ずっと一緒にどこまでも

「……はぁ素敵♪」

「……一仕事した気分だなぁ」


 休日を利用し、俺と円華さんは部屋の引っ越しを終えた。引っ越しといっても円華さんの部屋に俺の私物をある程度移動させただけだが、それでも結構疲れた。


「千夏君の私物が私の部屋にある……あぁ何かしらこの感覚。自分の大切な場所に同じくらい大切なモノが入ってきて……あぁたまらない♪」

「……あはは、まあでもちょっと感慨深い気がします」


 ほとんどの私物を移動したとはいえ、まだ重たいものは残っている。全部を移動させてもそれはそれで邪魔になるので最低限のモノだけだ。ま、そこまで家具やらを揃えてなかったのが幸いだった。


「……これで正真正銘、円華さんと同棲……ですか」

「うふふ♪ えぇその通り、今日から私たちの新婚生活が始まるのよ!」


 それはちょっと進み過ぎですけどね。

 さっきから隣でニコニコと笑みを浮かべている円華さんを見ると、まだ早いですねなんて口に出来ない。将来のことはまだ分からないが、俺としてもいずれ円華さんとはそうなりたいと思っている。


「……円華さん」


 俺は背中から円華さんに抱き着いた。円華さんの肩に顎を置くように、耳元で囁くように俺は言葉を口にした。


「円華さん、俺ももっと頑張ります。あなたを支えられるように、もっと自分を磨きます。円華さんが俺を選んだことを後悔しないように――」

「しないわ絶対」

「……早いですね」


 その返答はあまりにも早かった。

 でも、その返事が凄く嬉しかった。円華さんにそこまで求めてもらえること、そこまで好きになってもらっているのだと実感するから。


 まあお互いにもう離れられないモノだとは分かっている。俺も円華さんも、どちらかが欠けてしまえばそれこそ……上手く言葉に出来ないが、きっと立ち直れないような気がする。


「ちょっと座りましょうか」

「そうね。一休みしましょう」


 円華さんの手を取ってソファに向かった。

 何かした後は必ずと言っていいほどにやることがある。それはすなわち、円華さんに甘えることだ! 俺が何も言わずとも、ソファに座ると必ず円華さんは俺の方に体を向けて両手を広げるのだ。


「おいで」


 おいで、この三文字にとてつもない魔力が備わっている気さえしてくる。その気じゃない時でさえ、甘えるしかなかろうと考えてしまい円華さんの胸に飛び込むのだ。もう何だろうね、こんな風に体がクセになったみたいだ。


「円華さぁん……」

「今日も可愛いわね。さあ千夏君、今日もしっかりと甘えるのよ?」

「ふぁい……」


 甘えることって義務だっけ……あれ、なんかちょっとおかしいな。でも全然気にならないくらいに気分が落ち着いて幸せなのだ。円華さんの胸に顔を埋める、これを一日に一回は必ずしないともうダメだ。


「……こうやって円華さんの胸に顔を埋めるの気持ち良いです」

「千夏君のための大きな胸よ。どんなことだって受け止めるから。好きなように甘えてちょうだい。それだけで満足できるの?」

「今は出来ます……たぶん」

「うふふ♪」


 今ではなく、夜には必ずファイトの狼煙が上がるんだろうなこれは。


「この甘え方なんですけど、白雪に言ったら割とガチで肩を叩かれました」

「それは……うん、何も言わないでおきましょう。まだ高校生だし、将来に希望は持たないと」


 それ、暗に希望はないって言ってませんかね。

 ちなみに円華さんは中学生の頃から既に大きかったらしい。今がHカップで中学生の頃にEはあったらしい。その頃の同級生にはさぞ刺激的な光景だったはずだ。まあでも、そんな円華さんを今は俺が独占している。それがちょっと優越感だった。


「あ、そうだわ千夏君。近いうちに同窓会があるって話だけど」

「そうですね。是非行ってください」

「うん……その代わり、千夏君には迎えに来てほしいのよ」

「迎えですか?」


 近々円華さんの高校生時代の友人たちと集まる同窓会があるのは聞いていた。かつての友人が一堂に会する機会というのはそんなにないだろうし、思い出を語らう場としては大切にしてほしかったのだ。お酒が出るのが少し心配だけど、まあ俺は円華さんのことに関しては心配していない……いないぞ!


「千夏君、不安そうな目をしてるわよ?」

「あ……」


 実は心配しているのがバレバレだったらしい。

 いやそりゃ不安になるでしょ、なら最初から行くなと言えば良いって話だがせっかくの思い出の場なのだ。だから……うがああああ難しいぞ凄く!


