夢日記:農薬、弾丸としての

高黄森哉

放送事故

 少女が取材を受けていた。とても画質が荒い。それだけではなく、風景の色が濃い。自分は、テレビ越しに彼女を見ているらしい。画面を見つめる、一人称の主は、最後まで判明しなかった。ただ、自分ではないらしいことは、はっきりとしている。

 取材を受ける少女の奥、遥か上に、橋が架かっている。この橋は、私が中学生の時、登下校で通った道程に実際にある橋である。道の前後関係が逆な以外は現実と同じものだ。というのも、橋が、斜に架かる高架下の通り、その奥の道が、夢では、何故か手前に来ている。

 少女の目の前で取材をするお姉さんは、おそらくニュースキャスターだ。ただ、取材を受ける少女は、いつの間にか背中を向けていたので、キャスターは少女の背中にマイクを突きつけている格好となっていた。

 突然、少女の顎が裂けて、下顎から上が、背中側に反り返る。この時、この映像とは別に、橋から少女が頭から降って来て、学校の椅子に当たり、頭から砕ける映像も再生された。誰も動かないし、何も言わない現場では、放送事故の空気が漂い、カメラがなんとなく震え始めた。



 ◇



 唐突に場面は田んぼ道に変化する。少女が死んだ橋より奥の田んぼである。

 自分ではない少年の自分は、エアガンを持っている。おそらくベレッタだ。そして、知らない友達が、後ろに控えている。この友達は終始、無言だったが、悪友のようである。実在の人物ではない。自分は何も言わず、錠剤になった農薬をチャンバーに詰めた。それは、白地に茶色の斑のタブレット型なのだ。すんなりエアガンに入ったのが、今考えると不思議である。そして、少女が欠伸をしようと口を開けるところに、すかさず狙って撃ちこむ。


 この時点で、時系列が前後反対になってることに、夢の傍観者としての自己が気付く。少女が生きているということは、この場面は、番組の前に来なければ辻褄が合わないからだ。



 ◇



 謎の四畳半アパートで、後悔する自分を、天井の視点で見ている。第三者視点だった。傍観者の私は、ここで初めて、少女の悲劇が、例の農薬によって引き起こされたと悟った。なぜ、そう思ったのかは、夢の理論なので解明できない。それまでは、如上のエピソード二つは、頭の中で繋がっていなかった。まさか、農薬であんなことになるとは考えないからだ。

 そして、悟った瞬間、悲しくなった。刑務所での生活と、無為にする時間の計算、その時間で出来たであろうことを探すうちに、けたたましい目覚ましの警告音に起こされた。

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夢日記:農薬、弾丸としての 高黄森哉 @kamikawa2001

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