


③30秒ごとに投稿するのを6年間継続する。

 幸いにも予約投稿という機能があるので、②の準備作業を頑張れば、ある程度は自動で投稿してくれるだろう。


 ただ、見た限り、分単位にしか対応していないので、「30秒」の部分をどうやってクリアするかが課題になる。

 順当にやると6年間、何かの片手間に投稿ボタンをクリックし続けることになる。もちろん、24時間体制で進める必要があるが、健康で文化的な生活を営むために眠りも必要だろうから、協力者を1人用意して、12時間交代で投稿ボタンを押下し続けることになるだろう。


※一応、予約投稿の日付の部分はキーボードで「02:30:45」と入力して投稿は出来たので、もしかしたら秒単位も利いていたりするかもしれない。

 予約投稿後は時分表示であったため、判断が付かない状態である。

(02:30:75という時刻としては不正な値を入れると、エラー表示になったので、反映されるかは別として、秒の範囲が適切かは見ているようである)


 また、1アカウントに630万7200作品も入れられるかは不明なので、場合によっては何百、何千とサブアカウントを用意しなくてはならないだろう……



 いかがだっただろうか。

 ①~③の3ステップによって、一個人が小説投稿サイトの新着小説欄をジャックすることが理論上は可能である。

 ちなみにこれは、レビューについても同じことが出来る。多くのユーザーに「それなりの理由を付けて評価した」ような文章をつけ、レビュー欄をもジャックすることが出来るようになるだろう。


 つまり何が言いたいのかというと、

 AI、プログラムは完璧さ、緻密さ、複雑さの象徴もそうだが、こういった大量生産・大量消費という局面で非常に強大な力を持っているということだ。


 ジャックに使われた自作小説達は、わずか7分30秒で新着小説欄から消える(それも半分は味方・・の小説に押し出される形で)。

 そして、1日に2880作品もの作品が増えるアカウントでは、1作品1作品が細かく鑑みられることもないだろう。言い換えるのなら、ジャックという現象を維持する為だけに使い捨てにしている。

 正気の沙汰ではないが、プログラムに正気はないので、成し遂げられるのだ。そしてそのうち、数に押されて正気の中身が書き換わっていくだろう。


 AIが人から仕事を奪うことが恐れられているが、それは正確な見立てではない。

 真に恐れるべきは、(作成者・利用者の意図次第では)AIが我々から価値観を奪いかねない点にあるのだ。



 このような悪意ある人物がカクヨムをワタシ色に染めようと策を巡らせているように。


 え、垢BAN? やめてください、しんでしまいます……

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