第12話 あと2日。


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【学園祭まで後2日。】


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そんな日の昼休み


「……なあ、ホンダ、ヤバ美がキレてからは学園祭準備って進んだのか?」


「どうやらそうでもないみたいだぜ、男子はキレられた後は参加するようになったみたいだけど、意外と女子が参加してないらしい。」


 昨日カナが言っていた通りだな。改めて数えてみると、このクラスのテニス部の女子の数は多いようだ。それが来ないとなると準備の現場ではかなりの痛手だろう。


「じゃあ、今の時点ではどれくらいまで準備は終わってるんだ?」


「うーん……6割くらいは終わってんじゃね?」


「6割!?」


 おいおい、本番まで後2日でそれかよ。うわー本番は見る側もやる側も地獄だろうな。


「じゃあもうこのクラスの劇は失敗確定じゃん……」


「そーだな、本格的に取り組み出したのもヤバ美がキレてかららしいしな、そりゃ間に合わねえよ」


 準備の現場は思ったよりも酷い状況らしい。


「セキグチ知ってたか? 準備に参加してる女子はめっちゃこき使われてるらしいぜ」


「そうなのか?」


「ああ、ヤバ美がさ、自分の衣装が可愛くないって事で女子総動員して最初から作り直しさせてるらしいぜ。」


 舞台上での姿は友達にも見られるので、ヤバ美としては衣装が可愛くないのが絶対に許せないのだろう。


「うわ……そんなことして大丈夫なのかよ……」


「大丈夫なわけねーだろwww。 女子もヤバ美がウザくて準備に行ってないんじゃねーの?」


 鋭いなコイツ……現にテニス部女子はそれが理由で行ってないんだし。


「そうかもな……だけど大変だな、わざわざ準備行ってる奴も……」


「ホントだよな……。俺からしたら馬鹿馬鹿しいよ、あんな奴らのために準備に参加するってのは」




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【放課後になり教室では準備が始まった、俺はいつも通り図書室へ行こうと荷物の整理をしていた。】


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 ふと手を止めて教室を見渡してみる。教室に残っている奴らは思っていたよりも少ない。

 そしてやはり、テニス部女子は一人もいなかった。他にも何人かの女子が準備に参加していないようだ。



「ガタガタガタガタ」



 ミシンの音が響く。3台用意されているミシンのうち使用されているのは一つだけだった。おそらく今ミシンにかけられているのがヤバ美の衣装だろう。

 見ただけでわかってしまうほど衣装のクオリティがそれだけまるで違うのだ、クラスの女子を総動員しただけはある。


「ねえ、まだぁ〜」


 一生懸命にミシンをかける女子の後ろでスマホをいじりながらヤバ美が急かす。

 ミシンをかけているのは眼鏡をかけた、いかにも地味そうな子で、ヤバ美に強制されているのがすぐにわかる。


「明日までに準備してくれないと困るんだけど〜」


「ちょ、ちょっと待ってね、明日までにはいけると思うから……」


「……絶対間に合わせろよ、もし遅れたら承知しねえかんな」


「は、はい」


 そう言うとヤバ美は、ウンコ達がいるクラスの真ん中に戻った。

 嫌なものを見た。

 クソ野郎がよ……ヤバ美の不快な声聞かないためにもさっさと教室を出て行ってしまおう。






「代わるよ」


それはヤガミの声。ただその言葉は俺に向けて発せられたものではなくミシンをかけている女子に向けたものだった。声をかけられた女子は戸惑っている。


「え……えーと……」


「私ミシン少し得意だからさ、代わりにやっちゃうよ! ナナミちゃんは美術部だから絵が得意だったよね、代わりにペイントの方お願いできる?」


「あ、ありがとう……」


 どうやら無理矢理ミシンがけをさせられていた女子を庇ったらしい。

 その様子を見ていたのか、向こうからヤバ美の声が聞こえてくる。


「あれえ〜? ミシンかけるのハルカ(ヤガミ)に代わったの、じゃあ早く終わるじゃんwww。最初からハルカに頼めばよかったぁーwww。」


 こいつ……クズ野郎すぎる……。


 なんでこんなヤツが女子のドンなのか疑問だ。女子社会を支配する【かわいいヤツが偉い制度】が深く関わってるんだろう。


 さっきまでミシンをかけていた女子は泣きそうな顔をしている。そこに追い打ちをかけるようにヤバ美が言葉を発してゆく。


「いやマジでさぁ、ナナミはトロすぎんだよねwww」


 ナナミとはさっきまでミシンがけをしていた女子だ。


「逆にどうやったらあそこまでトロくできんだろーねwww」


 おいもうやめろよ、代わったんだから追い詰めんな、後オマエには文句を言う権利はないだろ。


 教室が一気に緊迫した雰囲気に包まれる。

 もちろん他の男子もヤバ美の攻撃に気づいているはずだが、こういう時はマジで役立たずなので止めるのに期待しないほうがいい。


 俺はもちろん気づいている。


 クラスのクソ男子と俺は同じじゃない! そんなしょーもないプライドが俺を決心させた。

 ……分かった、後3秒経ったら止めよう。ちょっと勇気出すためのアイドリング期間ちょうだい。

 

