シュレディンガー・ヒューマン
KEIV
シュレディンガーの猫の1つ奥の知識と理解のもとで
「おはよう」
未だ混乱したままの脳を頭に詰め自室を出て、朝食を食べている家族に挨拶をしつつ、とりあえず自分も食卓に着く。
昨晩──と言っても日付的には今日か。午前1時過ぎ、自分は自らの命を絶つ毒を口にして眠った。自分の読み通りであれば午前4時から5時の間で死んでいたと思う。実際、口にした直後から喉に違和感は出てた。そこで入眠したからそれ以降の記憶は全く無い。
口にしたのはクルミ。100円のおつまみのミックスナッツから1つ取り出し致死量と思しき分だけ破片を取ると残りは近くの川に撒き散らし、レシートは書きかけの遺書とともに燃やす。テッシュに包んだ破片を家族に露見しないようカバンに押し込む。深夜まで待ち家族が寝静まった頃、カバンから取り出すと用意した水と共に飲み込む。
アレルギーを利用した殺人があるのなら、アレルギーを利用した自殺だって有り得るだろう。自殺する理由はあり過ぎで分からなくなった。ただただ
死にたい
それだけだ。理由無き自殺では無く理由が積み上がって何が原因か分からなくなった自殺だ。家族の事も将来の楽しい事も、もう何も興味が無い。苦しい事が嫌で楽になりたい。何も感じないのが、何も思うことがないのが、1番楽。だから死ぬ。それだけ。
寝る直前まで上手くいっていたそれは、上手くいったのかそうでないか今ではもう分からない。気管が腫れ、閉まり、呼吸困難を起こし死ぬ。予想ではそうなのだろうが今となってはもう分からない。何も分からない。生きているのか、死んでいるのか。これはホンモノの命なのか、死に際の幻覚なのか。
ただ、触覚があって、味覚があって、嗅覚があって、視覚があって、考えが出来る。本当に生きているのか、仮初の生なのか、死ぬ時の幻覚なのかも分からない。
時間が経ち考え直してみる。恐らくは生きているのだろう。だが分からない。ただ思うことは
『今の自分は、さながらシュレディンガーの猫だな』
恐らく自分は生きている。が、蓋が開くその瞬間に『死んだ』自分と『生きた』自分の2つが発生し、『生きた』世界線を今の自分は生きているのだろうか。それとも、蓋が開いた事で『生きた』事が確定したのだろうか。
どちらの理論にしろ、この世界の、自分が居て、自分と関わりがあるひとがいる、この世界では無い第3者から見てもらわないと分からないか。
自分は、そしてあなたは、本当に生きているのですか?
なお、本作は自殺を推奨するものではありません。
シュレディンガー・ヒューマン KEIV @3u10REAPER
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