第8話 佐伯さんの夢 (前編)

―パシャッ―パシャッ


「すごーい!ね、お兄ちゃん。」

結愛は、目をキラキラと輝かせながら俺にそう言ってきた。


「おお、そうだな。」

俺は結愛に対してそう返した。

たしかに凄い。ここは、とある撮影スタジオだ。

俺も妹の結愛もこんな場所に来たのは初めてだ。


「どーう、本庄くん?結愛ちゃんも。」

そう言って佐伯さんが話しかけてきた。


「もう、最っっっ高です!咲さん素敵!!!その格好もすごく似合ってます!」

結愛はテンション高々に佐伯さんにそう言った。


「そーう?」

佐伯さんは嬉しそうに着ているスカートの裾の端をもって、左右に少し振ってみせた。


―くう!たしかに素敵だ。流行りのオシャレなファッションに身を包んだ佐伯さん!今日は髪をハーフアップにしてるし!

俺は佐伯さんのファッションを見て、唸った。いつもの佐伯さんも素敵だか、今日は一段と美しい。


そう佐伯さんはモデルをやっていたのだ。

俺は佐伯さんが放課後に足早に帰ってしまう理由をやっと理解出来た。


それはマリアが学校にやってきた日、佐伯さんに「ねえ、新くん。今度来て欲しいところがあるの。」と言うふうに声をかけられたのが始まりだ。


その次の日に佐伯さんから、実はモデルをやっていて撮影を見にこないかと持ちかけられた。

俺はひとつ返事でOKした。

佐伯さんがモデルをやっているとは知らなかったが、そんな佐伯さんも見てみたいし、何より気になる子からのお誘いだ、断るわけないだろう。


そうして、遅く帰る理由を母さんに説明すると、どうしたことか妹の結愛にも伝わってしまい、ファッション大好きな結愛は一緒に行きたいということで付いてくることとなった。

―く、本当は2人きりもよかったんだがな。

くう、と新は涙を飲んだ。


「2人とも来てくれてありがとう。そう言ってくれて嬉しい!」

佐伯さんは嬉しそうにそう言った。

「実はね、私トップモデルになるのが夢なの。今はまだまだだけど、いつかテレビのCMに出るようなビックな存在になりたいんだ。」


佐伯さんはそう俺たちに夢をかたってくれた。

「咲さんなら絶対なれます!」

妹の結愛が、そう勢い込んで言った。

「ね、お兄ーちゃん」

そして俺の方を向いて、そう言ってきた。


「ああ、そう思うよ」

俺も佐伯さんに是非夢を叶えて欲しいと思った。佐伯さんにそんな夢があったなんて初めて知った。


「ありがとう。私ね、お母さんがモデルなの。本当に素敵で、小さい頃から憧れていたの。私もこうなりたい、てね。」


そうして佐伯さんは、とある雑誌のページを見せてくれた。


「え、これ、て、芦田 彩里?!(あしだ さいり)」

妹の結愛はかなり驚いたようだ。


「え、ほんとーなのか!?」

俺も驚いた。芦田 彩里は、テレビで特集が組まれたり、街頭でポスターが貼ってるあるなどの、超有名人だ。


「そう、うちのお母さんは芦田 彩里なの。私の憧れなんだよ。」

そう言って佐伯さんは微笑んだ。本当に母親が好きなのだろう。


「でもね...私」

佐伯さんはそう言って少し暗い顔をした。


「咲ちゃーん、次の写真撮るよー。」

スタッフがそう声を掛けてきた。


「あ、戻らなきゃ!新くん、結愛ちゃんゆっくり見学していってね!」


そう言って、佐伯さんはすばやくカメラの前に戻っていった。


―――


「お兄ちゃん!凄かったね!」

妹の結愛がそう感嘆した。

俺たちは佐伯さんの撮影を見学し終わり、家に帰るところだった。


「ああ、ほんとにそーだな。」

俺はしみじみと今日の佐伯さんを思い出しながら頷いた。


「咲さん、レディコレクションに出るんだね!ほんとに凄い、あのランウェイを歩くんだ、見に行かなきゃ。」


結愛は舞い上がりながらそう答えた。

レディコレクションとは、女の子たちが憧れるモデルのファッションショーだ。

モデルの女の子たちがランウェイを歩きポーズを取る。

世界的にも有名な催しだ。


「凄いよな。俺も佐伯さんがランウェイを歩く姿楽しみだな。」

俺も結愛と同様楽しみに返事をした。


佐伯さんからは撮影の最後にレディコレクションに出ることと、ランウェイを歩くので見に来て欲しいと言われていた。


俺も結愛もワクワクしながら帰っていた。


―――


部屋に帰りつくと、マリアが俺の部屋のクッションの上で寝ていた。


「最近、疲れてるんだなあ。」

俺はマリアの寝顔を見ながら、よく寝ているなあと考えていた。


俺はふと我に返って、星降らせの儀式のことを思い出した。


―こんな平和な日常だとそんなの嘘だと思っちまうなあ。

俺は半ばそう考えながら本当は星が落ちて来るなど嘘ではないかと少し考えたりもした。

が、マリアの存在が何よりの証拠だ。


―やはり俺が頑張るしかないだろ。

新はそう思いなおした。

星降らせの儀式をしたのはクラスメイトの巫(かんなぎ)だ。

巫がなぜその儀式を行ったのかはさっぱり分からない。

しかし、マリアは、巫について何かを知っているようだった。


「今は良いが。マリアが起きたら巫のことをきかないとだなあ。」


俺はそう思いつつ、マリアが暇な間に漫画を読んだのか散らかした部屋を少し片付けていた。


そして、漫画の何ページかに付箋が付いているのに気づいた。


―ん?


それはどうやら恋愛的なシチュエーションに付箋をつけてあるようだった。

マリアは本当に突飛な行動が多い。

何より嫌な予感がしたのは、主人公の元にモンスターの娘が次々と求愛を仕掛ける漫画に大量に付箋が着いていた事だった。


―うん、そしてマリアが変な知識を漫画から得て、影響されませんように。

絶対、絶対に、変なことが起きませんように!!


俺は漫画類を全て本棚に直しながら、全力でそう祈ったのであった。


こうしていつの間にか夜が更けていった。

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