最終話 北風系ヤンデレと太陽系ヤンデレ

「安心なさい、私はあなたと違って優しいの。ナナくんと本番をさせてあげるつもりはないけど、触ってもらえるようにくらいは、してあげる」


「..................本番の話はともかく......触ってもらえるようにするって話は、本当なの......?」


「えぇ。詰まるところナナくんがあなたに触れないのは、本能的にあなたが恐怖の対象になっているからでしょう? だったら、その認識を塗り替えればいいだけなんじゃない?」



......まぁ、そうかもしれない。

けど、そう簡単に人への認識を変えるなんてこと、できるのか......?


彩咲ささに拉致される前に話し合ったときにも、確かにこういう場合はなんとか彩咲の期限をとって、なんとかする時間を確保しようって話にはなってた。

その一環で、きっと彩咲には触れられない俺の身体をどうするかについての作戦は、ついぞ聞かされていない。


けど、今の真霜さんの自信っぷりを見るに、何か策があるんだろう。



「お前の話を聞くのは気に食わないけど......聞いてあげようじゃない」


「はぁっ......。どうして賭けに負けて、女としても負けて、施しを受けようって立場でそこまで尊大になれるのかしら。そういうところがナナくんに嫌われちゃうんだよ」


「............うるさい。余計なことは言わないで。それで、どうやったらなぁくんに彩咲のことを抱きたくさせられるの」


「......抱かせるわけにはいかないけど。はぁ、もういいや。対策は簡単よ」


「簡単?」









「あなたが弱っちくて無様に快楽を貪ってイキ狂うだけのメス犬に成り下がればいいのよ」


「「........................?」」



真霜さんの突飛な言葉に、俺も、さすがの彩咲も頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。



「わからないかな?」


「意味不明ね」


うん、真霜さんには申し訳ないけど、さすがにどういうことかついていけない。



「難しい話じゃないわ。ナナくんは今、織女彩咲、あなたのことを自分の心身を脅かす危なくて怖い存在だって思ってるよね?」


「う、うん。そう、かもね」



真霜さんが急にこちらに話を振ってきたので、素直に答えてしまった......。


こんなこと答えて、彩咲がまたブチ切れるんじゃ......と思ったけど、それはどうやら杞憂だったらしい。

彩咲の方を見てみると、俺の答えは二の次とばかりに、真霜さんを真剣な眼差しで見つめて......いや睨みつけてた。


真霜さんの方も、そんな彩咲の反応に満足そうに続ける。



「だからね、ナナくんの中で、織女彩咲は怖くない、むしろペットとして飼ってあげるべきクソ雑魚女で、むしろナナくんこそ織女彩咲から恐れられるべき人なんだって設定に書き換えてあげればいいのよ!」


「いやいや真霜さん、まじで何言ってるのどうしちゃったのおかしくなっちゃったの!?」


「大丈夫、安心してナナくん。あなたがこの女に手を出す必要はないの。そこで私の出番ってわけ。私が織女彩咲を立派なメス犬に調教するから!」



............めちゃくちゃな理論だね......。


「勝手にごめんね、ナナくん。そういうわけで私はナナくんが気絶してる間にこの女と賭けをしたの。もしもナナくんが織女彩咲の恐怖に負けて私を売るようなことがあれば、私は性病確定の乱交に参加させられる。逆にナナくんが私のことを慮るような対応をしてくれたら、金銭面も命も、私とナナくんのこれからを保証して、その上で織女彩咲を調教する権利をもらうっていうね」


「......いや、それ彩咲がその条件飲む理由なくない?」


「私が自らそんなことをすれば、ナナくんは私が裏切ったって思って私から離れる。だから私を自発的にグチャグチャにできるチャンスは掴みたかったんでしょうね。それに、事ここに至って、まだ負けるはずないだなんて幻想を抱いてたんでしょう。可哀想なことよ」



......やっぱ彩咲は怖いな。

っていうか真霜さんも、そんな危険な賭けしてたのか......。

そんな自分を粗末にするようなやり方......。


っていうか、俺の話のはずなのに、ずっと蚊帳の外だよな......。



「ともかく、私が織女彩咲をメス犬に堕として、ナナくんは怖くなくなった頃に、たま〜に頭なでてあげるくらいでいいんじゃないかな?」



いやいや、そんなので納得する人いるわけが。








「なるほどね」


いた?


