最終日

  「中どうなってんだろうな?」

 

 「お前知らねぇのかよ!?」


「演劇部に全部任せてあるからな、知らない方が楽しめるだろ?」

 敢えて演出に関わらない事で期待感を持たせる。自身すらも楽しませるリーダーシップなのか、単に面倒だっただけだろうが。


 「良かったね有里紗、最後尾とれて。

楽しい思い出できそうだねー?」


「できたら...いい、かな。」

上目遣いでこちらを見つめる、視線ではなく顔を赤らめるスイッチでしかない。


「ていうか烈減るの早くねぇか?」


「その割出てきてないみたいだけど..」

中で迷っているのか、そんな規模では無い筈だが入った生徒が出てこない。


「あれ、もう回ってきちまった」


「中入ってみましょう、それが早いわ」

最後尾の手前に並ぶ良太・菊音ペアが入り口から中へ入っていく。


「じゃ、お先ね有里紗!」


「うん、さようなら..アリサちゃん」


(さよなら?)

恐怖を煽る冗談か、静かな顔でそう言った。


「……いつ頃かな?」


「もういいんじゃないかな。」

数分後、良太たちも中へ入った

お化け屋敷というだけあって薄暗く、手作りにしては充分に恐怖を感じる迫力がある。


「きゃ!」「うおっ!」

怯えてくっ付く有里紗に怯える良太

四つの間の内一つ目は〝生贄の間〟


「なんだここ..連なる井戸?」

一本道に井戸が連なっている、前を通ると井戸の中から血塗れの死体が飛び出した。


「うおおっ!!」

かなりリアルで演技とは思えない、思わず声を上げて驚いてしまった。


「大丈夫!?」

有里紗は笑っていた、怯えるでもなく楽しそうに隣で微笑んでいた。


(そういうタイプなのか..)

次なる関門は〝掌握〟の間、大きな腕の形のオブジェがあり開いた掌が握られると音を立てて何かが潰れ液体が飛び散る。道を通りきるまでそれは鳴り響き客を驚かせる。


「スゲェなおい、頑張ったな!」

余りのクオリティに恐怖を超えて感心をしてしまう。表現は既にお化けの域を超えている


「有里紗さんついてきてる? 大丈夫⁉︎」


「…もっと見てよ。」 「え?」

薄暗い部屋にあかりが灯る。

隠された部屋の全てが光に照らされた


「……なんだよ、これ...!!」

目の前で腕に潰されていたのは、同じクラスの生徒たちだった。鮮血をぶち撒け、白目を向いた同級生が肉塊となっていく。


「…あれもか?」

井戸から飛び出しているのも同級生、自分よりも先に入った客たちだ。


「次行こ。」「え? ちょっ..」

〝針地獄の間〟

針山にお化け役の生徒たちが串刺しになっている、そこには箱崎の姿も。


「なんだよこれ...どういう事だよ!?」


「お化け屋敷だよ、私の発案だよ。」

頭が真っ白になった。

意味など当然わからない、ただおびただしい程の恐怖が全身を駆け巡っている。


「最後ここ。〝狐火の間〟」

縛られた生徒たちが紫の炎に照らされている


「良..太...。」 「文人っ!」

口を抑えられているが、辛うじて話が出来る。しかし身動きが取れずあばれればおそらく引火してしまう。他の生徒は既に燃やされてしまい、焦げて床に落ちている。


「逃げ..ろ....」 


「うるさい、喋るなっ!」「ふみとぉっ‼︎」

狐火をくべられ床に落ちる、火力を間違えたのかそのまま炎が屋敷中に広がっていく。


『あーあつまんないの、まぁこんなもんか』


「‥誰だ、だれだお前は!」

明らかに有里紗の声色では無い、何かが有里紗に乗り移っている。


『今年も大した事ないね、お前も覚えときな。安易に〝お化け屋敷したい〟って言ったらこんなひどいもんになるからね、それじゃ』

黒い影のようなものが有里紗の頭から抜け、宙を漂い何処かへ消えた。


「なんだったんだ..」


「..あれ、素村くん……ひっ‼︎」

目の前には無惨なクラスメイトの姿、さっきまでの感覚が無いのか酷く怯えている。


「なに....これっ...⁉︎」

涙を流して震えている。

さっきまでとは、まるで別人のようだ


「‥はっ、変えなきゃ..。」

掌を握り屋敷の出口へと連れ出す


「行こう。」 「…どこに..?」

どこでもいい

二人きりで、恐怖以外の表情の変わる場所へ。


                   完

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お化喰やしき アリエッティ @56513

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