5話 お嬢様とハッピーエンド?
遊園地を後にした俺たちは、二人で椎名の家へと向かった。
椎名は、迎えを呼ぶから大丈夫だと言ったのだが、さすがに一日一緒にいたのだから、挨拶ぐらいはしないとと言って、どうにか聞いてもらった。
二人で電車に乗り、最寄りの駅まで行くと、歩いて徒歩10分ほどの所に、椎名の家はあった。
「お帰り、深雪」
「ただいま、お父さん」
家の前に来ると、椎名のお父さんが、門の前で待っていた。
俺は、大企業の社長が、わざわざ家の前で待っていたことに驚いたが、そんな様子は表に出さず、いつも通りの対応をした。
「ご無沙汰しています。椎名社長」
俺がそう言ってお辞儀をすると、椎名のお父さんも挨拶をしてくれた。
「こちらこそ、いつもお世話になっているね」
俺はその言葉を聞くと、さっそく今日ここに来た目的を果たすため、口を開いた。
「あの、すみませんが、私は……」
「お父さん!」
俺が言葉を続けようとすると、椎名がそれを遮って話始めた。
「私、やっぱりお見合いをするのは嫌です!」
きっぱりとそう言い放った椎名には、昨日までの不安な様子は一切なく、何かを決意したような、そんな雰囲気があった。
椎名のお父さんは、返事をせずただただ椎名の話を聞いていたので、彼女はそのまま話を続けた。
「私、好きな人ができたんです。だから、その……」
最初こそ強い主張だった椎名だが、段々と弱くなっていき、最後には黙り込んでしまった。
しかし、そんな様子を見て、椎名のお父さんは父親の顔になって優しく椎名に微笑みかけながら話しかけた。
「そうか。それなら仕方がないな」
「えっ……」
予想外の返答に、椎名はぽかんとした表情になった。
そして、そんな椎名をよそに、椎名のお父さんは優しい声で続けた。
「当たり前じゃないか。深雪に思い人ができたのなら、そちらを優先するに決まっているっだろう?」
「お父さん……」
椎名のお父さんの言葉に、椎名は思わず目に涙を浮かべた。
そんな椎名を抱きしめながら、椎名のお父さんは続けて問いかけた。
「それで、その子はどんな子なんだい?」
そんな何でもない質問に、椎名は父親から離れると、スッと指をさして答えた。
「湊くんです」
そう。
指の先にいたのは俺だったのだ。
え、ちょっと待て、椎名は俺のことが好きなのか?
突然のことに頭がパニックになり、俺は思わず意味を尋ねていた。
「えっと、どういうこと?」
「ですから、私は湊くんのことが好きです。私に興味が無い事は分っています。ですが、これから興味を持っていただけるよう、頑張りますので、お付き合いしてください!」
椎名は、そう言い切った。
椎名のお父さんは、そんな椎名の様子を見て、「さすが俺の娘だ」などと言っていたが、そんなことはどうでも良かった。
何せ、そもそもの話が……。
「お見合いする前から、私の娘を口説き落とすとは、さすがは十六夜グループの御曹司だな」
「え?」
椎名のお父さんの言葉に、椎名が驚く。
それもそうだろう。
あれだけ嫌がっていたお見合いの相手が、自分が今好きだと伝えた相手だったのだから。
「じゃ、じゃぁ、私がお見合いする予定だった相手って……」
「俺、だよ」
「えー!」
衝撃の事実に、椎名は驚きを隠せていなかった。
そう、俺は九十九グループのライバルグループにあたる、十六夜グループの一人息子だったのだ。
二つのグループは元より仲良くなるためのきっかけを探していたので、昔から俺たちを結婚させる方針を立てていたらしい。
俺は、そんな話を抜きに、椎名自体に惚れていたため、ずっとお見合いの誘いを断っていたのだが、一度でいいからと言われ、渋々承諾した。
そして、その矢先に椎名がお見合いを拒んでいることが分かり、俺は椎名との思いでを作って、引き下がろうと思っていた。
今日ここに来たのも、お見合いを無しにしてもらうためだったのだ。
「てことは、両想いってことかよ……」
俺は椎名の言葉を思いだして、顔を片手でかくした。
椎名も、俺の言葉を聞いて、顔を赤くする。
何だか、少しややこしいことにはなったけど、でも、そう言うことだよな。
俺は一つ覚悟を決めると、改めて椎名に向き合った。
「椎名。いや、深雪。俺も深雪のことが好きだ。俺でよければ、付き合ってくれ」
「はい。湊くんがいいんです」
そして俺たちは、父親の前であることも忘れて、抱き合った。
こうして、俺たちは付き合うこととなった。
これから、いろんなことがあって、数年後には結婚をするのだが、それはまだ、知らない話だ。
学校一の美少女の社長令嬢がお見合いは嫌だと言うので、仕方なく一緒に逃げることになりました 天川希望 @Hazukin
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