第11話「出発と初仕事」
さて、ようやく自分の船にまで戻ってこれました。
え?アリスは?ええ、セキュリティゲートで引っ掛かりましたが、そこはエルさんの謎技術ですよ。
『はい、これが彼女の身分証』
そういってエルさんが何事もなかったかのように自然とない筈のアリスの身分証を出した時は驚きを通り越して尊敬しましたね。可愛いですけど。
傭兵登録するだけでこんなに大変なことになるなんて誰が判っていたでしょうか。
それになんか拾って来てしまいましたし。
拾ってきたアリスは目の前の僕の船を見てポカーンとしています。
「これが僕の船だよ?」
自慢です、自慢。
こんなに小さい子供が戦艦サイズの宇宙船持ってるなんて、そりゃ驚くってもんですよ。
「宇宙船って、こんなに大きいんだ」
あ、そうでした。アリスは宇宙船自体初めて見るんでしたね。
「うん。色々な物を入れているからね。僕の船は一応戦闘向きにしているから、なおさらかなぁ」
そうです。船を作り変える際に、エルさんが結構戦闘向きにチューンしていたのを後ろで見ていました。まぁ、どんな機能を持った項目かなんて理解できませんでしたが。
「おうちも兼ねてるの?」
少し、たどたどしい口調はかわいいですね。一応言っておきますが、ロリコンじゃないですからね。
「家の全てがこの船の中にあるよ。さて、入ろうか」
そうしてようやく僕は船に帰ることができましたとさ。
終わらないよ?
「とりあえず、綺麗にしてきます」
船内に入るとすぐにエルがそう言った。
そう、アリスをまるで荷物のように小脇に抱えながら。
「にゃぁぁぁああああ」
なんなかわいらしい悲鳴を上げながらアリスはエルに連行されて行きました。まぁ、超が付くほど汚かったし、匂いもそれなりにしていたからね。衛生第一です。
さて、今のうちに色々と用意しておきましょう。
まずはアリスの部屋ですが、そもそもの船、船室があまりありません。
まぁ、人でも運用できる構造にはなっている為、最低限の操作室などは各所にありますが、基本的にエル一人いれば動かせます。
そんな理由もあり、船室を削ってその分機能を押し込めています。
「ん-、必然的に僕の部屋の隣になるけど仕方がないか」
ちなみに僕の部屋、艦長室でもあるんですが、けっこう広いです。
最初の設計時は、もっと広くする予定だったようですが、僕が落ち着かないとの理由で変更させました。ちなみにベッドはキングサイズの天蓋付きです。
なぜかそこだけはエルが譲りませんでした。え、理由?怖くて聞けてませんよ。
「あとは、メイド隊へのアリスの情報登録くらいかなぁ」
いくらオートメーション化された船であっても、船内の人が入る場所は汚れてしまします。その為、ラボから連れて来たメイドアンドロイド達に掃除など艦内維持全般をさせてます。
ああ、ちなみにメイドアンドロイド、興味本位でお値段検索したら飛び上がりました。標準モデルですら小さい宇宙船1隻買えるくらいの値段にビックリです。ラボでは時間はかかりますが、材料さえあればいくらでも作れたんですがね。
ちなみにこの船に乗せているメイドアンドロイドは10体います。全てエルが何か改造を施していたようで、色々と機能を乗っけているみたいですがね。
そんな理由で彼女たちもワンオフですよ、ワンオフ。怖くて値段なんか聞きたくないですね。僕はお金持ちでもなければ、小市民なんですよ。
え?どこかの貴族の子女じゃなかったかって?そんな昔の事忘れましたよ。
さて、ぱぱっとアリスの個人登録をしちゃいます。
船の中を移動するのにもパスは必要です。
不審者が侵入してこないとも限りませんので。セキュリティは万全です。
そもそもエルの監視網を潜り抜けて入り込む不審者がいたら驚きますがね。
「よし、とりあえずレベル3までは自由に移動制限を解除っと」
レベル3クラスは、居住区エリアまでの移動許可になります。一般通路と非常通路及び居住区はオールフリー。あと艦橋は限定付きで許可となります。
それ以上のクラスになると、動力源のある機関室や今やエルの抜け殻がある電算室、あとは武器弾薬等を操作/制御できる部屋などもあります。
まぁ、一応部屋はあるけど使ったことなんてないですがね。そもそもエルさんに使えない機能なんてこの船にはありませんので。
そんな事をしていたらエルが帰ってきました。
艦橋へ通じる扉が開き、エルと、
「誰?」
そう、美少女がいました。え?アリス??どこにいるの?へ?目の前の女の子がアリス?
ベタすぎやしないですかね。とにかく見間違えるほどにアリスは変わっていました。
「・・・初めて湯船につかった」
どうやら本人は非常にご機嫌の様でなによりです。
「ていうか、変わりすぎじゃ?」
「元が良かったので、磨き上げました」
どうやらエルさんが本気出して綺麗にしたようです。
そもそもスラム街では湯船なんてありません。宇宙船でも湯船付きの船なんて貴族の遊覧船とか客船くらいです。戦闘艦にはありませんよ。
え?この船は、って?例外です、例外。物事何にでも例外はあるものですよ?