 フツーに男子に暴言吐いてただろって?いや違うんですよ、イキリ男子に暴言吐くよりも怒ってる女子止める方が100倍怖いからさ……


 フーッ……3……2……






 それは、俺がカウントを終える直前の出来事。


「あ、糸切らしちゃった! ゴメン、ナナミちゃん買い出し行ってきてくれない?」


 ヤガミが助け舟を出した。


「わ、わかった……」


 ナナミは力なくうなづくと教室を出て行った。

 なんて自然なやり方でナナミちゃんをこの場から救出してあげたんだ! こ、コイツやる!

 もしあそこで俺が止めていたならば、ヤバ美の怒りは増していたかもれない。


「ガタガタガタガタ」


 ヤガミはミシンを一人でかけ始めた。

 攻撃対象を失ったヤバ美は不満そうに再びスマホに目を落とした。

 



 教室に張り詰めていた緊迫感がなくなると、俺は急に冷静になる。


 なんだろう俺、一人で意気込んで…恥ずかしい…


 うわああああああ恥ずい恥ずい!(発作)


【分かった、3秒経ったら止めよう(キリッ)】


 だってよwwwwwww。アイタタタタタァ!

 カッコいいと思ってんのかね(自分)

 ちなみにだけどさwww 実は、ヤバ美の暴言止めてるシーン、勝手にシュミレーションしてた。

 うわああああああああ恥ずい恥ずい恥ずい!





 一通りの発作が収まった。(よかったな)




 ヤガミは一人黙々とミシンをかけている。俺はそれを見て、今まで準備に参加しなかったことへの罪悪感が生まれたのかもしれない。


「……ヤガミ……」


「わ! ソウタ、どうしたの?」


 俺はヤガミに声をかけた。


「手伝ってもいいかな?」


「え、いいの!?」


 実は気になった事があったのだ。衣装係は元々人手不足だった上、ヤバ美の衣装の修正に駆り出された事で作業が全く進んでないようだったのだ。


「……ソウタもしかして、衣装やってくれるつもり?」


「うん、一番進んでないみたいだからさ」


 ヤバ美の衣装だけは超高校生級の立派なモノになっている、しかしその他の衣装は布切れ同然の酷い出来だった。もちろんヤガミが本番で着る衣装もそうだ。


「……裁縫できるの?」


「大丈夫だよ、安心して。」


 ヤガミの衣装を引っ張り出して、俺は作業を始める。まさかここで裁縫できるのが役に立つとは!副教科も馬鹿にするもんじゃないな……


「……ヤバ美の衣装は間に合いそう?」


「うん……けど衣装、全部準備するのは間に合わなそう……」


「そうだね、けど俺も出来るだけ頑張るよ」


 おそらく、あと2日では、このヤガミの衣装一着しか仕上げるだけで精一杯だ。

 だけど俺はそれでいい、ヤバ美みたいなクズが綺麗な衣装を着て、ヤガミみたいないい人がぼろ布を着るのは間違っている。

 俺が衣装を縫ったところで、少ししか良くならないけれど……


「……ねえ、ソウタ……」


「なに?」


「知ってる?それ私の衣装なの」


……もしかして俺に縫われるのイヤ? 知り合いの男に自分の衣装縫われる……キモっ。冷静に考えたらキモい! 

 うわああああああ!セキグチ選手、本日2度目のキモい行動ダァぁぁぁぁぁ!


 俺は冷や汗バンバン流しながら、返答する。


「ソソソウナンダ、シラナカッター」


 ごめんなさい、こんなキモい行動をしてしまい誠に申し訳ありませんでした!

 焦る俺を見てヤガミは笑った。


「……ソウタが来てくれて嬉しいよ」


「そう? あんまり役に立てそうじゃないけど」


「……そうじゃなくてね」


 ヤガミ ハルカは同級生、俺の3人目の友達。


「なんか、いてくれたら安心するんだ。」


「……そう」


 二人並んで作業を進める。ヤガミはミシン、俺はまち針を使う。






「……ソウタ、またLINEしようね、最近できてなかったけど、私あの時間好きなんだー」


「……そうだね、またしよう。」






 








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【作者による追記】

第10話と第11話の補足のために第10.5話を挿入したしました。詳しくは近況ノートに記してあります。





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高校2年生物語【あらすじ#ひねくれ者で根暗な主人公が明るい彼女を作るお話し】 西崎 碧 @nishizaki

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