第六話「片想(アンリクワイテッドラブ)」
流石にクラスの人たちがいる前でハルジオンさんに話しかけるのも男子生徒に妬まれたり、女子生徒に茶化されたりといろいろ面倒なので、放課後の生徒会室で話すことにした。幸い、今日は生徒会の仕事は休みだったので、先生には適当な言い訳をつけてその部屋を借りることにした。
授業中のハルジオンさんは口数は少なかったが、至って普通な感じで授業を受けていた。…本当に僕の武影器と関係があるのかを疑ってしまう。
「ハルジオンさんって、もしかして僕の武影器ですか?・・・いや、その〜、ハルジオンって名前聞き覚えがあったんで…僕の勘違いだったらごめんなさい!」
「・・・左様。私は村島勇人、あなたに仕える武影器ですのよ。影喰であるあなたと武影器である私は一心同体。そして影喰に使われて初めて自身の存在意義を感じることができる。それが武影器。・・・それなのに、あなたはなぜか私に冷たい。先ほどの自己紹介の時も私の事を全く気に留めてなかったではありませんか?…運命で結ばれ、これから長いお付き合いになるのですから、もっと私のことを愛して下さいませ!!」
やはり彼女はあのハルジオンだったようだ。何かといろいろ疑問に感じるところはあるのだが…目の前の美女に愛の告白をされている感じがするのが凄く恥ずかしいというか若干嬉しいというか、心臓のドキドキが止まらない。影喰と武影器は共に闘うモノ同士の関係だから親睦を深めたいというのは理解している。だが、僕の右手を両手で握りながら、あの姿で面と向かって言われると誰だって別のことを妄想してしまうだろうよ。決して僕の心が邪なわけではない。
「ご、ごめんなさい。その〜…僕はハルジオンのことは僕だけに与えられた武影器だから大切に思っているし、君がもしいなかったら紫音さんもあの大鎌の女にやられていたとこだったから凄く感謝もしているよ。でも・・・その姿でそんな事を言われると…その〜、なんて言うのかな…僕もクラスのみんなも勘違いしちゃうから止めようよ。…ね?」
「!?・・・嬉しいですわ!村島勇人、あなたは私の事をあまりよく思っていないのかと思っていましたの。杞憂だったわけですね。しかし、『勘違い』とは?・・・村島勇人、私はあなたのことを愛しているのです。そこに嘘偽りはありませんのよ!」
「あ、うん…そう、なんだね…」
年頃の学生には結構効くから諌めたいのだが、糠に釘だった。ハルジオンも決して僕をからかっているわけではなく、自身の気持ちをストレートに表現しているだけなのだけれど…人間の感情とは繊細なものだと改めて思い知らされた。・・・話題を変えよう。このままだとよからぬ方向に話がシフトしていく可能性もあり得るし、何より僕の精神が持ちそうにない。それに他にも彼女に聞きたいこともある。
「ところで、ハルジオンは武影器なのになんで人の姿をしているの?そもそも、武影器も影喰と同じようにザンドラと実世界を行き来できるわけ?」
「私たち武影器は各々の影喰に固有で与えられるパートナーですの。影喰が実世界から選ばれ、ザンドラに送り込まれるのとは対称的に、武影器はザンドラから選ばれ、実世界の影喰に仕える使命を負う。そしてザンドラでは真の姿である固有武器となりて、影喰の闘いをサポートする。こちらの実世界には特権として、武影器は足を踏み入れていいことになってますのよ。ただ、武器の姿のままだと世界法則や秩序を乱し、混乱を招く危険性があるが故に仮の姿になる必要があること。武力を徒らに振るわないようアンチ影術が強制的にかけられて無力化されていること。とかいろいろ制約もありますわ。それですから私は今この姿なのです。」
なるほど。一応、武影器もこの実世界の人間に混じって生活できるということか。僕以外にも影喰がまだ何人もいるから、知らず知らずのうちに仮の姿をした武影器とコンタクトをとっている可能性もあるということだね。まあ、武影器に限らず影喰もそうだろうけど。・・・でも、そこでちょっと気になることが出てきた。僕は話の流れでそれを思わず彼女に投げかけてしまった。
「ハルジオンはなんで仮の姿をそんな女の子にしたの?仮の姿なら別に他のものにでもなれたんだよね?」
「そうですけれど…主、村島勇人に愛されるためには、もっと女性的な面を表に出した方がいいという結論に至ったので、私なりにいろいろと勉強をして魅力的な女性の部分を惜しみなく盛り込んだのですわよ。私は結構気に入っているのですが、肝心の村島勇人はお気に召さなかったらしいですものね…」
また、この話に自ら戻してしまった。安易に聞いた僕が馬鹿だった。でも彼女の僕に対する気持ちは本当に嬉しい。影喰である僕に少しでも歩み寄ろうとしてくれている。なんだか謎の罪悪感が生まれてきた気もするが、相手の外見が美女なだけにやはり抵抗がある。仮の姿が犬や猫だったらどれだけ接しやすかっただろうか考えてしまう。
彼女から大体聞きたいことは聞き出せたので、これ以上話を続けても色恋話ばかりで終わってしまうだろうから、早々に切り上げて僕ら二人は生徒会室を後にした。
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