第102話 ドラゴンとの地上戦


「GRUUUUUUU」


 よし、ドラゴンが地上に降りた。ものすごい目つきでこちらを睨んできている。翼に穴を空けられたんだから当然といえば当然か。


「ユウキ殿、まさかあのドラゴンの羽に穴を空けるとはさすがですね。先程の強烈な音はユウキ殿が?」


「はい、詳細は教えることはできないのですが、うまくいってよかったです」


 ニアさん達がこちらに来て合流して戦闘態勢となる。飛べなくなったとはいえ物凄い迫力だ。改めてドラゴンを近くで見てみるとやはり恐ろしい。


 黒龍とでも呼べばいいのか、その全身が輝く漆黒の黒い鱗に覆われている。頭には2本の白い角があり、口元にはおびただしい数の鋭い牙が見え隠れしている。大きは以前に倒した変異種よりも一回り小さいのだが、殺気を纏った赤い眼でこちらを睨んでいる。


 しかもなんなら俺を睨んでいる。どうやら翼に穴を空けたのが俺だとバレているっぽい。これだから君のような勘のいいドラゴンは嫌いだよ。


「とりあえずこちらからも攻撃が通るようになったけどどうしますか?」


「向こうも先程のユウキ殿の攻撃を警戒してか攻撃を仕掛けてきませんね」


 翼に穴を空けられたのがショックなのか、俺を警戒してか攻撃を仕掛けてこない。本当はさっきの大砲は一発しか撃てないんだけどな。


「ちなみにさっきの攻撃はもう撃てませんので」


「……なるほど、承知しました」


 ニアさんに小さな声で伝えておく。ドラゴンが人の言葉を理解できる可能性もゼロではないからな。それにしても俺が神様にもらった言語理解が機能してないということは、ワイバーンより知能はありそうだがそれでもまだ足りないということなのだろうか。


「陣形は先程と同じで、エレノアはブレスに警戒!ユウキ殿は先程の攻撃で牽制しつつ、後ろで投擲による攻撃!誰かが離脱した時点で即時撤退、とのことです!」


 ラウルさんが森の中から大声で指示を出す。ラウルさんというよりはローラン様からの指示だろう。ラウルさんとアガヤさんとローラン様はすでに森の中に避難している。狙われている俺はこの撃ち終わった空っぽの筒で牽制をしつつ、身体能力強化魔法で強化した力で石を投擲ということか。


「了解!私とルーで前に出る!総員防御を固めつつ、余裕があれば攻撃だ。わかっているとは思うが、防御重視で重い一撃など当てようとせずに削っていくぞ!」


「「「はい!」」」


  ニアさんから更に細かい指示が飛ぶ。確かに某狩りゲームでも初見の相手の場合には敵の行動パターンを覚えることから始まる。初っ端から大剣の溜め攻撃なんてのは論外で、慎重にいくべきだ。特にリアルでは1乙したら即人生のゲームオーバーだ。


「行くぞ、ルー!」


「……おう!」


 ドラゴンとの戦闘が始まった。




 ローラン様の親衛隊が一斉にドラゴンへと攻撃を仕掛ける。後ろに残っているのはエレノアさんと俺だけだ。


「GYAAAAAAA」


 対するドラゴンも黙っているわけではない。その鋭い爪を持った前脚でニアさん達を狙う。それぞれの指の爪がナイフ以上の刃渡りの刃物のようだ。一本だけでも凶悪な凶器なのにそれが5本まとめて襲ってくる。あんなのが一本でも身体に突き刺さってしまえばそれだけで致命傷だ。

 

「ふん!」


 だがそんな凶悪な一撃を大きな盾で全て防いでいくニアさん。ニアさんの装備は大きな金属製の盾に西洋風の剣、重量のありそうな鎧で全身を覆っており、その姿は正に騎士のそれである。


