*side story * 有能すぎる執事が異世界無双!!戦女神に翻弄されながら、お嬢様を探します。

月花

第1話 女神の思惑1ーヴァルキュリア視点ー

私は、神界の中枢機関である、中央大神殿を足早に歩いていた。

最高位女神から、呼び出しがかかったからだ。

足を踏み出す度に、体を包む鎧が、ガシャリと金属の擦れ合う音を響かせる。

私の普段着とも言えるのは、この全身を包み込む銀色に光る鎧だ。


私は女神だけど、闘神と言われ、時に死神とも言われる。

なぜ、死神かというと、異世界から魂を狩ってきて、この世界に転生させる役割も担っているから。


この世界に、女神として生まれ落ちた時からの運命さだめだから、何の迷いも疑問もなく、その役割を全うしてきた。


今、私が中央大神殿の廊下を行くのは、理由がある。

それは、少しだけ時を遡り、私の元に、使いの神獣が来たことによる。


昼下がり、その日の会議も終わり、自分の神殿で魔法書のページをめくっていた時だった。

カサカサッと小さな物音がしたから、窓の方に視線を向けると、一匹の可愛らしい栗鼠が、こちらを伺っている。


「あら、使い栗鼠ラタトクスね。どうしたの?」

私は書物を机に置くと、窓辺に向かった。

栗鼠の足に、羊皮紙がくくりつけられている。

私は、それを紐解くと、広げた。

いつものごとく、紙には何の文字も見えない。


限定魔法リミテッド解除!」


解除魔法を詠唱すると、何も見えなかった紙面に、文字が浮かび上がる。


「……!」

書かれた内容に目を通すと、私は使い栗鼠ラタトクスの頭をそっと撫でた。

「ありがとう。もう、行っていいよ」

私に撫でられ、一瞬閉じた目を開くと、栗鼠は窓辺から姿を消した。

私は、使い栗鼠ラタトクスが届けてくれた手紙を握りしめたまま、神殿内の部屋を後にした。


私も一翼を担っている勇者召喚は、それを司る女神の間で順番に回ってくる。

今回担当する予定のエイルは、私よりも若い、まだ召喚経験のない女神だった。元々、メンタルが弱いところがあり、今回の召喚も、すごく不安だと言ってた。


兄しかいない私にとって、エイルは妹みたいな存在に思ってたから、ここまで励ましてきたけど。やっぱり、荷が重かったんだろうな……。

エイルの召喚業務が初めてだということに加えて、もう1つ、エイルのメンタルに、のし掛かる重荷がある。


それは、前回の勇者召喚がしているからだ。

ごく稀にあるが、そうあることではない。

結局一言で言えば、召喚してみたけど、適性がなかったってことだ。

もちろん、女神達わたしたちは、選りすぐりの人選をして、異世界から、その者を転生させる。

転生者は、その事故やハプニングにあって転生してきたと皆思ってるけど、実はそうじゃない。

その事故やハプニングごと、こちらの転生の一貫として、女神達わたしたちが意図的に起こしているのだ。


それは、転生そのものが目的であるし、その時用意した事故やハプニングの際に、その勇者候補が、どのような行動を取るかも、実は見ていたりするのだ。


例えば、誰かをかばって事故にあう、などは、その勇者候補の人間性が高いことが分かる。

実は転生させる、その瞬間まで、女神達わたしたちは、勇者候補を試していたりする。


この事実を知ったら、勇者候補達はあんまり気分の良いものじゃないだろう。

でも、女神達わたしたちも遊びで、この業務を行ってるわけじゃない。だから、確実に適性を見極めたい。

だから、ギリギリまで彼らを試しているのだ。


私は、神馬に乗ると、エイルの神殿まで翔ていった。



「エイル、大丈夫……?」

部屋の寝台に横たわる彼女に、そっと呼び掛けた。

肩下ほど伸びた濃い茶色の髪が、ベッドのシーツに広がっている。

閉じていた瞼が開かれ、淡い薄茶の瞳が、私を映す。


「ヴァルキュリア様。ごめんなさい、私……」

言いかけたエイルの瞳には、申し訳なさと、自己嫌悪が滲んでいた。

「私に謝ることないわよ。仕方ないよ。タイミングが悪かったね」

私の慰めの言葉に、エイルの瞳の端に涙が滲んだ。


「どうしても、前の召喚が引っ掛かって……。今度は、絶対失敗しちゃダメって……思えば思うほど……プレッシャーになっちゃって……」

私は、可愛い妹の頭をそっと撫でた。


「誰だって、きっと同じ状況だったら、ハンパないプレッシャーだよ。今回は仕方ないよ」

「……うっ。ぐすっ……」

子供みたいに、エイルは小さな泣き声を漏らす。

実際、エイルはまだ120歳。ほとんど子供のようなものだ。


彼女を慰めながら、もう今回の勇者召喚は、彼女では無理だろうことを悟った。

そして、頭の片隅では、もう勇者召喚が一週間と迫った今、代役に抜擢された女神は、すごく大変だよなということが過る。


その時、エイルの部屋の窓辺から、バサバサと大きな羽音が響いてきた。視線を向けると、大きな鷹が羽を広げ、降り立ったところだった。

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