「『きるけぇ』の島に流れ着いた男は、二度とそこからでることはできない——」
惚れた男を獣に変える化け物と恐れられるきるけぇの島に、六十人目の男は流れ着いた。
そこにてしだいに明らかとなるきるけぇの正体と過去、男は「一緒に島を出ないか」と彼女を誘う。
官能溶かせし彼女に、手を出せば人間には戻れない……。
理と性の間で葛藤する男がたどる末路とは……。
過去も未来も混在する不思議な世界で、彼らは時間(とき)の旅をする——。
昔話のような序盤から、潜水艦の登場で一気にSFに。それでいてギリシャ神話要素が豊富であり、多彩なエレメントを兼ねそろえた新感覚の物語。
神話、歴史、SF、幅広い小説好きさんにもっと読まれて欲しい傑作です。
ここからは大人の世界です、よい子はお帰りくだ……ごめんなさい嘘です、いくつかレイティングが付いていますが、基本的には全年齢向けです。
さて本作は、ギリシアやバビロニアの神話をベースとして、異世界(異次元)転移やSFの要素を加えた、かなりの異色作となっています。いわゆる伝奇SFとも言えるかもしれません。
妖女「きるけえ」の住まう島へ独り漂着した主人公は、かぐわしい色香を放つ「きるけえ」による誘惑の数々に耐え抜く地獄のような日々を送ることになります。
島にいるのは自分と「きるけえ」、そして、獣や歪な獣人の姿をした、かつて人間だった男達。
そう、「きるけえ」の誘惑に負けたら最後、彼女の恐るべき呪いによって獣へと変じてしまうのです。
そんな極限状態の中、主人公は故郷に残してきた妻子を想いながら、獣となった男達と手を組み、「パイケーエス式潜水艦」を使って島が存在する時空の狭間からの脱出を試みることとなるのですが……
そんな、神話とSFが不思議に入り交じる本作。神話が好きな人、不思議な話が好きな人、そして、妖艶で美しい女性に迫られる話が大好きな人は、マスト読むべしです!
そして、男性諸君。誘いに乗ったら獣に変じると分かっていてもなお、あなたはこう思うはずです。
是非とも、魅力的な「きるけえ」と、ひとつになりたいと。