第7話 神AIM令嬢ソオンニ
「やぁ、ソオンニ、探したよ。そろそろ戻って来ないかい?」
ダンジョンから宿屋に戻ってくると、豪華な四頭引き馬車が停まっており、その傍らに金髪の貴公子が立っていた。その周りにはわらわらと護衛の姿が見える。
「姉上、父上も母上も心配しているのでそろそろ戻りましょう」
金髪の貴公子の横には黒髪眼鏡の少年が、眼鏡をクイクイと押し上げながら立っている。
「ラファエロ殿下、ごきげんよう」
二人に気付いたソオンニがスカートを摘まんで優雅にカーテシーをして続ける。
「殿下このような場所まで、わざわざ足を運んでいただき、大変光栄にございます。しかし、わたくし、殿下とシオンの真実の愛の為に身を引く事を決めましたの。どうかわたくしの事には構わず、シオンと真実の愛を貫いてお幸せになってくださいまし」
ソオンニは胸を張り、金髪の貴公子ラファエロをまっすぐと見た。
「ソオンニ、それは誤解だ」
ラファエロが静かに首を横に振りながら、ソオンニを諭すように言う。
「そうです、姉上。僕と殿下の間には、真実の愛などありません。あるのは真実の敵意です」
「誤解? 真実の敵意? お二人は愛し合ってるのはなくて?」
心底不思議そうな顔で、ソオンニがコテンと首を傾げる。
「ない、絶対にそれはない。神に誓おう私の真実の愛は――」
「姉上!! 姉上は不敬にも皇太子殿下との婚約を破棄しようとなさいました。これは由々しき自体です。ここはやはりその責任をとって殿下との婚約は破棄をして――」
自分の義姉の事を不敬と言いつつ、自らも積極的に王族の言葉を遮る不敬を働くシオン。
そして、そのシオンの言葉を遮るのはメイドのフィー。これもまた不敬である。
「あーーーーーー、お嬢様ーーお嬢様ああああああ!! そろそろお屋敷に帰りましょう!! 帰ってフィー特製のブルーベリーパイを食べましょう!!」
フィーはそろそろ公爵家に帰りたい。
公爵家に帰れば、使用人の部屋といえど町の普通の宿屋より、柔らかくてよいベッドだ。
ソオンニに一生仕えるのなら、さっさと公爵家に帰って質のよいベッドで寝たいし、なにより公爵家に帰れば、まかないの飯が美味しい。
ソオンニの家出中の飯事情は最悪だった。そもそも、獲物の九割は肉片である。
フィーはメイドの嗜みとして獲物の解体も料理もできるが、獲物が肉片なら意味がない。
町の飯屋の飯も悪くないが、やはり公爵家のまかないの方が美味いに決まっている。
よって、フィーは屋敷に帰りたい。
それに屋敷に帰れば、いや、屋敷に帰ってもソオンニの身の回りの世話はフィーの仕事である。
着替えも湯浴みも、フィーが手伝わなければソオンニは何もできない。
目の前にいるこの男二人が知らない、ソオンニのあんな事やこんな事までフィーは知っている。ぶっちゃけ愉悦である。
フィーはソオンニに負けたが、フィーは強い者が好きだし、ソオンニの優しさにも心を打たれた。
つまりソオンニにズキュンとハートを撃ち抜かれたのだ。目の前の残念な男共二人と同様にだ。
「そうですわね、そろそろお部屋のベッドが恋しくなってきましたわ」
公爵令嬢ソオンニはクソAIMである。
ソオンニはクソAIMであるが、ハートを撃ち抜く腕は神AIMである。
クソAIMお嬢様 えりまし圭多 @youguy
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