願望交換局という不思議な店。
そこへふらりと訪れる客、噂をどこかで聞きつけて訪れる客、何かを願う者はその代償として何かを「交換」する。
これは願望交換局の若き主人であるトータと、願いを叶える者たちの物語。
人間にとって願望は切っても切り離せない関係にある。たとえば少年時代に見たささやかな夢、恋人とふたりで見た夢、子どもたちとの約束。さまざまなシーンにおいて願望それ自体が人を生かし、そして殺しもする。
願望をテーマにした本作は鋭い視線で人間の本性を暴き出している。
店主であるトータは願望交換局に来る人々を淡々とした態度で出迎える。店の地下室の扉が開くとき、それは願望を交換する契約の成立だ。
しかしそこではトータしか知らない秘密があるのだ。この秘密が物語にほどよい緊張感を与えている点も実に面白かった。店に訪れる客もまた曲者揃いで彼らの人間模様が楽しくもあり、彼らの運命もまた鮮烈に刺さる。
この点は読者にそれぞれ楽しんで貰いたい。どのエピソードも珠玉のエピソードであることは保証する。
私は第二幕をとくにおすすめする。女性にとって美醜の問題は永遠のテーマだと思う。彼女の交換できた願望がどんな運命を辿るのかは夢中になって読んでしまった。
店主であるトータに付き従うハナダという女性も良かった。主にアクション担当でハードなアクションを担う強い女性キャラクターである。しかし感情の動きが平坦で、魅力に欠ける。ところが読み進めるにつれ、その印象がガラリと変わる瞬間がある。これはストーリーを語る作者の腕である。ここは本当に上手い。
物語は連作短編の形式を取り、トータとハナダの願望とは何か? という最終幕によって初めて物語は完成する。
この願望交換局に関わった数奇な運命たちを、ぜひ最後まで見届けて頂きたい。
どんな願いでも叶えてくれる店。
そんな店があったら、貴方は行ってみたいですか?
いえいえ、きっと不信に思われることでしょう。確かにうまい話には必ず裏があります。
この店は願いを叶えてくれるのではなく、別の誰かと願いを「交換」してくれるのです。しかも、客が選択できるのは、自分が願うものか自分が捨てたいもののいずれか一つ。
何かを願えば、何か自分の大切なものを失うかもしれない。
何かを捨てられる代わりに、何かとんでもないものを押しつけられるかもしれない。
それでも貴方は、何かを叶えたいですか?
これは、様々な欲望が織り成す、喜劇で悲劇な物語。
人には様々な欲望がある。金、愛、命、美、他者からの承認。
ここはそんな願いを叶える店。
ただし、その方法は少々特殊で願望は「交換」によって成り立つ。
依頼人は自分が欲するもの、もしくは捨てたいもののどちらかしか選択できない。
この「交換」というシステムが物語の肝であり、作者のセンスとアイデアが光るところだ。
サイトの方では以前読んだが、毎回異なる依頼人はどれも中々に興味深い結末を辿る。
人の欲により紡がれる物語と、依頼人たちの末路。気になる方は是非とも、霧の町にてこの店を訪ねると良いだろう。
奇妙な少年と少女の2人組が、きっとあなたを出迎えてこう言うはずだ。
――ようこそ、願望交換局へ