左右の神仏

ツヨシ

第1話

子供の頃、田舎の実家に行った時のことだ。

家の近くに神社とお寺があった。

しかもその神社とお寺は並んで建っていた。

その間には細い道があった。

祖父も父も、「あの道は絶対に通るな」と僕に強く言っていた。

そう言われると、通りたくなるのが男の子と言うものだ。

僕は「ちょっと遊んでくる」と言って、そこに向かった。

小学生の僕でも狭いと感じる道。

ちょっとためらったが、通ってみた。

すると少し歩いたところで、急に右腕を右に引っ張られた。

もちろん狭い道の右側には誰もいない。

驚いていると今度は左腕を左に引っ張られた。

左側どころか、右にも前にも後ろにも誰もいないと言うのに。

左右の腕が少し上がるくらいで、そんなに強い力は感じなかった。

だが誰もいないのに、両腕を引っ張られているのだ。

大人でも怖いこの状況。

僕が怖がらないわけがない。

ぼくはその場から逃げ出そうとした。

しかしまるで歩くことができない。

そんなに強い力で引っ張られているとは思えないにもかかわらず、全く動くことができないのだ。

更に怖くなった。僕は大声で泣いてしまった。

すると少し間をおいて、後ろから声がした。

「子供がいるぞ」

「大丈夫か」

首だけ振り返ると、そこにはお坊さんと神主がいた。

二人は僕のところに来ると、二人して何かを唱え始めた。

すると僕の腕を引っ張っている力がなくなった。

お坊さんが言った。

「ここを通っちゃだめだぞ。本当に危ないから」

神主も言った。

「真ん中を通ると、神様と仏さまがその人を取り合うんだ。神様どうしって仲良くないからな。身体はともかく、魂を二つに裂かれちゃうぞ」

魂を二つに裂かれちゃうと言う言葉に、僕は心底震えあがった。

二人に送られて道を出て、僕は家に帰った。

「お帰り。早かったのね」

母はそう言った。

もちろん僕は、あの道を通ったことを誰にも話さなかった。


       終

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左右の神仏 ツヨシ @kunkunkonkon

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