「私はお酒飲まないから全然なんだけどね。まあでも、だからこそ千夏君に迎えに来てほしいの。高校の時の友人たちに、私にはこんな素敵な彼が出来たのよって自慢したいのよ♪」

「……分かりました。迎えに行きます!」


 見栄を張るわけではないが、俺も円華さんの彼氏だと胸を張りたい。多くの人にこの素敵な人が俺だけの彼女なんだと誇りたいのだ。あくまでそうでありたいと願う、だが俺の瞳にはどうも独占欲が見えたらしい。


「千夏君の目が言ってるわ。私は千夏君のモノだって……そうよ。円華はあなただけの存在、あなただけを愛しあなただけに愛される女なの。今までもこれからも、私の心はあなただけに捧げるわ」


 甘く、緩やかに脳に入り込んでくる心地の良い言葉だ。そうだ……俺はずっとそう思っていればいい。俺は円華さんを愛し続ける、そして円華さんに愛し続けてもらえばそれでいいんだ。


「さてと、それじゃあ一緒にお風呂に入りましょうか♪」

「あ、もうそんな時間ですか」

「イチャイチャすると時間を忘れるわね。それじゃあお風呂に行ってもっと深くドロドロに愛し合いましょうかぁ」


 この後、滅茶苦茶愛し合った。






 それから時間が過ぎて件の同窓会の時だ。

 約束通り円華さんの迎えに行くと、当然見たことない人たちが多かった。酒を飲んで酔っ払っている人の姿がかなり多い。俺にとっては全くのアウェイだが、円華さんの存在が俺に勇気をくれた。


「ありがとう千夏君、迎えに来てくれて」

「いや、俺の役目ですから」

「ふふ、かっこいいわね。それじゃあ私はこれで帰るわ」


 円華さんの言葉に友人たちは名残惜しそうにしながらも手を振り、一人の男性が俺を睨むように目を向けてきたが逆に円華さんに睨み返されていた。確かに彼らからすれば俺はガキに見えるだろう。だからこそ、こういう時に俺も胸を張らなければ。


「帰ろうか。色々と話を聞かせてくれ」

「っ!? う、うん! 帰ろう千夏君!」


 あ、円華さんが可愛すぎる。

 既に同窓会のことを忘れたような様子の円華さんに手を引かれ、俺たちは店から出るのだった。その帰り、いつも以上にニコニコの円華さんを見て呼び捨てにしたのは正解だったらしい。


「呼び捨てって緊張しますね」

「そう? まあでも、私も千夏君のことを呼び捨てはもう無理かしら。同い年とかなら全然良いんだけど、やっぱり私としては千夏君はかっこいい彼氏でもあり可愛い甘えさせたい子だもの」

「なら俺も一緒ですね。円華さんを呼び捨てはちょっと――」

「……むぅ」


 そんな顔しないでくださいって。

 頬を膨らませた円華さんに苦笑しつつ、冷える空の下を歩いていく。


「円華さん、これからもよろしくお願いします」

「こちらこそよ千夏君。一生離さないし離さないでね? 私、千夏君が離れて行ったら死んじゃうから」

「……冗談に聞こえないんだよなぁ」

「あはは♪」


 最近はもう全然心配してないけれど、俺と円華さんが親しくなるきっかけは彼女が自殺しようとしたことだった。だからこそ冗談に聞こえないんだが……まあでも、俺が離れていくことで死のうとするなら円華さんは永遠に自殺出来ない。


「なら円華さんは死ねないですよ。俺、一生離れないですからね」


 俺は絶対に円華さんから離れないからだ。

 お互いにお互いを縛り付ける言葉、けれど俺たちはこれで良いんだ。これから先もずっと、お互いを縛り付けて愛し合えばそれだけで良い。俺たちはそれでどこまでも幸せなのだから。


「愛してます円華さん」

「愛してるわ千夏君」


 これはある意味最悪の出会いから最高の関係になった俺たちの物語だ。

 どちらかが離れれば破綻する危うい物語を、俺と円華さんはこれからも二人で歩んでいく。どんなことになっても二人なら大丈夫、そうでなければ円華さん……一緒に死にますか?


 なんてことを冗談交じりに言ったが、円華さんが真剣な顔で頷いたのはちょっとビビってしまった。まあ何はともあれ、これから先も俺と円華さんは離れることはないのだろう。それはずっと……永遠にだ。




【あとがき】


というわけで、区切りでしたが色々考えて完結ということになりました。

大学生の年上彼女というのはかなり難しく、色々と悩んでこの度完結させようと答えを出しました。まだまだ続くことを期待されていたみなさんには申し訳ないですが、ダラダラ続けるよりはいいかなと思った次第です。


改めてになりますが、本作を読んでくださりありがとうございました!


次回作、或いは他にも書いている作品でお会いしましょう!


ヤンデレ万歳!!

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心が傷ついた隣のお姉さんを助けた結果、盛大に病んで愛された件 みょん @tsukasa1992

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