「結構短時間だったけど、綺麗になっててビックリしたよ」
湯船でしっかりと温まったのか、アリスの顔は少し赤くなっています。
それよりも驚くのが、彼女の綺麗な髪です。
元々くすんだ金髪だったのですが、輝くような金髪へと変貌しています。お風呂がどれだけ大事なのか実感させられますね。
「アリスの登録も済ませたから、あとは軽く船内の紹介かなぁ」
どうやらエルさんも共通の認識らしいです。
ではでは、エレビエル船内ツアーを開始します。
エレビエルは全長約1000メートルの宇宙船で、端から端まで歩くと30分ほどかかります。まぁ、メンテナンス通路がほとんどになってしまうので、通常通路ではそもそも先端まではいけなのですがね。
さて、そもそも船舶の分類から行きましょうか。
船舶、この場合は宇宙船に限りますが、分類はこの前紹介しましたね。小型艇から大型の輸送船までの分類があります。
そしてその船の大きさを表す単位としては基本的にはメートル単位で表し、ざっくりと100メートル単位で区切ります。
100メートル以下の船舶は基本的には小型艇扱いです。この前僕の棺として使用されたあの船みたいに小さい船ですね。
そして100メートル以上500メートル未満を駆逐艦級で表します。まぁ、戦闘艦に限った呼び方なので、商船とか輸送船はそもそも呼び分けはあまりしてないんですけどね。
戦闘艦を分類する必要があるのは、単純にその戦闘能力です。
戦闘艦の戦闘力を単純に図る指標は簡単です。主機、その出力ですべてが決まります。
現在の宇宙戦闘艦の主な攻撃手段は光学兵器です。
エネルギーを用いたビーム兵器類が主戦場である戦闘艦は、その主機の出力に戦闘能力が左右されるのです。
よって、必然的に小型艦であれば、小さな主機。大型艦なら大きな主機で豊富なエネルギ―がある、となるわけです。
さて、ではこのエレビエルはといいますと、ちょっと違います。
いえ、確かに分類上は1000メートルには微妙に届かないので、準戦艦、所詮巡洋艦扱いとなります。
しかしながらその主機の出力は2000メートル級の重戦艦級よりも多いのです。そこ、ない胸を張らないでください。エルさん、あなたの事ですよ?
そんなエレビエルの主機は、今まで技術的に不可能とされてきた縮退炉を使用しています。それも2基。
1基ですでに戦艦以上の出力を持っているので、主機だけで出力お化けですね。そんな有り余るエネルギーは色々と友好活用していますが。
さて、そんなエレビエルですが、もう一つほかの戦闘艦と大きく違う点があります。それは何でしょうか。はい、アリス君。
「とても綺麗?」
なんと純粋な答え。みなさんも見習ってください。
確かに、エレビエルは出来立てほやほやの新造艦です。まだテストしてない項目もいくらかあります。ではなく、
「エルの存在ですね」
おやおやアリスが頭に?を浮かべています。まぁ、確かにそういわれるとそうなるでしょう。エルは見た目からしてただの女の子ですからね。
一般的に戦闘艦は乗員が数十名乗り込んで人間が操作しています。
これはある程度自動化されていますが、最終的な判断/操作は人間が行うとされていることに由来します。一番は技術力の差ともいえますがね。
さて、そんな半自動化状態の戦闘艦の中で、このエレビエルは乗員が二人しかいません。ええ、アリスを含めても3人ですね。
そんな艦を動かしているのがエルなんですよ。
「さて、ここから先の話は他言無用ですよ?」
場合によっては契約書に記載どころでは済まないほどの機密になります。
そうアリスを脅しながら僕は続けます。
「ざっくり話すと、エルは人間ではありません」
アリスさんや、先ほどと同じく頭に?どころじゃなく、目にも?が見えますね。
「分類上で言うのならば、僕たちホモサピエンスではなく、機械生命体という種族にになります。人間じゃないんだよねぇ」
こら、そこでドヤ顔しない。アリスが余計に混乱するでしょう。
「私はマスターのパートナー。マスターは私の契約者」
はい、余計に混乱する情報をありがとうパートナー君。とりあえず、お茶でも入れといで。
さて、機械生命体というのを細かく説明していくと非常に難しいので、簡単に説明します。
「簡単に言うと、人間よりも遥かに高い科学技術を持つ種族で、エルの体は人間と遜色ないモノである、というところだけかな」
細かく言うと人間に入っているはずのナノマシンとかが入ってなくて、別のモノが入っているらしいけど、僕たちの科学技術ではそれらを見つけることすらできないんだよね。
あとの艦内説明はアリスがポカーンとしていたので、はっきりと覚えているかは疑問だけど、終わりました。
さて、ようやくひと段落着いたところで、お仕事選定のお時間です。
「本当にようやくですね」
あれエルさんや、そちら側に付くんですか?僕、傷ついちゃいますよ?
