6.

「――た…、……!」


誰かがを呼んでいる。


でも、どこから呼ばれているのか全然分からないぐらい遠くから呼ばれてる…そんな気がする。


どうして、私を呼んでいるの?

……そもそも、この声は一体誰の声?


私は、一体…――


「綿貫くん!!」


 冴子の大声と共にバシン、と背中を叩かれてようやく綿貫の金縛りは解けたらしく、同時に綿貫は何かを吐き出す様に咳込んでいた。


「――…い、今……ッ!!」


 そう言いながら僕は、自分の体を触ったり辺りを見渡す。どうやら、らしい。正直、生前見た景色を見せられるとは思ってもみなかった。と言うより、共有と言って良いのだろうか?そんな事が出来ると思っていなかったので衝撃だった。


「あの人の、彼女の――」


 そこまで言うと小鳥遊さんは口元に指を当てる。みなまで言うな、と言う事だろうか?そう考えていると、急に空気が変わった様な気がした。


『――ゔ、ゥ……』


 苦しそうな呻き声と共に、ゴボボ…と何か水音の様なものが聞こえる。


「なんだ今の声……」


 どうやら一輝と教授にも聞こえたらしい。辺りを見回すが、何かがいる様子は見受けられなかった。どうやら姿を隠しているようだ。


『…ォ、前の ゼ、いデ…』


 その言葉は何故か僕に言われた様な気がした。


『お前…せい、デ……ばだジ、ば……』


その言葉と同時に彼女が目の前に現れた。


 あの時と同じ様に辺り一帯に、血 独特の鉄臭い匂いが充満した。彼女の姿は相変わらず体の一部が欠損し、足や腕があらぬ方向に向いている。敢えて違う所を敢えて探すならば、彼女の足元一帯に血の海が出来ているという点だ。


 その姿を初めて見た一輝は、思わず目を逸らしていた。


『ご…ろ、ジで……や、る…ッ』

「……貴女の命を奪ったのは 僕じゃありません。本当は、んですよね?」


 綿貫の言葉に動揺したのか、彼女は動きを止めて綿貫を見ている。


「貴方の命を奪ったのは…」

『ヤめ、ろ……ッ!』


 続く言葉を聞きたくないのか、彼女はあらぬ方向に曲がってしまった手で懸命に耳を塞ごうとしている。


「…貴女の携帯の待受画面に、の横顔でした」


 綿貫がそう言うと、彼女は怒り出す訳でもなく、涙を流す。そして、いつの間にか姿も生前の事故に遭う前の姿に戻っていた。


「…わたっち。なんでそんな事知ってるんだよ」


 二十年以上も前に起きた事件な上に、事故に遭った彼女の遺留品は一切見付からず、今でも身元不明者のまま。それなのに、綿貫が彼女の所持していた携帯の待受画面の事を知っている訳がない。


「金縛りにあった時、見えたんだ……事故直前の彼女が見た景色が」

「死者の見たモノが見えるなんて、そんなまさか…」

「そんな事が、可能とは……」


 綿貫の驚くべき発言に教授と一輝は動揺していた。


「出来るわ。幽霊あいてが視せたり、術者じぶんで覗き視る方法があるの」


 勿論、今回の場合は前者だ。後者の方法の場合は、恐らく小鳥遊さんなら出来るかもしれない。


「本当に言われたくない事なら見せないわ でも、彼女は綿貫くんに過去を見せた…」

「ど、どうして…スか?」


 一輝の問いに、冴子よりも早く綿貫が答えた。


から…ですよね?」


なんで自分でもこんな事を言ったのか分からない。でも、見つけて欲しいと言われた気がしたんだ。


「見つけるって何を…まさか体とか言わないよな?」

「そのまさかだよ」


「冗談だろ!?二十年以上前の事件だぞ!例えあったとしても白骨化してる!それに何処にあるかの検討だって無いのに無謀にも程があるだろ!」


 綿貫の思いがけぬ言葉に、一輝は叫喚する。それを宥めるかの様に教授は一輝の肩に手を置く。


「何処か見当が付いていれば、少し時間は掛かっても見つかる可能性は出てくるかもしれないけど……」


 二人の言う通り、この段階で見つかる可能性はない。それに彼女を轢いた男性、恐らく恋人だったであろう人を見つける事も困難だ。20年前ともなれば尚の事。相手だって20年の時を経て歳をとり、見た目も変わってしまっている事だろう。


「もし、場所が分かるとしたら…どうかしら?」


 僕に助け舟を出したのは、なんと小鳥遊さんだった。まさかの発言に、僕を含め全員が驚きを隠せない。


「分かるのかい!?」

「但し、彼女が知っていればですけどね」

「死んだ後に、どうこうされたなんて本人が知ってる訳ないじゃないッスか」


 小鳥遊さんの言葉に一輝はまた反論の声をあげる。死んでから何処かに移されたなんて、分かる訳がない。そんなの犯人にしか分かり得ない事実で、当然の反論だった。


『……轢かれて――…』


 今まで黙っていた浮遊霊が突然口を開き、言葉を話し始めた。


『轢かれて…暗く冷たい、土の中…あの、庭……』


 そう言って、彼女はとある方向を指差す。どうやら何処かの庭に埋められている様だが、本当の事なのかと半信半疑だ。自分で探すと言ったにも関わらず、矛盾しているのは分かっているのだが…。正直に受け止める事が出来なかった。

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