第十二話「後継(サクセサー)」

僕は完全に戦意が喪失して、もう何もかもがどうでもよくなった。今なら死ぬことも怖くないし、どうにもならないことに苦悩しなくても済む。むしろ、いろいろなことから解放されて楽になれるからその方がいい。・・・クリア不可能なゲームをやらされていたんだな…僕は。


「あばよ、楽になりな!・・・・・・なっ!?、お前…どういうつもりだ!!」


(村島勇人、諦めるのは早いですのよ!…私はあなたに信頼をおいているのです。このゲームを終わらせるのではなかったのですか?)


大鎌の女が何やら動揺しているようで、様子がなんかおかしい?僕は虚ろな目をしていてぼやけていた視界を晴らし、焦点をそちらに合わせてみる…僕の手から離れたハルジオンが振り下ろされた大鎌を凌いでいた。・・・武影器が自らの意志で闘っている!?そんなことってあるのか。今まで、武影器は影喰の殺し合いをあくまでサポートする立場だという認識でいたけど…そもそもハルジオンは影喰である僕に何でここまで尽くそうとするのだろう?・・・分からない。


「影喰から独立して武影器が自ら攻戦するのは、ザンドラではルール違反だろ!…いや、そもそも制約が武影器自身に課せられているはずだから、仮にやろうと思ってもできないはずだ。」


(能力改竄をして影喰を不用意に乱獲している貴方が仰ることではないと思いますが。私は村島勇人に忠実に仕える武影器。影喰の命ならばそれに応えるだけですのよ。)


「甚だ疑問だ。影喰にそこまで情のある武影器なんて聞いたことがないわ。…お前、普通の武影器とは違うな?過去にも多くの影喰に仕えてきているはずだ。そこで何かあったな?」


(ザンドラで解散の鈴の音が鳴り、影喰が元の世界に戻る時には武影器自身にも影喰の存在記録更新がなされるのは貴方もご存知ですよね?私が今まで仕えた影喰のことを覚えているなんて、あり得るとお思いで?)


ハルジオンは剣の姿のままで激しく繰り出される大鎌の猛攻に応戦している。その剣捌きは素人目の僕からしても見惚れるぐらい華麗である。武影器として仕えた影喰は僕が初めてというわけではないらしいので、過去の歴戦の中で身につけてきたものなのだろうか?しかしそれを持ってしても大鎌の女の対応力は異常だ。次第にハルジオンは力負けしてきて、押されてくるようになった。…ハルジオンの守りが一瞬だけ崩された。大鎌の女はその隙を逃さなかった。


「影喰、武影器ともにくたばりな。…『ソニックストライク』!!」


「・・・『ハイボイドウォール』!!」


大鎌の女から繰り出された強力な斬撃で完全に死を覚悟していた。しかしふと気がついたら、以前見たことのある美しい破片の散らばる光景が辺りに広がっている。それと僕の目の前にはライオン2頭がもの凄い形相で大鎌の女を威嚇している。…いや、よく見るとライオンではない。これは…キメラ!?何でそんな魔獣がここに?・・・今一度冷静に考えてみたら答えはすぐ分かった。あれらは紫音さんの魔法で彼女が僕の近くにいると。あのキメラは紫音さんの召喚獣といったところか。その一頭が獰猛な咆哮をあげながら大鎌の女に襲いかかった。もう一頭の方も口から火を放ち、攻戦し始めた。その間に僕はハルジオンを手に取って、いつでも戦闘態勢を取れるよう構えた。


「勇人君、よかった無事で。ここに来る途中で影喰と闘うことになっちゃって時間がかかってしまったの。不安にさせてごめんなさい。『デッドクレセント』使い相手によく生き延びれたわ。」


「紫音さん!…僕、また紫音さんに迷惑かけちゃいました。自分の命くらい自分でどうにかしなきゃと思っていたのに…すいません、本当にすいません。・・・僕がこんな弱すぎるせいで僕の大親友の善太郎も僕を助けてくれた少女も死んじゃいました…彼らの代わりに僕が先に消えれば良かったのに。」


「気を強く持ちなさい、勇人君。あなたがそんな状態では亡くなった影喰たちの死が無駄になってしまうわよ。あなたの考えに賛同してくれる人たちだったのでしょ?それなら、あなたは自信と希望を持って前を向いて歩くべきではないのかな?後ろめたいことばかりに囚われていても何も好転はしないと思うわよ。『僕ならできる』そう強い意志を持って生きるべきよ。」


「・・・!?」


紫音さんの言葉がもの凄く僕に突き刺さった。何で僕はいつまでもこんなネガティブなことばかり考えていたのだろう。善太郎とあの少女にも何かしらの信念や志があったということを全く頭に入れず、ひたすら自分のことばかりに囚われていた。人のことを思いやっているつもりで蓋を開けてみれば自己中だったということだ。僕は彼らの考えや意見には概ね同意していた。本当にそんな彼らを想う心があるのなら、志半ばで散っていた彼らの気持ちを汲み、その意志を継ぐべきではないのか。生きて生きて生き抜いて、彼らが咲かせたかった花を僕が咲かせるんだ!

それをやり遂げるためには僕が弱気になっていてはいけない。

『僕ならできる』

自信を強く持って生きないといけないんだ!


「お話はそれぐらいでいいか?紫音、やはりお前はそんな影喰の肩を持つんだな?・・・もういい。お前もろども消し飛べ!」


大鎌の女は2頭のキメラを呆気なく倒していた。倒されたキメラは黒いシルエットとなって雲散霧消した。その後、彼女は右手を開いて上にあげて詠唱し、再び魔法陣を呼び出した。さっきの光の矢の魔法とは桁違いのエネルギーを感じる。風が荒くなり発光する光も眩しい。地面が揺れ、轟音も鳴り始めた。詠唱時間も長い。薄暗いザンドラが紅く色付いていき、彼女の髪も激しく靡いている。・・・かなり大きく危険な魔法が来る!防御して凌げるレベルの攻撃じゃない。とにかく距離を稼いで回避しないと即死するレベルの攻撃だ。戦闘経験が全くない僕でも今までで一番ヤバいやつが来ると分かる。


「あれは!・・・勇人君、急いでここから逃げるわよ!こっちに来て。・・・『テレポートマジック』!!」


「最上級影術『メテオストライク』!!」


大鎌の女が魔法を放つと巨大で無数の魔法隕石が落下し始めてきた。落下した魔法隕石は爆発を起こして地面に大きなクレーターを形成し、砕け散った破片は鋭い弾丸のように四方八方に飛んでいく。辺りも先ほど以上に赤みが強い色へと変わっていた。

巻き込まれていたら確実に死んでいただろう。紫音さんの転移魔法のおかげでその危機から逃れることができた。


「チッ、また逃したか。でもあいつらにちょっと興味が湧いてきたぞ。あの武影器も含めてな。…紫音、次会う時にはお前の心境を聞かせてもらうとしよう。」

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