第9話 佐伯さんの夢 (後編)
遂にその日はやってきた。今日は佐伯さんがレディコレクションでランウェイを歩く日だ。
俺は家で結愛と共にレディコレクションに行く支度を整えていた。
「お兄ちゃん!結愛もう準備できたよー!」
結愛は支度が終わったらしくそう話しかけてきた。たしかにいつもより気合いが入った服装だ。
「お、おう。俺も準備できたぞ。」
俺もいつもの出かける時用のシャツを着て、準備を整え、結愛に返事をした。
「えー!お兄ちゃん。またそのシャツ?もっと違うのないの?」
結愛は、俺の格好を見てそう口をとがらせた。いつも着ているものだしちょっと地味だったかもしれない。
「いや、俺はこれくらいしか持ってないからなあ。」
俺は結愛の指摘に困りつつ、いつものシャツに、いつものコートを羽織って、レディコレクションの会場に向かうことにした。
―そう言えばマリアは最近出かけてることが多いようで姿が見えないな。
新はマリアにはしばらく会っていなかった。
そんなことを考えながら、結愛と俺が会場に着いた。会場は既に満席だった。俺たちは佐伯さんにアリーナ席を用意してもらっており、特等席でレディコレクションを見ることとなった。
色んなモデルの女の子たちが、ランウェイを歩いている、どの女の子もオシャレなファッションに身を包み、歩くごとに会場からの声援も高まっていった。
そして―
「あ、お兄ちゃん!咲さん!」
結愛がそう話しかけてきた。ついに佐伯さんの順番がやってきた。
「お、おう。そうだな。」
俺もステージをじっとみながら返事をした。佐伯さんは赤いドレスに身を包み、真珠の髪飾りをつけていた。
―う、美しい。くう、やっぱり素敵だ。
俺は心の中でそう思いながら歩く佐伯さんを結愛と応援していた。
佐伯さんがついにランウェイの一番前まで歩いてきた。ポーズを決めるところだろう。
―佐伯さん頑張れ!
俺は心の中でそう考えた。しかし次の瞬間。
バタンッ
ハプニングが起こった。会場中がざわめく。なんと、佐伯さんがヒールにつまずき転倒してしまったのだ。
―佐伯さん!!!!!
俺は心の中で叫んだ。隣で結愛も真っ青な顔をしていた。
会場は一瞬にして静まり返った。だが、佐伯さんはそこから立ち上がった。
そして、精一杯の笑顔を見せ完璧なポーズを見せた。一瞬止まっていた会場も、歓声に変わった。
―よかった。
俺は心から胸を撫で下ろした。結愛もホッとした様子だった。
―――
ランウェイ後、佐伯さんのいる控え室に、俺と結愛は尋ねていた。
「ビックリさせちゃってごめんね。」
佐伯さんが俺と結愛にそう謝った。
「よかったです。咲さん。あたしほっとしました。」
結愛は本当によかったという風に佐伯さんにそう話した。
「いや、大丈夫で良かったよ。」
俺もそう返す。本当に佐伯さんが無事でよかった。あの時俺は佐伯さんがあのまま立ち直れないのではないかと心配したものだ。
「あ、お兄ちゃん!あたしこの後、友達と少し予定があったの忘れてた!先に帰るね!」
結愛は慌ててそう言った。
「咲さん、今日は本当にありがとうございました!これからも応援してるので頑張ってください!また!」
「うん!結愛ちゃん気をつけて帰ってね」
「はい!」
結愛は佐伯さんにそういい残し走って帰っていった。
控え室には、俺と佐伯さんだけが残された。
「佐伯さん今日はほんとうによかった。誘ってくれてありがとうな。」
俺もそう言って、そろそろ帰りの頃合かと帰ろうとしていた。
「ねえ、本庄くん!ちょっと話さない?」
佐伯さんはそんな俺の様子を見て呼び止めた。
「ああ、わかった。」
俺は驚いて戸惑いながらもそう返事をした。
「今日の、見たよね?」
佐伯さんは俯いてそう聞いてきた。恐らくランウェイでのハプニングの事だろう。
「ああ。」
俺は、そう一言返した。佐伯さんはさらに下に俯いた。
「あたし、自信が無いの...」
―佐伯さん?
佐伯さんのこんな姿なんて初めて見た。
「ランウェイで転んで、失敗して。私はトップモデルなんかにはなれない。
こんなんじゃ、お母さんみたいにはなれない...」
そう言って佐伯さんは涙を流し始めた。
「佐伯さん...」
俺は涙を流す佐伯さんを前に言葉が出なかった。いつも明るい佐伯さんが今は涙を流している。
「いつも思ってたの。お母さんは私の憧れでそして、私の全てだったの。でもそれと同時にお母さんみたいになれない自分に焦ったり、お母さんに対して嫉妬したりもした。
このままの私じゃダメなの...。」
佐伯さんはそう言って泣いていた。俺はそんな佐伯さんの様子を見て言葉が口をついてでた。
「そんな事ない!佐伯さんは転んだってランウェイで笑顔を見せてた。普通の人ならできないことだ。俺はそんな佐伯さんが素敵だと思う!それに、お母さんみたいになれなくたっていいんじゃないか?」
俺は泣いている佐伯さんに向かってそう言った。
「え?」
佐伯さんは驚いたように聞き返した。
「佐伯さんらしくでいいんだ。お母さんと比べなくてもいい。今日の佐伯さんは本当にかっこよかった。そんな自分を認めていいんじゃないかな。」
俺はそう言った。俺の本心のま間を佐伯さんに伝えた。
「本庄くん...」
佐伯さんは涙をふいてこう言った。
「ありがとう。」
―よかった。
俺は心の中でそう思った。佐伯さんはもう泣いてはいない。俺の言葉が届いたようだ。俺もその様子を見てほっとした。
「ねえ、これからは新くん、て呼んでいい?」
佐伯さんは次の瞬間イタズラな笑みを浮かべて俺にそう言った。
「あたしのことは咲、て呼んでね!」
にっこり笑った、佐伯さんがそう言ってきた。
「え、あ、ああ、うん。」
俺はすごーく動揺しながらもそう返事をした。
「よかった!これからもよろしくね、新くん!」
佐伯さん、いや、咲はやった!と言うふうに喜んでみせた。
―え?え?名前を呼んでくれた。俺も名前呼びでもいいのか?そ、そ、そんな急に!?
こ、これはお近づきになれた、てことか?
こ、こんな嬉しいことあっていいのかー!
俺は舞い上がりながら、今日を終えたのだった。
俺と咲はこの先どうなるのだろうか。
俺とヴァンパイア ~地球滅亡は俺次第!? @suiseiyarou
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