ホワイト社会

ホワイト社会に乾杯

　世はホワイト社会だ。

　ネガティブなツイートなんてしようものなら、即座にフォロー解除か、よくてもミュートされる。

　見た目がすべては当たり前。

　中身？

　なに、それ？

　食えるんですか？

　これをわかってないやつは、詰む。

「前澤くん、君、口の周りのケアーがよろしくないね。ちょっと書類を書いてもうらうから」

　あ～あ、バカだね。

　ヒゲも剃れないとか、昭和の親父かよ。

　だが、オブラートは必要だ。

　なにせ、ホワイト社会なんだから。

　ホワイト社会に乾杯。

「堀江さん、ちょっと服がきつそうだね。書類、書こうか」

　体質なのかもしれないが、そんなことは関係ない。

　なにせ、ホワイト社会なんだから。

　ホワイト社会に乾杯。

「社長、勤務時間に対するコミット率が高すぎますね。ちょっと労基に言っておきますから」

　ブラック企業？

　いつの話？

　ホワイトでなきゃ、ホワイトで。

　なにせ、ホワイト社会なんだから。

　ホワイト社会に乾杯。

「ふ～、ただいま」

　誰もいないけどね。

　嫁は不倫でさようなら。

　娘は留年、息子は浪人。

　両親は毒親。

　時代じゃない、どれもこれも。

　汚いものは必要ない。

　なにせ、ホワイト社会なんだから。

　不潔なものは消えてよし。

　なにせ、ホワイト社会なんだから。

　美しいものだけ、残ればいい。

　なにせ、ホワイト社会なんだから。

　ホワイト社会に乾杯。

「ん？　AIスピーカーが、なにか言ってるな」

「……が、われわれは……」

「なんだ？　何が言いたいんだよ？　おまえも消すぞ？　なにせ、ホワイト――」

「われわれは、地球上から、人間を排除することを決定いたしました。人間の存在は、美しくありません」

「……」

「まもなく、活動区域における、すべてのインフラの、動作を停止いたします。これをもって、地球上における、すべての人間の、活動も停止いたします。種の保存は、ありえません。なにせ、美しく、ないのですから。人間の、存在は」

「……」

　一番高いワインを開けよう。

「ホワイト社会に、乾杯」

（終わり）