修正版

これは、鹿児島県K市の某町にある学園の部活が周りを巻き込む、という極超小規模的な活動の記録である。

それは、誰の利益にもなり得ることが無く、周りからしてみても無益な何かか、それともいい迷惑といったところであろう。

ーー私は表紙に『記録』とだけ雑に書かれた薄いルーズリーフを手元に寄せ、束から一枚用紙を取り出し、部長に言われた『適当な内容でいいよ』という言葉を思い出しながら記録を書き始めた。

⚪︎月×日 今日の筆者:上町めぐみ 

 私は、今の今までいわゆる平均的な見た目で良くも悪くも自分の好きなことをし続けられていた。自分でそう思うのもなんだが、めぐまれていたと思う。

 私がめぐみという名前であったからだろうか。

 しかし、ここ最近の私は運にめぐまれなかったらしい。

…………巻き込まれ体質が身についてしまったのではないだろうか。

 書き終わったが、こんな感じの記録って絶対ダメだろ。書き直そう。

 ---夏休みの某日、私は学校に忘れ物をして夏なのに外に出なければならなくなった。暑いなあ。でも、ウチっていいとこの学校だし、学校のプライド(笑)的にも怒られる気がするから、取りに行かなきゃだよなあ。

「めんどくさいなあ」

そうぼやきながら、学校に行くためにいつも通りの通学路を歩いると、私の方に向かって手を振る小さくて可愛らしい女の子がいた。

 「おーい」

……一体誰だ?

あまりに反応を返さなかったからだろうか。その女の子がこっちに向かって小走りで向かってきた。

「おはよー」

どう返したらいいものか。

「えっと……おはよう。ところで、あなた誰?」

やはり、分からないならもう聞いてしまうしかない。それしかないだろう。

「どうすれば幼馴染の名前を忘れられるのか理解できないわ」

どうやら幼馴染らしい。

いやしかし……

「幼馴染の名前を忘れるなんて、そんなバカな奴いるわけがないだろ」

おっと、身に覚えの言いがかりについ荒っぽくなってしまった。

「あんたのことなんだけど……。まあいいわ。自己紹介すれば思い出してくれるかしら?ワタシの名前はめぐみ。宇宿うすきゆいよ」

そういえば腐れ縁的な幼馴染だった気がしなくもない。

「ほら、忘れてなかったら会えなかったかもしれないから」

「もう何言ってるかわからないわ。ところで今日はあんたも部活動見学行くの?」

シャレも通じないとは。驚きだ。

なんか、話聞くのめんどくさいな。

「おう、そうだぞ」

聞き流しながら歩き、ときどき意味のない話をしていた。

「っと、学校着いたわね。ワタシ今から行くところがあるんだけど、暇なら一緒に来ない?」

いたって平静という感じで見てくるが、目の奥がきらきら輝いている。

「暇じゃない……はず……たぶん。だけど行く」

抵抗虚しくきらきらした目に耐えきれずにそう答えると、予想通りの答えが返ってきて嬉しかったのか、いい笑顔になって、

「じゃあ、ちょっと部活動見学にいくわよ」

と言った。

「そういえばどこに向かってんの?」

「プールよ。うちの学校の」

プール……そんなもんあったっけか?

「ていうか、これはワタシの独り言として無視してもらって構わないけど、あんた見てくれだけでいうなら、整った顔とそこそこな身長なんだしもうちょっと女の子らしくしなさいよ」