「あんたみたいな女の意見に賛成するのは業腹だけど、一理あるね。あんたに調教されるなんてごめんだけど、いつもは彩咲がなぁくんに尽くさせてあげてたのを、なぁくんが彩咲にしたいことをさせてあげたらいいってことか。それで、なぁくんに触ってもらえるようになったら、そのときえっちしてもらえばいいだけだものね。あはは、そっかそっか」


ニヤリと不敵に笑う彩咲は、さっきまでの絶望的な表情から打って変わって、腹を空かせた肉食獣のような目つきになる。





「じゃあ、今日からなぁくんがしたいようにしてくれていいよ♡」




*****




あれから3ヶ月が経った。


結論から言えば......。



「あっあっあっあっあっあっあっ、ダメ、イ、イグッ♡」


「おい、織女彩咲! 何勝手にダーリンの指を使ってるの!」


「ご、ごめんなさい♡ でも、ごれ、我慢するの、むりっ!」


彩咲に触れられるようにはなった。

というか、真霜さんの宣言していた通り、彩咲は完全なメス犬に堕ちた。




最初、やっぱり俺は彩咲に触れられなかった。

だから、彩咲はイヤイヤながら真霜さんの手ほどきを受けることになったんだけど。



「あへぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜」


「..................朝から辞めてよね......」



寝てた俺の指を勝手に使って絶頂して、全身からいろんな汁を垂れ流しにして、潰れたカエルみたいな格好で、情けない表情でベッドに横たわる彩咲。


明らかに正常な反応ではない。

......これは絶対真霜さん、なんかやばいクスリをキメさせてるよ。


と思って探してみたら、案の定あった。

未使用の注射器も数本残っていたし。




......それはともかく、最近の彩咲はなにも怖くない。

俺たちの言うことはなんでも聞いてくれるし、ずっと部屋にいて基本は自慰に耽るばかり。


限界が来たら今日みたいに俺が寝てるすきに勝手に手を使ったりするけど、本番はしないよう大人しくしてくれてる。


これが真霜さんの調教の成果か。


本当に真霜さんはすごい。

有限実行を地で行ってる。


おかげで織女家から追われたりする心配もなく、金銭的にも余裕で生活させてもらえてる。

ただ............。





「うぅ〜............ナナくん、どうして拒否しなかったの!? そういうのをしていいのは私にだけだっていつも言ってるよね!」


「......ごめんね? でも、寝てる間に勝手に......『口答えしちゃ、めっ、だよ!』..............................」


「もうっ、そんな悪いダーリンには、私へのご奉仕を命じますっ! なんてねっ?」



真霜さんはテヘっと舌を出すけど、このご奉仕はまじでやらされる。

......最近、心做しか真霜さんがあの頃・・・の彩咲に似てきてる気がする。


多分気のせいじゃない。



ただ、まだまだ僕らは引き返せる。

以前のようになってしまう前に、真霜さんとの関係をちゃんと・・・・しておかないといけないよね。



幸いにもこの数ヶ月、不遜にも彩咲と真霜さんのことを比べて、真霜さんの調教テクニックを見せてもらって、わかったことがある。




北風と太陽。

人を動かすには、厳罰をもってこれを為すのではなく、寛容な態度で当たるのが得策だという教訓を持つお話。


以前までの彩咲と真霜さんは僕にとって、この意味の通り、北風と太陽のような対局の存在だった。

苛烈なお仕置きを以てを組み伏せようとした北風みたいな彩咲と、深い愛情と包容力と優しさを以てを包んでくれた太陽みたいな真霜さん。



ただ、彩咲だって、最初の頃から北風みたいなやつだったわけじゃなかった。

いろいろあって徐々にそうなっていったんだ。


この過程に真霜さんを当てはめて考えてみたら、このままじゃあ、太陽だった真霜さんまで北風になってしまう。それは避けたい。


真霜さんのことを愛してるからこそ、事前に阻止するんだ。


北風と太陽に近い、アメとムチって考え方。

北風みたいな厳しいムチで調教をした後、太陽みたいな甘々ラブラブなアメの日々を送らせてあげたら、ドロッドロに堕ちてくれる。


そういうことを、ここしばらくの間に学んだ。



「ん? どうしたの、ナナくん? ほら、大好きなお姉さんにご奉仕して?」




うん、くすねさせてもらったこのクスリ。

真霜さんには申し訳ないけど、打たせてもらうね。


大丈夫、使い方とかちゃんと勉強したし。


明日からこれまで以上の極楽に、俺をないがしろにする気がなくなるくらいの絶頂に、連れて行ってあげるからね。

......まぁ彩咲の様子を見れば、発情しすぎて快楽が強すぎて、天国なのか地獄なのかは定かじゃないけど。







だけど、許してくれるよね、真霜さん?

だってこれは、僕らの幸せな未来を照らす、太陽になる行為なんだから!

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北風系ヤンデレと太陽系ヤンデレ 赤茄子橄 @olivie_pomodoro

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