因果応報

椎名さくら

プロローグ 旅立ち

償いとは自己満足。

罪にはいつか、

相応の罰が下るであろう。

これは、

罪を犯した少年が、罰を受けるまでの物語。




十四歳の誕生日。

おやじからもらったものは暴力だった。


十年前、おやじは会社をリストラされ、母は過労により他界。おやじは酒におぼれた。


ストレスのはけ口は一人息子の俺だった。

毎日の暴力。浴びせられる馬頭。


いつからか、俺はここを出ていくと決めていた。

決行は夜。おやじが酔いつぶれてから。


十四歳になった俺は数少ない部屋の荷物を持つ。カツアゲと窃盗で集めた金はある。


もう一度リュックの中身を確認する。最後に、机の奥に隠してあった母の写真を取り出す。母の思い出は父に捨てられていたが、これだけは隠して持っていた。


「母さん。俺、やるよ。あいつから逃げるんだ。」

覚悟をもう一度言葉にする。

「俺、逃げ切ったらさ、今度こそまともに生きてみせるよ。働いて、金貯めて、毎日腹いっぱい飯食ってやる。」


母の写真がぼやける。

母の写真を抱え、うずくまる。不安はある。これからは一人で生きていかなくてはならない。ここを出て、生きていける保証はどこにもない。

「こええよ、母さん。」

でも、それでも、ここで奴隷のように生きていくのは耐えられなかった。

俺はここを出て幸せになるんだ。


涙は流した。弱音も吐いた。

「見守っていてくれ、母さん。」

母の写真をリュックに入れ、立ち上がる。もう、大丈夫だ。


気づかれないように階段をゆっくりと降りる。おやじはリビングで酔いつぶれている。


玄関の扉に手をかける。

「行ってきます。」

小さな声で呟いて、とびらをおし開ける。


そこは真夜中。月明りに照らされたくらい道。静かな夜。



が、あるはずだった。






そこに広がるのは、晴れ渡る空。行き交う人。にぎやかな街並み。

白を基調とした青い屋根の家が立ち並ぶ。

人々はゲームで見るような神官が来ているような白い服を着ている。


「どこだ、ここ。」

まるでゲームの中だ。

わけもわからず立ち尽くしていると、通り過ぎる人とぶつかった。

「――――――――。――――――――――――。」

何か言われた。優しそうな中年のおじさんだ。白に紫の線が入った豪華な服を着ている。手には白に金の線が入った本を抱えていた。

だが、何を言っているのかわからない。


おじさんが心配そうな顔を向けてくる。こんな優しい顔を向けられたのは久しぶりだった。

「―――――――?―――――――――――――?」

また何か言ってくる。心配していることはわかる。でも、言葉が通じない。

俺は怖くなって逃げだした。全速力で走る。言葉が通じないのも、優しい目を向けられるのも耐えられなくなった。

「――!――――――!」

おじさんの声を背に俺は走り続けた。


どれほど走っただろうか。路地裏に入り、俺は座り込んだ。

「はあ、はあ、はあ。」

呼吸を落ち着かせようと、座り込んだ。


手に何かが当たる。数字と値段の書かれた木の板だった。そこには見たこともない文字が書いてあった。

どこか平仮名のようだが、全く読めない。

耳を澄まして通りの声を聴けば、聞いたことのない言語が聞こえる。

整いかけていた呼吸がもう一度早くなる。


「はあ、はあ。」


認めなくてはならない。


俺は、



知らない世界に来てしまったのだ。

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因果応報 椎名さくら @katikuika

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