第41話 再起の為の動画
玄関のインターホンが鳴ったので玄関前で迎えに行く。
顔を確認せずとも、この時間帯なら二人の内どちらかだろう。
そう思って扉を開けたら驚いた。
どちらかじゃなく、どちらともだった。
「いらっしゃい。二人とも一緒だったんですね」
「たまたまです」
「そう、だね」
カザリちゃんも久羽先輩も視線を合わせようとしない。
もしかして、この二人あんまり仲良くないのかな。
そういえば二人が一緒にいる所って、あんまり見たことないかも。
どっちも人当たりがいい方だから、打ち解けたらすぐに仲良くなりそうだけどな。
「いらっしゃい、久羽先輩と、問題児」
「誰が問題児ですか、誰が」
栞がわざわざ喧嘩を売ったので、頭を抱える。
元気になったのはいいことだけど、なんでいつもカザリちゃんに対して敵愾心丸出しなんだろうか。
「今日はみんな仲良くやろうよ。せっかくのコラボ動画なんだから」
今日は特に仲良くしなければならない。
なにせ、再びカザリちゃんとコラボ動画をすることになったのだから。
炎上した面子だったのに、またコラボするのはリスクがある。
あの恥ずかしいシーンの動画がいつのまにか撮られ、しかも流出してようやく炎上騒動は収まった。
なのに、自分達の手で再び着火させるような行動だけど、これはみんなで話し合った結果、またコラボをやろうということになった。
「コラボ動画っていっても、謝罪コラボ動画だけどね。聴いたことないんだけど」
栞が言う通り、今回撮影するのは謝罪コラボ動画だ。
あの時の炎上騒動でファンの方々に多大な迷惑をかけたことを謝り、そして今後の動画の方針について報告する動画だ。
誰かに盗撮された動画が世間に出回ったことから、もうファンの間では確信していることだろうが、俺達は再び動画を投稿していこうと思っている。
今度は正直に、付き合っていないと告白した上で、動画を投稿していくつもりだ。
今まではギクシャクしていた関係じゃいけないと思って、無理してイチャイチャするような動画を撮ってきた。
だけど、もう嘘をつかなくていい。
カップル然とした動画ではなく、仲がいい友達として動画を作ろうと思う。
まあ、そもそも動画の概要にはどこにもカップルチャンネルなんて書いていない訳だから、これはこれでいいんじゃないだろうか。
反対の声も多いだろうけど、続けていきたいっていうのが本音だ。
また炎上したとしても、前よりかはダメージが少ないはずだ。
一度経験した痛みだったら耐えられる。
俺達は強くなっているはずだ。
「久羽先輩は何も悪いことしていないんだから来なくても良かったって思うんですけどね」
「うーん。でもやっぱり動画のコメント欄で、この人誰? みたいなコメントが多かったから、やっぱり声だけ出演はしておいてもいいかなって」
あの動画は色んな意味で注目されたこともあって、新規の人間に多く見られた。
この人は俺達の友達です、といった説明はしたけど、軽くしただけだ。
この顔の映っていない人も何らかの形で隠蔽工作に加担したのでは? みたいな憶測も一件、二件ぐらいだけだが書かれていた。
その辺の説明もしておいた方がいいかも知れない。
「タイミング悪かったですねぇ」
カザリちゃんがお茶を啜りながら、しみじみと言う。
まだ、そのお茶飲んでいいって言ってないんですけど。
ちゃんと四人分用意しているし、別にいいんだけど、一言ぐらい聴いて欲しかったかも。
「というか、二人はどうするの?」
「どうするとは?」
久羽先輩の質問の意図が分かりかねた。
俺もお茶を飲みたくなったのでコップを手に取るが、
「二人はまた付き合うの? 台本だと何もその辺については触れられていないけど」
久羽先輩の意地悪な質問に、カップを取り落としそうになった。
「それは私も聴きたいですね」
カザリちゃんが身を乗り出して訊いてくる。
これは、まずいな。
助けを求めるように栞に視線を送るが、期待するような眼でこちらを見返すだけだ。
何か言ってくれ。
何も言わないってことは、俺が決めていいんだな。
意を決して俺は答える。
「予定は未定です」
栞は力が抜けたように、机に突っ伏す。
「――――ッ」
勢いよく額にテーブルをぶつけたせいで悶絶している。
何やっているんだ? 栞は。
「私だったらいつでも付き合いますからね」
「これ以上騒ぎを大きくしないでね。せめて今日の動画が終わってからアプローチして」
バチバチになってるカザリちゃんと久羽先輩の影に隠れて、栞がひっそりと接近してくる。
他の二人に聴かれないように囁く。
「ちゃんとした答えが出るまで待ってるから」
正妻のような佇まいでそう言ってくれた栞に、俺は頭が上がらなかった。
「ありがとう」
彼女と別れたけど、カップル動画の為にビジネス彼氏を続けます! 魔桜 @maou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます