鏡の悪魔

雪月風花

鏡の悪魔

「我を呼んだのは貴様か」


 深夜二時。

 部屋の中央に配置した合わせ鏡から出てきたのは、黒のスーツに黒のネクタイを締めた全身黒づくめの大男だった。

 昨日、街の古本屋で偶然見つけた魔術の本を実践してみたのだが、どうやら成功したようだ。


「そうよ。わたしがあなたの召喚主よ」


 小娘と侮られてたまるか! こちらの方が立場は上なんだからね!


「鏡の悪魔よ。よくぞわたしの召喚に応じた。さぁ、わたしの願いを叶えなさい!」

「ふん、いいだろう。ただし願いは三つだ。報酬として貴様の魂をいただくぞ」

「望むところよ。わたしには失うものなんて何もないんだから。では早速第一の願いよ。わたしを美しくして!」


 悪魔が『くだらん』とばかりに、鼻で笑う。


「整形なら美容外科へ行け。メイクのやり方ならデパートの化粧品コーナーで美容部員にでも聞け」

「え?」


 なに、その返し。魔法でパパっとやってくれるんじゃないの?


「だいたい貴様、まだ十代だろう? 高校生か? ならまだまだ成長途中だ。素で充分美しい。これからの成長で容姿なんていくらでも変わっていくものだ。焦る必要はない。なぜそんなことを願う」

「好きな人に告白したけど振られた。だから綺麗になってもう一度アタックするの!」


 わたしは泣きながら言った。


「だから悪魔と契約して綺麗になろうと? 愚かな。今の貴様に必要なのは心の強さだ。貴様を振った男には見る目がなかった。そんな男に再アタックしてどうする。前を見て生きろ!」


 悪魔に説教されちゃったし。


「さぁ、一つ目の願いを言え!」


 あ、さっきの願い、なしなんだ。


「じゃ、お金! この部屋いっぱいのお金を出して!」

「金だと? 俗物め。金は自分で汗水垂らして働いて得るから尊いのだ。そうやって得た金で物を買うから満足感があるのだ。何もせずに得る金など無価値だ! だいたい貴様、まだ学生だろう? 学生なら学生らしく、月々の小遣いとバイトで満足しろ!」 


 また説教されちゃったし。


「さぁ、一つ目の願いを言え!」

「なら頭を良くして! 来年受験なの!」

「勉強しろ! 今からでもまだ間に合う。必要なのは焦らぬことだ。……さて、願いもないようなので我は帰るぞ。勉強頑張れ」


 悪魔の姿が薄れて消えた。

 説教されただけだったけど、話して少し気が楽になった気がする。

 明日も頑張ろう。

 わたしは布団に入って電気を消した。


 END

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