第3話 デートと助ける決意
二人がデートに出かけて、しばらくした後
マリッサの部屋にマリッサの他に1人、金色で長い髪の女性の人影が見えた。
「さっきの男、後ろから付けて今日一日中見張っててくれないかい?怪しい動きの一つでもしたら即刻殺せ。人殺しの仕事はお前にピッタリだろう?」
マリッサがそう言うと、女はマリッサの研究室から出ていった。
女がギルドから出ていくと、それを見て先ほどまで飯を食べていた男二人組が不穏な会話を始める。
「マリッサの部屋から人が二人出てきました。片方はギルドすら知らない村人です。
追いかけますか?兄貴。」
「いやあ、まず安全な所から責めるんだ。だから、あの村人だ。あれはこの街で少し有名になってる優秀な船大工の息子だよ。そこが一番の安全地帯。命は尊く、美しくそしてたった一つ。だからこそ慎重に行動しなければならない。絶対に出来るほど安全な所。そこから行動を始めるんだ。」
「分かりました。兄貴!」
「一応両親にデートする事を言ってきましたが、先に言っておきます。僕は幼い少女を恋愛対象として見る事はありませんよ?」
ヴィトレールの飲食店街を歩いて二人はデートをしていた。
イタリアン、フレンチ、洋食、和食やカレーやタコスと様々なレストランがある。
ヴィトレールという港街は、文化の交流も激しい為、異文化の料理や飲み物を提供しているお店が珍しくない。そして今日も人が賑わっている。
「私、貴方の年上だよ?」
少女は一言。バルタノの年齢を知っている事が当たり前かのごとくそう言って来た。
「ちょっと待ってください。僕の年齢を知っているのですか?」
「17。私は18。」
バルタノが驚く様子を楽しみながら見事年齢を当てる少女。
「やっぱり獣人に付いて何も知らなかったのね!獣人の身長は極端に小さな種族もいるの。だから、貴方は私を恋愛対象として見ても何の問題も障害も無いんだよ?」
「.....そうですか....知りませんでした。そういえば、何を食べたいのか聞いていませんでしたね。何が食べたいですか?」
そう聞くと少女は急に歩く足を止め、
「そういうのは男がリードしてよ...」
少女は頬を膨らませて怒った。
だが、その様子を見てバルタノがまた謝るのかと思いきや
「本当に良いんですか?僕のリードという事は、僕が好き勝手に決めてしまうという事ですよ?それで本当に良いんですか?」
指を突き付けるような声と音量で忠告をして来た。
「......うん。バルタノが食べる物だもん!私、食べて見せる!」
「....食べれない......辛すぎ!」
バルタノが入ったのは激辛ラーメン店。
バルタノの家からも近く、バルタノ常連のお店だ。
辛いラーメンしかなく、二人とも店主に向かい合って椅子に座り、
少女は苦しんでいるが、バルタノはまんざらでもない様子で食べ続ける。
何でも、辛すぎて気絶した人がいるという噂も経つほどの辛さで、
常人にはとても耐えられるものじゃない。
少女の唇は、血が流れているのかとも思える、腫れたような状態になっていた。
「ははっ。すみません僕ここ以外の料理店あんまり行った事なくてここしか美味しい所知らないんです。」
「じゃあ先に言ってよ!食べれる訳ないじゃん!」
「ズズズズズズズ....かおくみんなはべれうから..ズズズズズズズ....ごくん。大丈夫だと思ったんですけどね。」
バルタノは食らいつく様にラーメンを食べながら会話する。
「すごい食べるじゃん!?どうやって食べてるの?」
「口の中に全く当てずに流し込む様に食べるんです。」
「......無理じゃない?」
「簡単ですよ?」
「まあそこまで簡単っていうなら....ズ..ゲホゲホッ、辛い!..オエッ、喉痛い......」
「嬢ちゃん..無理して食うと本当に死んじまうよ?これ食べれるように作ってない筈だから。」
ラーメン屋の店主が少女の身体を心配して声を掛けた。
「じゃあなんでこれを作ってるんですか!?..ゲホゲホッ」
「そこにいる様なバケモンが沢山この街にいるから。だからこれ食いもんじゃないよ。」
「自分で作っといて食べ物じゃないって....それで飲食店って経営出来るんですね....」
「まあな!」
店主はドヤ顔を決める。
「褒めてませんよ....」
「ごちそうさまでした。」
バルタノは食べ終わり、二人分の代金を払う。
「あっ..ちょっとバルタノ。こっちむいて。」
少女はバルタノを優しく呼びかけ、バルタノは少女の方を向く。
バルタノは口の周りにラーメンの汁が付いている。
そのラーメンの汁を少女は手拭きで拭いた。
「....!!何を....あっ!」
―ドコン!
