第2話 手の平の温かさを奪い取った怪物

逃げ惑う先から別の集団が逆流するかのようにこちらに向かってきた。

その集団は「「津波が来るぞ!逃げろ!」」と叫んでいた。


彼らの走った後についていくように逆流もする人もいれば、そのまま前に進む人もいた。なかには倒れかけの電柱に捕まる人もいれば、ヒビが入った雑居ビルの中に入る人もいた。

色んな人が色んな行動をする、するとボクはピタっとその場で立ち止まった。


さっきまで聞こえた騒音はあまり聞こえない、いや聞こえるんだけど聞こえない。

ボクの声、感情はくっきり響く。耳に?いや、体に響いているかのようだった。


体は一時停止しているかのように動かない。人の声も・・・耳に入らない。

それは一瞬の出来事であったが、おかげで少し冷静になれた。


周りを見る、津波が来るとは言っていたが、まだ来ていない。ボクは周囲を見回す。

雑居ビル、ジャンクフード店、、、いや、少し歩くが大型家電量販店に行くことにした。

ボクは津波が来ると言われた箇所を確認しながら足早に目的地に向かうことにした。


もちろん、周りの人にも伝えた。

”津波が来る!家電量販店に向かった方が良い!” 人を見かけるたびに声を出した。

共に行く人もいた、男性青年、中年男性、中年女性、、、ぞろぞろ増えていった。


口をそろえていう言葉は”これで助かる”、”生きれる”と希望に満ち溢れた活気ある声。

しかし、その活気ある声は・・・すぐに悲鳴と変わった。


津波が来ると言われていたところからは車のクラクションが音を出し続けていた。

サイレンに似た長音で奥からゆっくり這いずりながら聞こえていた。


ボクと逃げてきた人々は”警報?”と呟くが、同時に”なんで?”っと怯えた疑問文が耳に飛び込む。

足元を見ると濡れている?なぜだ?回りも水が流れ込んできているのだ。

どこから流れてきたかわからない水はクラクションが近づくにつれて量が増えていった。


後ろの人が声を上げた。「津波がもう来ている」っと

僕らは大型家電量販店に向かうのを諦め、近くのマンションに避難しようとした。

だが、先ほどの水は足首まで浸かるほどの量になっていた。


”まだ、そんなに来ていない。ついてきてくれた人だけは助けられる。”

ゾクゾクと建物に入る。1Fにいた僕ら含め4名の男性は避難する人々に手をつかみ

上に上げたが、、、ドドドドド・・・っと振動とともに水は一気に水量を上げた。


ぼくらは非難するも2名が激流化する水に飲みこまれた。それは先ほどの水たまりのような静かな水ではなく、人を飲み込む怪物にしか見えなかった。


僕らは必死に階段を登った。2Fで待機していた人、階段をゆっくり登っていた人も

全員に伝えた。怒号にも聞こえたかもしれない。”走れ!上がれ!”っと。。。


早く!早く!上がれ!早く!!

手をつかみながら必死に助けようとした。


目の前にいた女性の手をつかんだ瞬間・・・その水は女性を飲み込んだ。

手に残るは細い手の感覚、耳に残るのは言葉ではない涙声の叫び。

その女性の手は水に飲み込まれた後はどこかに姿を消した。


非難したマンションは5階建てのある程度頑丈な作りではあった。

周りに地面は見えず、茶色の水と高い建物しか見えない。車はクラクションを鳴らしながら流れていくのみ、、、


日常が終わった。それを証明するかのような光景であった。

疲れたのか、座って一息するもそれを許さず、周りから

”助けてくれ”・”俺はここだぁ!!”・”子供だけでも助けてくれ”


っと回りからクラクションの音にともに耳に入った。

やれることがない、救助することもできない。

ボクは喉が枯れるまで、周りの人に話しかけた。

暗い夜にどこから聞こえるかわからない声に話しかけ続けた。


”頑張れ!” ”救助は来るから耐えろ”何度も同じことを繰り返した。

しかし、ボクにも限界が来てしまった・・・電源が切れたようにその場に気を失った。


目が覚めるとあたりはやや明るくなっていた。時間は・・・5時57分

携帯をそう見ると、周りを見回す。マンションの屋上・・・夢ではなかった。

マンション周辺の人に声をかける。


”大丈夫ですか?”・”頑張ってください!”・・・

声が返ってこない。必死に声を出すも回りは静かであった。


日が上がり、周囲を見回すと茶色の水がまだそこにはあった。

浮かんでいた車や倒れかかっている電柱もいた。近くではあるが車の上にいた人や電柱に捕まってる人も目視できたが、見てわかるぐらいに力がなく

おそらく亡くなっていた。


あの時、呼びかけを止めていなければ、会話を続けていれば。。。

やるせない後悔と無力な自分に腹が立った。


朝になり、各々回りを見回すものもいれば、泣き崩れるものもいた。

連絡はまだ取れない。が、屋上にいる男性が声をあげた。


「「昨日の地震、関東で震度7って情報出たぞ!」」


第3話に続く

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あの日、僕らのすべてを奪った海と大地が憎い まに丸 @mani22

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