当日一日目

 「嘘でしょっ!?」

 それは誰よりも登校し、美術室に入った菊音の悲鳴で判明した。


「どうした!」 「衣装が..!」

声を聞きつけた文人が駆けつけると、制作したお化けの服が無惨にも引き裂かれていた。


「誰がこんな事..」


「箱崎よ! アイツがやったんだわ!」

真っ先に疑われる嫌われ者、気の毒だが可能性がなくはない。注意された腹いせに力任せにやりかねない暴虐性は確かに持つ。


「何でもかんでも疑うなよ。

..仕方ない、また作り直すしかない」


「これから? 全部作るの!?」


「それしかないだろ、美術部の奴ら集まったら訳を話しといてくれ。家庭科室で余った布とかないか聞いてくるからさ..」


「ちょ待っ..!」

廊下を走る後ろ姿は、昨日と同じ切なさを帯びていた。だとすれば止めても無駄だ、既に厄介な性質が稼働している。


    〜数十分後〜


 「作り直し?」


 「そうなの、係の人だけじゃ数が足りなくて。申し訳無いけど手伝って!!」


 「……マジかよ。」

半ば寝不足で楽しみにしていた予定が突然崩された。出来すぎた話だとは思っていたが、やはり根本からサボるべきだった。


「仕方ないよ、手伝おう?」


「..そうだね。」

お化け役に回ればよかった、今の顔色なら全力で客を怯えさせられる。


「あった! 布スゲェ数もらえたぞ!」

大量の綿巻を抱えた文人がクラスメイトに少しばかりの希望の光を照らす。


「みんな、ホント申し訳無いんだけどさ!

力貸してくれ! お願いっ!!」


「……ったく、まぁ仕方ないよな」


「箱崎の野郎今に見てやがれ」

生徒はたちが次々と綿巻を手に取っては作業に取り掛かる。


「お前ら...ありがとうっ‼︎」


「お礼いいから、手伝ってよ〝リーダー〟」


「リーダーか...よし、やるぞっ!」


『「おうっ!!」』

一斉に返事をして文人を慕う、初めて心から慕われた気がした。生徒達が団結し協力して衣装の修正・制作に励んだ。


「‥やってやれん。」

やる気のない一人を除いて。


「ダメだ、どうもああいう熱いのは耐えられん。だからいつとサボってんのに..」

参加出来ないので迷惑をかけないようにと面倒の中に一応の気遣いを含ませているつもりなのだが、無理に参加すればやはり途中で離脱をせざるをえなくなる。


「…落ち着くな、ここ」

美術準備室

狭く人が一人もいないこの部屋は現状の安定施設となりつつある。上半身のみの白い石膏すらも執拗に可愛らしく見える。


「これと付き合ってやろうかなもう...ん?」

石膏の顔に何か付いている。

赤い絵の具だと思ったが、特有の独特な香りがしない。べっとり付着していれば漂ってきそうならものなのだが...。


「おい、これって....血か?」

手に取ってみると、鉄くさい臭いがする

絵の具にしては色が生々しい。


「これ、直に触って大丈..」


「良太ー!」「うおっ!」

入り口の扉を開け勢いよく良太が入ってくる


「やっぱいたか、行くぞ!」


「行くって何処にだよ?」


「教室だよ、立花さんが皆でお化け屋敷回りたいんだってよ。」


「‥はぁ?」

訳を聞けばトラブルで台無しになった一日目の文化祭を、せめて皆でお化け屋敷を巡る事で思い出に変えたいという思いがあるらしい


「んな事やってどうすんだよ..」


「そんな顔すんなよ、意味わかってるか?

今日お化け屋敷を巡るって事は明日..。」


「……俺とだけ二人っきり?」「だな」

明日の予定がより楽しみなる新たなシステムが作動する。そう考えれば楽しみは倍増だ


「仕方ねぇな、今日だけだそ。」


「おう! 行こうぜ!」


「..ってかなんでアイツ明日の事知ってんだ?」

疑問は残るが関係ない、楽しみは楽しみだ。


準備を終えた日暮れ

生徒たちは教室の前に集まっていた。


「先生に許可は取った。

お化け役はもう中で待機している、これからペアを組んで一組ずつ進め。わかったな?」

破れた布に布を繋ぎ合わせて作り直した事で返って恐怖感が増す出来となった。以前より演出も細やかに設定し、恐怖感を煽る仕上がりに磨きあげた。


「さぁ行けぇっ!」


「そんなノリなの?」

入り口の扉が開き、屋敷へと誘われる。


「あ..素村くん。」「ん、どうした?」


「最後に入ろ、私たち。」


「……うん。」

このドキドキは恐怖か、はたまた...。

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