猫、賢い。生後4ヶ月。-後-

 1週間後。

 また猫がおもちゃをなくした。今度はストレッチポールの下にもピアノの下にもなかったから、おそらく玄関だ。

 猫は玄関が好きだ。石のひんやりした感触が好きなのか、それとも家族が帰ってくる場所という思い入れが故なのかはわからないが、とにかくよくいる。いない時に探すと、10回に7回はいる。そしてひとりでや人間とよく遊ぶのも玄関だ。

 玄関にあるベンチの下のかごをどかせて、覗き込む。ぱっと見ないが、この前のピアノの下のように、脚の裏に手を突っ込むとあった。白のネズミだ。

「ほれ猫」

 一緒に見ていた猫に向かって投げてやると、尻尾をピンと高く上げて追いかけていった。これで解決。そう思って居間に戻った。

 しばらくのんびりしていると、猫が私の足元までやってきた。

「ぷみゃーん」

 噛み付くわけでもなく、「そこをどけ!」とソファを占領するわけでもなく、ただ足元で一鳴きした。そして踵を返して、とととっと玄関へ走っていく。あとを追うと玄関マットの上で尻尾をくゆらせて猫は待機していた。

「無くしたから取ってくださいってこと?」

 どうやらそのようだ。賢いな。

「よーしどれどれ?」

 こんどはシューズボックスの下に入り込んでいた。「今度はなくすなよ」と言いながら猫に放る。

 またしばらくカシャカシャ、バタバタと言う音を聞いていると、猫が呼びにきた。

「ぷにゃー」

 そして玄関で待っている。私はほいほいついて行き、今度もまたシューズボックスの下にあったネズミを取ってやった。

 そしてまたしばらく猫が遊び、音がしなくなったと思えば、猫が足元で鳴いた。

「ぷにゃーん」

「も〜猫くん、またなくしたの?」

 玄関へ行くと、「どう考えてもここならわかるだろ」と言う場所にネズミが置いてあった。玄関のドアの近く、靴もなにもないところに鎮座していた。それでも多分見失ったんだろう。仕方ないな〜とまた放ってやる。カシャカシャ、カラカラ、バタバタと猫が駆けていくのを見て、私はまた居間に戻った。

 そうしてまたしばらくすると、今度は猫が玄関で鳴いた。

「ぷにゃーん(小声)」

 ほいほい私は玄関に行った。

「いや、ここにあるやん?」

 マットの上に鎮座しているネズミを指差して猫に言った。

 猫は私を見ている。心なしか機嫌がいいようにも見える——ここで猫の謎行動を振り返った。猫は無くしたら鳴いて私に知らせた。つまり、鳴いたら私が猫を見に来た。つまり? 君は? 鳴けば人間が来ると学んでしまって? 私を誘き寄せるために?

 ほいほい誘き寄せられた人間、及び「取ってこい」される側こと私は、猫の偉大さに平伏した。こうして猫は、人間の気をひくために鳴くようになるのかと。いや、それでもいい。猫は確実に天才だ。策士だ。まさか、「こんなに可愛い猫が遊んでるのにどこにいるの?」と人間を呼ぶようになるなんて。

「いやいやいや……」

 鳴いて呼んだら来る人間こと私は、おもちゃを掴んで、また投げた。猫はおもちゃに飛び掛かっていった。私は猫の邪魔にならない壁際に腰を下ろし、猫の行き来を目で追った。

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