やべぇ奴がやべー奴と行く均一化の旅。“分からない事”の面白さがここに!

 衝撃的な出会いと死から始まる異世界転移。神に出会い、一風変わったスキルを与えられた主人公。彼は地球にいたときに果たせなかった己が理念のために歪な世界を均(なら)す旅に出る。傍らにはエルフの少女。存在自体がチートな彼女に観察され、時折、力を借りながら。
 手にした聖剣(チェーンソー)を血に染めて、“美しい”世界を作り上げていく──。

 一人称でテンポ良く進む物語。他の方も挙げていられるように、本作の特徴は「狂気」とも呼べる登場人物…特に主人公の異質さでしょう。

 “違い”に生理的嫌悪を抱き「均一」「対称」を愛する主人公。彼の中には世界を均さなければならないという使命があります。使命感ではなく、彼の中では使命なのです。そして、使命のためには殺人も手段の1つ。そう考える人物です。

 そんな人物像ということもあって、感情移入しながら読む、というよりは三人称のように俯瞰的に読むことになりました。

 しかし、決して、読み辛さはありません。確かに、内容や主人公の考え方には人によって好みが分かれると思います。が、主人公の言動には明確な理由と強い意志があります。そのため、共感・理解ができなくとも納得ができる。むしろ、はっきりと自らの理念を貫く姿勢には好感を感じられました。

 また、私とは違う価値観を持つ主人公の行動や考えは奇想天外で先が読めず、常に好奇心を持って読み進めることができました。
 主人公にとっては、眉目秀麗に描かれるエルフは吐き気がするほど「醜い」。切り刻まれ、均しくミンチにされた肉塊は涙が出そうなほど「美しい」。私の価値観との差が大きすぎて逆に、不思議な面白さか感じられました。

 そんな、多くの人がなかなか共感出来ないだろう主人公。地球から来た彼を“均衡の守護者”として保護・観察するのが超越的な存在であるエルフの少女なのですが…。良くも悪くも自身の優位性を疑わない彼女も、なかなかにぶっ飛んています。

 人を少しばかり知性のある存在(私達の価値観で言うなら猿や犬)として見るような人物。彼女の言動も予測不能で面白い。また彼女の異質さを表す描写が絶妙で、「あ、このエルフもヤバイやつなんだ…」となりました。
 しかし、愛嬌や可愛げはしっかりと感じられて物語に花を添えてくれ、1つの読み易さを生んでくれていた印象です。

 戦闘も、もちろん、私には理解できない価値観のうえで行なわれます。格上相手に、主人公はあらゆる手段を講じるのですが、それがまた予測できない展開で面白い!
 「狂ってるな~!」となりつつも、上述の通り主人公の言動には一本の筋が通っていて、納得できるものでした。

 理解の及ばない存在同士が、互いに理解できないままビジネスライクに進める、世界を均す旅。そこにはある種の狂気と一定の納得、そして、間違いない面白さが溢れていました。

 主人公とエルフの少女が分かり合える日が来るのか。また、主人公は手にしたチェーンソーで理想の世界を作り上げることができるのか。地球で死ぬ寸前に出会った人物と、幕間の関係も気になります…!

 好みは分かれると思いますが、ぜひ一度手にとって、この作品が醸し出す“理解できないことの面白さ”を感じて欲しいです!

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