「……はっ!」


「GURU」


 そしてドラゴンの攻撃を防いだ隙にルーさん達が攻撃を加えていく。ルーさんの装備は両手にトゲトゲのついた手甲、防具はその身軽さを活かすためにそれほど厚くはない胸当てだけとなっている。


 ニアさんともう1人の重装備の人がドラゴンの攻撃を防ぎ、その間にルーさんともう1人の剣士が攻撃を仕掛ける作戦だ。


「くそ、硬いな!」


「ほんの少ししか削れている気がしませんね!」


 ドラゴンの攻撃の合間を縫ってこちらも攻撃を与えているのだが、いかんせん敵の鱗が硬くて少しずつしかダメージを与えられている気がしない。


 俺はさっきから大砲の筒を持って何かをするそぶりを見せていた。最初はその動作に反応を示していたドラゴンだが、しばらくすると俺への警戒をといてニアさん達の方を気にするようになった。すでに大砲の二発目を撃てないことがバレてしまった。


 強化した力で石を投擲してみたが、その硬い鱗によって阻まれ怯むことさえなかった。石をプロ野球のピッチャーレベルの速度で投げているのにノーダメージってどういうことだよ。普通の人相手なら骨折、当たりどころが悪ければ死んでもおかしくはない威力のはずなのに。


 だがドラゴンの眼を狙うと、さすがに石を避けたり防いだりする動作をしているところから、さすがに目に当てれば多少のダメージはあるのかもしれない。そのためドラゴンの動きを牽制するタイミングでドラゴンの眼を狙うようにしている。


「GYAA」


「ふっ!」


 対するドラゴンの攻撃はニアさん達が順調にさばいていく。身体が大きい分その攻撃力は恐ろしいのだが、やはり予備動作も大きくスピードもそれほど速くはなくなるので、その巨大な攻撃力を正面から受けない限りはなんとか防ぐことができる。


 今のところドラゴンの攻撃は前脚での攻撃、噛みつき攻撃、体当たり攻撃、尻尾攻撃があった。前脚と噛みつきに関しては食らえば間違いなくかなりのダメージを負うが、その分攻撃範囲は狭いのでニアさん達もしっかりと防いでいる。


 問題は体当たりと尻尾攻撃だ。ただの体当たりがドラゴンの巨体で行うだけで凄まじい威力を誇る範囲攻撃となる。尻尾攻撃はなおタチが悪い。ドラゴンの巨体プラス遠心力も加わり、尻尾の先の威力は相当なものだ。今のところなんとか防げてはいるが、誰かが被弾するのも時間の問題に思える。


「っ!皆さんブレスが来ます!後ろに下がって!」


 ドラゴンが深く息を吸う動作を見せるやいなやエレノアさんが叫ぶ。


「アルシールド!」


 全員がエレノアさんの近くに集まり、エレノアさんが魔法で障壁を張る。目の前に障壁があるとはいえ炎の海が目の前に迫ってくるのを見るとゾッとする。


「まずいですね、やっぱり魔法での障壁は後一回が限界だと思います」


 ドラゴンのブレスを何とか防げたが、エレノアさんの障壁魔法は残り一度しか使えない。今までの感覚だと一回ごとに10分ほどのインターバルを挟むから、あと10分後にはブレスを防ぐ手段がなくなってしまう。


「……まずいな。エレノア、ローラン様と合流してどうするか指示を仰いでくれ。こちらの攻撃がそれほど通じてる様子がないこともあわせて伝えてくれ。ユウキ殿、エレノアがローラン様に指示を仰いでいる間に回復役を任せても大丈夫でしょうか?」


「はっ!」


「了解です!」


 確かにちょっとまずい状況だ。こちらの攻撃は少しずつしかダメージを与えられていないが、こちらがドラゴンのブレスを防げるのはあと一回。エレノアさんの障壁魔法が使えなくなってしまえばもはや逃げる他ない。

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奴隷スタートの異世界ライフ ~異世界転生したら速攻で奴隷として売られてしまったんだが~ タジリユウ@カクヨムコン8・9特別賞 @iwasetaku0613

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