あの日、僕らのすべてを奪った海と大地が憎い

まに丸

第1話 日常が終わる瞬間

 2032年 冬 東京

「申し訳ございません、請求書の訂正をすぐにさせていただきます。」

僕は謝っていた、電話のスピーカーの奥にいる顔も知らない偉そうなヤツに。。。


ボクは葛西 雄介 警備員の仕事をやるはずだったが、のらりくらりと行きついた先は事務員である。

拠点長は僕ができると思って入れてもらったが、とんだ勘違いだ。

出来るフリ、やれるフリをしていただけであって技術もなんもあるわけではない、、、むしろない方だ。

それに今現代には優秀な機械警備があっちこっちに居やがるし、間もなく人が警備する時代は終わりを告げるであろう。。。そんなことを考えていた。


僕の右肩に軽度なダメージを与える平手がそっと置かれた。同期の真柴だ。

「葛西さん、また謝るのがうまくなりましたね?このままいけば次期窓際間違いなしっすよ!」

真柴は皮肉を混ぜた冗談を僕に浴びせた。

「窓際かぁ、、、なら僕の今の仕事量を全部やってくれるんだね。真柴君。いや次期仕事処理班長さん」

真柴の苦笑いと下らない話をしながら僕は仕事に耽った。


17:30 窓を見ると夕暮れのオレンジの空が濃い紺色に上から塗りつぶされるような時間、早番が帰る時間である。


「葛西くん、今日は20時までだっけ?頑張れよ!」上司の中田の無神経さに腹が立つ。

そのあとも、うちの所属をしている警備隊員に明日の指示を進めながら、名簿を作成・面接準備などのそのほかの雑用を済ませる。

ある程度落ち着いた頃に近くのコンビニで食事を済ませるが・・・毎日同じ物だと味に飽きる。。。


そんな文句を言いつつ、買ってきた毎日同じ弁当を食べて一息つき、終業時間までネットサーフィンしながらダラダラ過ごした。


20時すぎたあたりに鍵を閉め、愛すべき自宅に帰る。

愛すべきといっても未婚で実家ぐらい、家には厳格な父がいる。


愛するどころかいつもいつも口喧嘩をするし、仲がいいわけでもない。むしろ悪い。

今日も小言を言われて寝るのか・・・

それに電車で40分+徒歩20分の1時間帰りコースの千葉の家である。


そんな嫌な想像をしながら帰路に向かうが、その途中違和感を感じた。

どんな違和感かと言われると説明しづらいが本能に電気を流された感じである。うむ、まったくわからん。


電車に乗り対面のナイスバディーなお姉さんをニヤニヤしたが、携帯のアラームがなった。目覚ましのアラームではなく・・・警報である。

もちろん、僕だけではない乗客ほぼすべての携帯が鳴りだした。


画面を見ると真っ暗な背景に赤文字で<地震警報>と文字が見える。

どこでだ?まだ揺れていなーーーっと思った瞬間、ゴゴゴゴと重々しい音が聞こえた後、大きな縦揺れがボクのこの空間を襲う。


車両、人、向かいのお姉さんの胸!っと思う余裕もなく、僕の頭もパニックになってしまった。体が左右に揺れる。強引に激しく・・・そして気持ち悪い。


2、3分大きく揺れた後、ゆっくりと揺れが収まる。ただ、感覚はまだ揺れているかのような違和感と気持ち悪さが残っている。


「ただいま、大きな地震が発生したため、安全確認を行うため○○線は運転見合わせとさせていただきます。お急ぎのところ申し訳ございません」と車内アナウンスが流れた。


たまたま、地震発生時は駅に停車していたので線路を歩くようなことはなさそうだ。

しかし、改めて回りを見回すと、、、自動販売機が留め具ごと倒れており、○○駅と書いている天上看板も今にも落ちてきそうな感じだぁ。。。


電車を降り、駅を見回す。ここは地上駅のためある程度の町の状況が眺めることができるのであるが・・・煙もところどころ上がっている。


父親に安否確認をしないと。。。っと思った瞬間、また揺れる。

しかし、先ほどの比ではなかった。激しく揺れる、なんの音かわからない。


聞きなれない擬音と人々の叫び声、もう恐怖でしかなかった。

縦か横の揺れかもわからず、なにかに捕まっていないと座るのすら難しい。


雷鳴にも似た音が地面から聞こえる。しかし、聞こえていた悲鳴が小さくなった。

小さくなったが、叫んでいる人々の声は強く聞こえるのだ。

その3秒ほどして地震とは別の振動とともに衝撃音と声が消えた。


目の前をみると駅の半分がないのだ。いや、ないというより崩れた。

”揺れが収まるのを待っていたら死んでしまう!すぐにここから逃げないと”と思考がめぐるが、体はなぜか動かない。


回りの人も数名は体を起し、ホームの階段を下りるも叫び声と悲鳴が響き渡る。

長い間揺れていたであろう大地の揺れが静まり、体を立たせることができた。

現実と思えない感覚、揺れていたため視界がおかしい。

階段に向かうもすでにそこは地獄絵図であった。


表現はしたくはない、ドミノ倒しになったのであろう。直視はできないが臭いや微かな息漏れが聞こえる。

咄嗟に父親に連絡するも電話は通じず、インターネットもつながらない。


周りは叫び声、悲鳴、子供の泣く声も聞こえる。

「みなさん、落ち着いてください。落ち着いて安全な場所に避難してください。警察の指示に従い安全に避難してください。」

警察の呼びかけも逃げ惑う群集には効果がない。

統制は取れず、すでに指揮系統も麻痺しているに等しい。


僕も警察の呼びかけも無視した一民間人だ。いや、無視したのではない理解ができないのだ。

逃げるのに必死なんだ、助かりたいではなく恐いのだ。

恐くて恐くて逃げないと自我が保てない、その場を逃げて、一度整理したい

いや、きっと夢だ!これはただの夢だ!早く起きないと仕事に間に合わない!

何度も現実逃避するも、周りに聞こえる声と音、臭いが僕を現実に無理やり戻す。


逃げ惑う先から別の集団が逆流するかのようにこちらに向かってきた。

その集団は「「津波が来るぞ!逃げろ!」」と叫んでいた。


第2話につづく

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