5.

「教授!そのライト直ぐに消して下さい!!」


 これまでに聞いた事が無い位のボリュームで、小鳥遊さんが宮部教授に注意を促した。


 小鳥遊さんの声に驚いたであろう宮部教授は、危うくライトを落としそうになっている。


「び、吃驚した……どうしたの、小鳥遊くん そんな大きな声出して……」

「すみません ですが、急を要したので……赤いライトで辺りを照らすのは止めて下さい」


 なんでだろう?と首を傾げていると、すぐ隣からコホン、と咳払いが聞こえた。


 すぐに横を見れば、そこには鶺鴒さんがいた。

 そして、僕が声を出すよりも先に鶺鴒さんが話し始める。


『ライトの光はあまり霊は好きではないの その中でも特に赤い光は、霊に攻撃してる事になる 1番危ない色なのよ』


 鶺鴒さんの言葉に衝撃を受けた。正直、赤い色のライトを向けただけで、攻撃してる事になるなんて考えてもいなかった。


「どうして赤い色のライトは駄目なんですか…?」

『赤い色は攻撃を示すイメージがあるでしょう?それは霊にも通ずるのよ それに、霊と言っても元は生きてた人間 ライトを向けられたら眩しいって感情もあるし、不快な思いはするのよ』


 霊だからなんでもしていいって訳じゃないわ、と鶺鴒さんは言った。


『……今回は、教授先生もわざとでは無かったみたいだし、近くに誰も居なくて良かったわ』


 鶺鴒さんはそう言って、胸を撫で下ろしている様だった。


「もし、近くに霊がいたら…」

『確実に標的にされていたでしょうね』


 その言葉に、思わず息を飲んだ。


「――…と、言う訳で 決して赤いライトは使わないで下さい」


 恐らく鶺鴒さんと同じ話を、小鳥遊さんも教授達にしていたのだろう 話を聞いていた2人は頷いていた。


「…ミ、た……」


 また、あのか細い声が聞こえる。


「見た……?」

『な、か……あヵ、り……ひ、ト……』


 明らかに生きてる人ではない、何故だかすぐに分かった。


「綿貫くん…?どうしたの?」


 小鳥遊さんが僕に声を掛けると、その声も聞こえなくなった。


「また、か細い声が聞こえたんですが、断片的にしか声が聞こえてこなくて…」


 今はもう声は聞こえないです、と僕は付け加えた。


 小鳥遊さんは隣にいた鶺鴒さんを見るが、鶺鴒さんは首を横に振る。


「…その声はなんて?」

「みた、なか、あかり、ひと……、しか聞き取れなかったです」


 そう言うと小鳥遊さんは、呪文の様に先程伝えた言葉を繰り返す。


――…そして、こう呟いた


「……、」


 その言葉に全員が教えられる事となった。


「車内灯がついてたなら相手が見える!」

「でも髪型だけって…どういう事スか?」

「……多分、加害者が車内灯をつけて、後部座席の方を見てたんだ それなら――…」


 そこまで言うと、突然この場所の空気が変わった。


「……、……ッ!」


 声が出せなくなる程に、異様な空気だ。


 そして、突然体が言う事を効かなくなった。恐らく これが所謂〝金縛り〟というやつだろう。


 急に景色が暗転すると、僕は歩いていた。周りには一輝や教授、そして 小鳥遊さんも…誰一人居ない。


 コツ、コツ、と…ヒールのある靴を履いた人物が歩いている足音がする。

 でも、それは小鳥遊さんが履いている物とは違う音だった。


 着信音がして携帯を取り出した鞄は女性物の様に見え、携帯を掴んだその手も自分のモノではなく女性の様に見えた。


 携帯を見ると、画面が小さい上にアンテナの付いたボタン式 。今どきの若者が持つにしては、かなり古い機種だ。


 綿貫達が音切町にやって来たのは遅かったが、まだ日は少しだけ出ていた。

 しかし、ディスプレイに表示されている時刻は、既に深夜1時を超えている。


 遠くから車の音も聞こえ、かなりの台数が通っているらしい。


 道幅的には、優に車がすれ違えるだけの十分な幅があるが、車のライトが背後から近付いて来て、少しだけ道端に逸れる。


 ここで再び視点が動く。だが、何故か嫌な予感しかしない。


 嫌だ 振り向きたくない、という綿貫の意思に反して、視点はゆっくり、ゆっくりと後ろに振り向いていく。


 完全に後ろを振り向いたその時、車内灯で中の人が見えた。

 やはり、後部座席を気にしていたらしく真正面の顔は見れなかった。


「え…――、――――」


 戸惑う様な驚いた様な女性の声がした。


 そして、雷でも落ちたのかという程の轟音と共に体が宙を浮き、何かに衝突した。


 何かが辺りに広まり、周りが徐々に明るくなる

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