ほう、可愛い奴に褒められるのは嬉しくないわけではないものだ。まあだからどうしたって話だがな。

 だがしかし、煽られたら煽り返そう。マナーというやつだ。

「唯も見てくれだけは小柄で可愛いじゃん。見てくれだけは」

無言で横腹をぐりぐりしてきているが、無視しよう。

「……ところで、なんの部活を」

見にいくのか、という私の言葉を遮って

「おしえたくないわ」

腹いせに言った言葉で機嫌を損ねてしまった影響が思いもよらないところで出てきた。

「さっ、テキパキ歩くわよ。もうそろそろ着くんだから」

理不尽にも自分の話は通すらしい唯を一発殴っておこうかと思っていたらいつの間にかプールに到着していた。

「しっかしさあ、なんで誰も使われないのにこんなに整ってるんだ?」

そんな私の質問に対して、

「整備してるからに決まってるじゃない」

そんな当たり前な返しをしてきた。しかし、そういうことではない。

「うーん、そうじゃあなくて、なんて言えばいいかなあ?……」

どうすればこのバカに伝わるか考えていると、男の人のような影がぼーっと太陽を眺めているのが見えた。

「あの人が整備してくれる清掃員さんなんじゃない?」

 確かにあの人は背も高いし、若そうな雰囲気じゃないし清掃員さんだろう。つーかマジで清掃員いたんか。驚いたな。

「清掃員さんってその部活に関係あるの?」

そう聞くと、

「え?あるの」

「え?」

ないに決まってるのはあんたが一番わかってるだろうが。

---それから、唯が人を探してくると告げ、歩いていった。そして、私はといえば、近くの木陰で休んでいた。

……だって何しろとか言われてないもん。

「君、何してるのかね?」

清掃員さんが話しかけてきた。そして、今気づいたが、女の人だった。

「ここで部活をやっているらしくて、見学をするって私の友達が言うから付いて来……連れて来られました。そうです。連れて来られました」

清掃員さんは、軽く同情の目を私に向けながら、

「そうなんだ、君も大変だね。っていうか、その部活ってわたしの部活だと思うからそのお友達を連れて来な?」

 清掃員さんが部活に関係していたとは。どんな部活だよ。

「なんで自分から行かなきゃいけないんですか、めんどくさい。待っておきますよ」

なぜか軽く引いた表情で清掃員さんは私に話しかけるのを諦め、木陰の中に移動して太陽を眺める作業を再開した。

 しばらく待っていると、あごから汗を滴らせてのそのそと歩いて来た。

「おつかれ!部活の人、清掃員さんだったよ、あと、木陰最高だぜひゃほう!」

そんな労いの言葉をかけると、

「あ……あんた、殴る気力も湧かないわ。じゃあ、部活見学しましょう……はあ、はあ」

息を切らしながらそう言った。しかし、殴るなんて物騒だな。

「……あのさあ、わたし部長なんだけども、喋っていいかい?」

話を遮らないようにするためなのか、蚊の鳴くような小さな声で聞いてきた。

 とても空気みたいになってて忘れてました!なんていえないな。

「ええ、もちろんいいですよ」

「ぜひお願いします」

私達の言葉に元気を取り戻すと、

「よし、じゃあ自己紹介から。私の名前は琥珀こはくはるって言う名前だよ。君たちは?」

コハク……ハル……よし、覚えたぞ。

「ワタシの名前は、宇宿うすきゆいです。よろしくお願いします」

それに続く形で私も、

「私は上町かんまちめぐみって言います。よろしくお願いします」

うーん、という顔で部長が少し悩むと、

「もうちょっと砕けた喋り方でお願いできないかい?」

特に疑問に思うことなく、

「わかった。じゃあよろしく」

砕けた態度に移行した。

「わかったわ。よろしくね」

そして、ついでに唯も乗っかってきた。

「ちょっときみたち、対応するの早くない!?もうちょっと、こう、なんか戸惑いとかあるだろう?」

「「ない」」

そう即答した私達を見て、部長は口をぽかんと開けていた。

--そして私達の自己紹介を部長にし終え、具体的な部活の説明を受けていた。

「ウチの主な活動はボランティアと浮かぶことだよ」

……?浮かぶってなんだよ、そう思いつつ横にいる唯の顔を見ると、同じくそれについて疑問に思っているようで、

「ねえ、浮かぶってなに?」

質問をした。

「後で話すよ。……まあ、ボランティアと言ってももちろん善意からするようなものじゃあなくて、こっちにちゃんと利益があるようなことをしてるからボランティアじゃないけどね」