少女の行動に驚きそのまま体制を崩してしまい、
バルタノは椅子から転げ落ちてしまった。
「大丈夫!?」
少女はすぐさまバルタノの元に駆け付け、
バルタノの左手を両手で上下から覆い隠すように柔らかい肌で包む。
その少女の幼い見た目とは裏腹に母性の溢れる仕草。
その様子を見たバルタノは
―どきっ
(暖かく....優しい手.....まさか...恋愛対象じゃないと言って早々、ほんの少し好きになってしまうとは...)
そして、その心を見透かしているのかと思える一言を少女が言ってくる。
「この手の掴み方、好きでしょ?..バルタノが好きな物、何でも知ってるもん。」
少女が引っ張って、バルタノを起き上がらせると
「まあ、辛党って事は知らなかったけど...」
「ごめんなさい。口直しに別のお店に行きましょう。今度から、本気で探してきます。あと、もう一つ。」
(僕もこんな気持ちになるなら、向こうもそれなりに心を開いてくれた頃の筈。)
バルタノは少女にマリッサとの事を告げる決心をし、口を開く。
「先ほどのマリッサさんとの事なんですが...彼女の隊に入るのを断りに来たんです。
僕には兄弟が二人います。一人は9歳ですが、もう一人は母の腹の中にいます。母は最近つわりが酷く、僕が家から出てしまうと急激に父親に負荷がかかってしまいます。君の事が嫌いになったという訳じゃありません。寧ろ好印象です。だけど、家族をないがしろにするのは、僕には出来ません。今日の話は無かったことにして欲しいんです。」
「私は......貴方を知っているの....」
「はい、君が僕の事を知っているのはよく分かっています。しかし..」
「違うの!!」
バルタノの言葉を振り払うかのように大きな声で、やや悲しげに少女は叫んだ。
「違うって...何がですか?」
「私は....貴方を知ってる。知ってしまっているの。だから、変わらない。貴方にとって二つに思える選択肢も、一つになる。そしてもう一つは消え去るの、残酷に。いずれ、私が連れて行かないとしても貴方はマリッサの元に訪れる。決まっているの。.............あれぇ?.......意識がぁ.......そうか...これが反動......」
少女はバルタノを諭した後、急激に弱りだして倒れそうな所をバルタノが回り込んでキャッチした。
「大丈夫ですか!?まだ出会ったばかりなのに...どうして...!!」
バルタノが焦った様子で少女を抱き込む。
「お!まだ人間の嬢ちゃん大丈夫か!?」
ラーメン屋の店主も心配する。
少女は優しく弱々しい声で
「大丈夫....死ぬ訳じゃないの.....ちょっと寝ちゃうだけ..........だから気にしないで.......貴方は.....私が....絶対に......す....く........................う」
そのまま息を引き取るように倒れた、が、
呼吸はしている。
寝ただけだ。
「寝ている....取り合えず宿に預けよう。宿一泊ぐらいなら説明すれば父さん達も払ってくれるだろう。」
バルタノはラーメン屋を後にして、宿屋に行き少女を預ける。
そして宿屋の主人に銀貨を2枚渡して
「面倒を見てやってください。もし長居して、追加で払う必要があるなら、僕が払います。」
バルタノは家に帰っていった。
バルタノが家に帰る頃には夕方になっていて、海が黄金色に輝いていた。
その綺麗な景色を見ながら、家に帰っていく。
バルタノの家は木製で2階建てと地下があり、入ると直ぐに一階は家族共有のリビングになっていて、2階には部屋の端に付いているハシゴで行く事が出来る。二階は閉鎖的で、燭台がおいてあるものの、そのハシゴの狭い出入口以外に外に通じる所は無い。地下に通じる道も、部屋の端にあるが階段がたたまれていて、たたんでいる階段
のロックを解除しないと地下に行く事が出来ない。
バルタノは家の前まで帰ってきた。
両親と兄弟の心配をする為に、家を覗き込む。
しかし、誰もいない。父親と兄弟が出かける事は珍しくないが、妊婦の母親が出かけているのは流石におかしい。
そして、地下室への階段が開いている。
異常地帯に気が付いたバルタノは、地下室への階段に駆け込み、
「父さん!母さん!どこですか!?」
叫ぶ。
そうすると恐怖に満ちた声で母親の声が地下から
「助けて!!誰か!!!!」
それを聞いたバルタノは、反射的に地下に入っていった。
(母さん!絶対に助けます!)
決意と共に...
最高の錬金術に係わる15のモノ達‼ @jyumaa
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