第2話 女神の思惑2ーヴァルキュリア視点ー

私は窓辺に近づき、神獣の頭をそっと撫でる。

「いい子ね。ありがとう」

鷹が、少しだけ気持ち良さそうに目を閉じるのを見た後、私はその脚にくくりつけられた手紙を解いた。


「はい、エイル。読めそう?」

私は手にした手紙をベッドに横たわるエイルに、そっと渡す。

「ええ、手紙くらいでしたら……」

そう言って、彼女は上半身だけ、ゆっくりと起こすと、手にした手紙を広げた。

そして、小さな声で解除魔法を唱える。


「何て書いてあった?」

ベッドの横にある椅子に座った私の問いかけに、エイルはなぜか黙っている。

「エイル?」

「お姉様……。これは、私宛ではありません」

「……えっ?エイル宛じゃないって、どういうこと?」

「私が解除魔法を唱えても、限定魔法リミテッドが解けません……おそらく、ヴァルキュリア様宛のものです……」

「なっ……」


エイルの神殿に届けられたのに、エイル宛じゃなくて、私宛?それって、エイルの神殿に私が来ることを見越してのことだよね?

こんなことをするのは、一人しか浮かばない。

そして、このタイミング。

悪い予感しかしないんだけど……。


エイルの手から再び戻された手紙を広げ、気の進まないまま、解除魔法を詠唱する。


限定魔法リミテッド解除!」


光が放たれ、何も見えなかった羊皮紙に文字が浮かび上がった。


『ヴァルキュリアへ

 至急、中央大神殿に赴け』


簡潔な文面の右下に、見慣れた魔法印が刻まれている。


「エイルの言った通り、私宛だったよ」

そう言って、読み終えた手紙を仕舞うと、私は小さくため息をついた。

「このタイミングということは、もしや私の代わりに……」

「肝心な用件が書かれてないから、断定は出来ないけど。たぶん、っぽいよね……」

「も、もし、そうだとしたら……ヴァルキュリア様にまで、ご迷惑をおかけしてしまうことに……っ」

「なるように、なるよ。そんなこと心配しなくていいから、エイルは、ちゃんと体と心を休めなさい」


上半身だけ起こしていたエイルの体を再びベッドに寝かせると、「じゃあ、また来るね」と言って、私は慌ただしく彼女の神殿を後にした。



時を戻し……そういう経緯で、中央大神殿を歩く私だが、自然足取りは重くなる。

「一週間……あと一週間……」

ブツブツと独り言をこぼしながら、荘厳な造りの廊下を進む。

用件はおそらく、間違いない。

エイルの代わりに、今回の勇者召喚を私に押し付けてくるつもりなのだ。

「あぁ、もうっ……ギリ、いや、ギリですらない……」

ブツブツ言ってる私とすれ違う他の女神が、痛々しいものを見る視線を向けてくるが、そんなもの気にしていられない。


女神としては、数多の先輩方に比べて、まだまだだと思うけど、召喚に関しては、そこそこ経験キャリアのある私。

そこが買われたのか、ただ適当に代役を立てただけなのか。はたまた新手のイジメか……。

突然降りかかってきた面倒な問題は、ネガティブな思考ばかり生んでいく。


呟いている合間に、中央広間の扉の前まで来た。

前ここに来たの2週間前くらいだっけ?

いや、3週間前?

いやいや、そんなん、どっちだっていいわ……。


『ギギギギギギィ…………』


重々しい音を響かせながら、とてつもなく厚く大きな両開きの扉が、開いていく。


開かれた、その先には、きらびやかな大広間の玉座に座る最高位女神の姿があった。

私はゆっくりと前に進み、玉座の近くまで行くと、片膝をつき、深々と礼をする。


「豊穣の女神フリッグ様におかれましては、その広く深い慈愛の……」

「あ、形式の挨拶は、いいから、用件を言うわね?」

「……」


イラッ。

この女神って、いっつもこうだよねっ。

堅苦しいの苦手な私が頑張って、正式な挨拶をしてるってのに!

この女神、ぜったいSだわ!


豊かに波打つ金髪を軽くかきあげてから、大女神フリッグ様は、さらりと告げた。


「もう知っているかと思うが、エイルが心身共に不調をきたしたため、この度の勇者召喚は無理だとの判断が下った。よって、その代役として、ヴァルキュリア、そなたを任命する」

「……神界会議は、もちろん通されているのですよね?」

最後の悪あがきを試みてみる。


「急を要する重大事項ゆえ、会議は通さず、私の一任で決定したわ」

「……」


これ訳すと、職権乱用だよね?


「そなたに拒否権はない」

「……はいはい、拒否なんてしませんから」

「私に悪態をつくな」


いやいや、悪態勝負は、五分五分ですよ。


かくして、本来の順番を大幅にすっ飛ばして、私は今回の勇者召喚を担うことになったのだった。






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*side story * 有能すぎる執事が異世界無双!!戦女神に翻弄されながら、お嬢様を探します。 月花 @tsukihana1209

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