質問を半ば無視されたような状態になった唯が機嫌の悪そうな顔をしているな、と思い元凶を見ると続きが聞きたいと思われたと勘違いしたのか、

「それでね、そのボランティア活動をするとね、進路の推薦にもなるし他の活動をする時に優遇されるんだよねえ」

と、楽しそうに語る部長。話を聞いただけでもちょっと変だと分かる部活に入ってるくらいだ。普段話す相手がいないのだろう。

すると、いじけていた唯が

「で、浮かぶって」

「それでお願いがあるんだけどね」

再チャレンジしようとしたらまた遮られた。

遮った本人はあらたまって、

「で、開校間もなく発足した我が部なんだけど、まあそもそもで最初から人数はいないんだけど、今はわたし以外いないから、流石にまずいかなあ、と思ってね、入部してくれない?」

早口で部長が語ってくる。さて、どうしようか。

「唯は入部する?私はそれに合わせるよ」

そう聞くと、こくこくとうなずいた。

「オーケー。じゃあ二人とも入部ね。ありがとうね」

そして、三度目の正直と言わんばかりに唯が、

「それで、"浮かぶ"ってなんなの?」

今度は遮られずにそう質問した。

部長は、うーんと悩み始めると、ぴっと近くの時計を指差した。

「もうそろそろ夕方だし、明日君たちの入部手続きをしがてら説明しようかな。ささっ、帰った帰った」

それを聞いた唯がもうどうにかするのを放棄して、

「えぇ……まあいいわ。ほら、めぐみ帰るわよ」

そう声をかけた。

「おん、いいよ。帰ろう」

「じゃあね。二人ともまた明日」

そして帰り道の途中。

「……ワタシ、あの部活入って良かったのかしら。あんな怪しいの入るくらいならここ最近学校にできた釣りの組合だの、ソフトテニス部にある変人ニート集団にでも加入した方が良かったんじゃないかと思うのよ」

何者だよ釣り組合だの変人ニート集団。と思いつつも今日一日の出来事を含めて処理しきれず、私は考えるのを放棄することにした。

「なるようになればいいんじゃない?」

そんなほとんど何の意味もない言葉を投げかけた。

「まあいいわ。ほらアンタの家はあっちでしょ。じゃあね」

「うん、また明日」

そして家に向かって歩いて行った。

家に着き、惰性で時間を浪費してしまったが、ふと何かが頭の中をよぎった。

……やばい。超ヤバい。忘れ物とってなかったな。

まあでも明日回収すればいいか。寝よう。

 そして翌日、大した用事もなく部長のところに行くのが嫌なわけではなかったので学校へ向かうことにした。

道中、唯とたまたま合流して一緒に学校へ向かうこととなった。

プールに着くと、

「おはよう」

2枚の紙を手に持った部長が挨拶をしてきた。

「「おはようございます」」

「じゃあ早速この入部届けに名前だけ記入してね。そしたら顧問のところまで一緒に行くから」

そう言いながら紙をそれぞれに渡し、胸ポケットからゴソゴソと2本のペンを取り出しながら喋りかけてきた。

名前だけ記入だったからだろう、30秒もしないうちに書き終えたが……暇だな。何をしようか部長をじろじろ見ておこう。

……特に意味はないが。

ふと、となりを見ると紙と私の顔を交互にちらちら見ていた唯が見えた。書き終えたのだろうが、人の顔を見るなんて良くない。

相手をせずに無視しよう。

「終わったようだね。じゃあ、早速顧問のところに行こうか」

私たちがもう記入が終わったのに気づいたのか、そう声をかけ、歩き始めた。

それを追う形で着いて行くと、すぐに理科準備室にたどり着いた。まあ、プールとこの校舎は大して離れてないしそんなもんか。

「ねえ、ここって普通先生が常駐してるような場所じゃあないわよね。それで思い出しちゃったのだけどね」

なにやら不穏なことを言い始めそうだ。まあしかし、不利益にもならないだろうし一応話だけは聞いてやろう。

「なにを思い出してくれちゃったんだよ」

少し言おうかどうか迷いつつも唯が、

「えっとね、あくまで噂なんだけどね、理科準備室にちょっと……そう、その頭の柔らかすぎる人がいるらしいって聞いたことがあるのよ」

と言った。頭の柔らかすぎるって、ヤバい感じしかしない。なにがヤバいって、あんな部長とかがいるような部活の顧問ってだけでヤバいのにさらに不安要素が出されたってところが怖い。マジで逃げたいな。