「さぁ、気を取り直して仕事一覧を拝見しましょうか」
そうやって視線を向けるのは傭兵ギルドのクエスト一覧です。
ギルドで発行されたカードにはID情報などが記録されていて、それを入力することでネットワーク経由でお仕事を閲覧、受注することができるんですね。
例えば仕事である星まで荷物を運んで、荷物を受け渡したらすぐその場で次の仕事を受けることができる。そんな仕様になっているのです。
傭兵ギルドの登録クエスト(お仕事)はルーティアネットワークに接続できればどこからでも閲覧/受注ができます。
「どれどれ・・・・」
傭兵にはランクがあり、新人の僕は一番下、ではなく少し上の14級からスタートの様です。
ランクとは一番したから16級⇒1級と特級の17段階あり、受注クエストの数と達成精度及び難易度によって加算され、昇級していきます。まぁ、新人がいきなり一桁級とかはないですよね、わかっていましたとも。
何事も地道な下済みが必要なのです。
さて、そんな仕事ですが、基本的には自身の級プラス2級上まで受注することができます。しかし、当然そこには難易度に応じてランク分けわれている仕事である為、保険金が必要になってきます。
自身の級と仕事の推奨級が離れればそれだけリスクがあるわけですね。よって、そのリスクを極力減らすためにも保険金がいるわけですね。
もちろん、クエストすべてに保険金がいるわけではありません。
討伐依頼(主に海賊ですが)などの戦闘クエストは単独であれば保険金はいりません。複数名共同でのクエストの場合は、クエストリーダーの判断で保険金の割合が変わるみたいです。
傭兵と言えど、実際にはほとんど便利屋、個人事業主みたいなもので、輸送業が7割を超えます。しかしながら例に漏れず、高額なモノや、一般的な輸送会社に断られた曰くつきなどざらですがね。
「さてさて、僕達が受けておいた方がよさそうなのは・・・・ん?」
14級~12級の仕事をソートしていたのですが、画面の一番上に何か文字を強調されたクエストが一つ点滅しています。こんな機能、この検索画面にはなかったはずですが。そう考え、エルの方を見ます。
あ、視線をそらしましたね。
「エルの仕業か・・・」
どうやら彼女はこれを受けてほしいみたいですね。
「これ、エルのおすすめ、でいいの?」
一応確認しておきます。それでこそ大人の対応です。
「はい。私はそのクエストを推奨します」
理由は、自分からは言いそうにないですね。まぁ、彼女が僕に害のありそうなクエストを選ぶ事はないですからね。とりあえず、内容を確認しますか。
どれどれ、ふむふむ。
「え、これ掲載期限ぎりぎりのあまりクエストじゃん」
傭兵ギルドの依頼は基本的には掲載期限が定められています。依頼主の緊急度、報酬、難易度などを考慮し、傭兵ギルド独自の方法で分類して期限を決めているらしいです。
さて、そんな中で掲載期限が1年以上と長期にわたる依頼があります。
それらは緊急性は高くないが、絶対にやってほしい仕事であり、そのために長期間の掲載してまでも依頼しているのです。
そんな以来の一つをエルさんは見つけて来たようです。
というか、1000件を超える依頼の中からこれを見つけるの、普通は無理じゃないですかね。僕、だいぶ検索条件付けて1000件ですからね。全体だとどれほどあるのか。
「分類は輸送任務で、このステーションからコンテナ4つを指定宙域まで輸送、そこで荷物を受け渡して終わり、と」
仕事としては簡単な部類なんでしょうけど、なんで余ってたんでしょうね。まぁ、十中八九危険な香りがしますけどねぇ。
そもそもコンテナ4つは全て小型ですけど、中身書いてないし。開封厳禁だしで怪しさプンプンですね。そもそもこんな依頼、よく傭兵ギルドの精査通りましたね。
「怪しさ満点だけど、報酬はいいんだよなぁ」
そうです。報酬は結構割高です。まぁ、距離が距離なので、運ぶ船の燃料代も考慮されているのでしょうが。
さて、初仕事としては戦闘でもなく輸送仕事。これなら難易度的に考えても問題ないでしょう。あと不安要素としては色々とありますが。
「まぁ、この船なら問題ないでしょう」
それを見越してエルもコレを選んでいることでしょうし。そもそもこの船の性能全て把握しているわけではないので、どこまで行けるのか、って言うのは疑問が残りますがね。
さて、とりあえず、次の方針は決まりましたね。
「この仕事、受けようか」
初仕事、何やらプンプンと匂いますが、これも冒険です。社会経験です。
当たって砕けろ、いや、砕けたらいけませんね。当たって砕こう精神で挑みましょう。なにかあったらギルドに借りも作れるので、ね。
エレビエル・プラネット 織田 伊央華 @oritaioka
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