邪聖剣チェーンソー ~シリアルキラーが異世界へ行ったら、他に人間族が居なかった話~

聖竜の介

第1話 幸せな爆死

 ヒトはみな“違って”いてはならない。“異なって”いてはならない。

 この世は全て、均一ホモでなければならない。

 だからボクは、ころした

 

 さて、マンションの自室にて。

 スウェーデン製最高級チェーンソー(有効切断長さ:50センチ)を手に、ボクーー嶋矢麗しまや れいは考えていた。

 もとは4つの個体だったこの醜悪な死骸どもを、どう1つの存在に統合したものか。

 やっぱり、チェーンソーと言う道具の選定は失敗だったのだろうか?

 これでミンチにするのは些か効率が悪い事に気付いた。

 先日使ったゴミ収集車の方が、まだ優秀だったかも。

 そう悩んでいたら、部屋のドアをぶち破られた。

 飛び込んで来たひとりのSATが、何の躊躇いもなくボクの胸を撃ち抜いたんだ。

 熱く、重く、杭でぶっ刺されたような衝撃が胸の中を駆け巡って弾けた。

 痛い、と言う感覚だけは無かった。

 血が、これまでに経験した事の無い勢いで外に溢れて流れ出してゆく。

 なんて酷い事をするんだ。

 あまりの理不尽に、ボクは顔をくしゃくしゃにして泣いた。

 確かにボクは、通算10名のヒトを殺した。

 社会通念上は死刑に値するだろう。

 けれど、それにした所で手順は踏まないかい? フツー。

 嶋矢麗! 2件の殺人容疑で逮捕する! みたいにさ。刑事ドラマとか観ないから、わかんないけども!

 酷い、あまりにも酷いよ……ボクが何をしたって言うんだ!

 憎い警察の顔を、よく見てやろうと思った。

 どんな奴だ! どんな鬼畜生ーー。

 

 ぁ……。

 こんな時なのにボクは。

 彼の事を、愛おしいと思ってしまった。

 

 何故なら彼は、背格好だとか肉付きだとか、短く均一に刈った髪だとか、おまけに左右対称に限りなく近い美しい面差しとか。

 

 これで惚れるな、と言う方が無理だよ。

 ボクは“均一”と言う概念の申し子。

 “同じ”である事に愛を感じてやまない。

「どうして」

 そう、どうして。

 どうして、こんな出会いだったのかなぁ……。

 血を失いすぎて、仰向けになって。

 もう満足に動かない身体だけど、スマホを一生懸命押した。

「ねえ、“こう”なる事、想像出来なかったわけ?」

 絞り出した声は、自分でも驚くほど哀しそうだった。

 そして、爆轟。

 マンションの底辺で、何かが致命的な砕けかたをした。

 建物の外周からすり鉢状に配置しておいた爆弾が、一斉に弾けたからだ。

 モンロー効果・ノイマン効果と言うやつによって、この建物は折り畳まれるように崩落するはずだ。

 つまり、近所に迷惑はかからない。

 肉をズタズタに引き裂く炎と衝撃が、世界を埋め尽くした。

 痛い。

 痛い、熱い、痛いよ!

 死ぬほど痛いよ!

 どうして、ボクがこんな目にッ!?

 泣きたいけど、叫びたいけど、ボクの身体はもうその機能も無くなりつつある。

 同じく、爆発に呑まれつつあるSATの彼を見る。

 

 ーーボクに笑いかけてくれた。

 

 そんな気がした。

 こうなるって、わかってたはずじゃん?

 どうしてこのSATさんは、ひとりでここに来たのかなぁ。

 でももう、全身の感覚がない。

 ボクは、もうすぐ死ぬのだろう。

 マンションが姿を失い瓦礫となって、重力を思い出してボク達にのしかかる。

 こうして、人肉ミンチと瓦礫の集合体として、あのイケメンとひとつになれるのなら。

 悪くない人生の終わりだと思う。

 

 この世の全てが“同じ”に“均一”に“同時”に“無個性”に。

 それこそが、ボクの生きる喜びだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る