ふと前を向くと、こっちを向いていたはずの部長がいつの間にか扉の方を向きながら

「……まあ早く入って紙を渡すだけ渡してね」

と言った。

そして、同時に部長の耳がほんのり赤くなっていた。心当たりがあったようだ。

「なにを知っているんだ?部長よ」

そう問いかけると、部長は無言でドアを開けて私たちを無理矢理押し込んだ。

押し込まれた先にはメガネをかけた美人さんが、エナドリのようなものを飲んで、今にも翼が生えそうな勢いで、

「ヒャッハアアアアアア!糖分で体が満たされていく感覚!最高よ!」

と叫んでいた。

「……紙を机に置いて帰ろうか。さ、早く紙渡しなよ」

紙を差し出し、唯にそっと

「逃げよう」

と耳打ちすると、返事がわりに目を合わせてきた。

部長は顧問の先生から少し離れたところに紙を置きながらぼそぼそとつぶやいた。

「ありがとう。もうこの人は放っておこう……って君たちどこ行こうとしてるの⁉︎ちょっと待ちなって!」

後半叫んでいた部長の後ろに、私たちがちょっとずつ遠ざかろうとしていた原因……もとい顧問の先生が佇んでいた。

「……逃げるわよ。あの二人はどうせ放っておいていいわよね。たぶん」

そう言いながら歩き始めた。

しばらく歩いて校門のあたりまで辿り着くと、息を切らした部長が追いついてきた。

「はあ……はあ……き、君たちひどくない?」

「……まあそうっちゃそうですね。でも、類は友を呼ぶとかなんとかってよく言いますよね。つまりはそういうことです」

そんな開き直った私の自爆……ではなく言葉に部長だけではなく、一緒に逃げてきた唯まで表情を引きつらせていた。

「めぐみちゃん……だったよね。よくないよ、間違った事を言うのは。私は類には入らないからね」

「おい部長、なにが『私は』よ。そんなこと言ってる時点でここにいる全員類なのよ、友なのよ」

私に誘爆された形で見事な自爆で部長を巻き込んだ。結局私たち二人に爆撃された部長が不満そうな視線を向けながら、

「とりあえず……、部活戻ってくんないかなあ。部活動の詳しい説明とかしたいんだけど」

そういえば今日、部活しに来たんだった。

……しばらくしてプールに着いた。

「ねえ、謝ってるんだから許しなさいよ」

「……で、することなんだけどね」

 一見謝罪しているように見える脅しをかける唯。

その目の前には唯を完全無視している部長。理解はできるがする必要性は感じない。

「ねえ、許しなさ」

「許さん。まあまずは、はよ話し聞け」

 学ばない部長がてくてく歩く。

ひゅっという音とともに部長の後頭部に唯の拳がめり込んでいた。

「いっ、痛いよ流石に!めり込んだよね!ねえってばあ!」

「ああん?許さないんでしょう?ねえ」

と、無表情のゆいが拳と手のひらでをパンパンとしながら近づく。

「言い残すことは?」

「すいません調子に乗りました!許します!だ、だから許してえええええええええええ!」

叫びながらプールに避難する部長。……あれ?服やばくねえのかな。

「許してくれてありがとう!ところで何してるのかしら?……頭沸いたの?」

し、辛辣!

「ひどいなあお嬢は。まあ、どうせ濡れても構わない服だしいいんだけどね」

「……本当に何をしてるの?」

私はそんな意見に、いや……。

「私もお嬢と同意見ですよ、部長」

私はそんなお嬢の意見に同意を示した。

「もういいわ……。でも、何をするの。水泳でもするの?するんだったら私は普通にやるわよ?」

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浮か部の生活記録! @14go

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