リリーホワイト、いい加減ギアを噛み合わせてくれない?

naka-motoo

リリーホワイト、いい加減ギアを噛み合わせてくれない?

 多様性

 

 多様性


 多様性


「多様性を多用せい、なんちて」

「ああ・あ」


 わたしがウザいという言葉を使わないからといってリリーホワイトが落ち込まないわけでは決してなくて、わたしにウケなかったことで凡庸のレベルにすら感性が達していないのかとショックを受けてる。


 リリーホワイトは凡庸じゃない。

 ハーフだし。

 

 お父さんは日本人、お母さんがイギリス人、そうしてわたしはリリーホワイトのファーストネームをまさか知らないわけじゃないけど嫌なんだよね、名前で呼ぶっていうのが。だからファミリーネームのリリーホワイトって付き合い始めてからずっと呼んでる。


 リリーホワイトなんてほんとに幻想的な百合漫画にでも出てきそうな苗字だけど、彼はわたしのmaleとしての彼。

 身もココロも男子の男の子。


 あ、言い方ヘンだったかな。


「ねえ」

「なに?リリーホワイト」

「春休みになったらグラスゴーに帰省しろって母さんがうるさくて」

「え?無理でしょそんなの」

「どうして?」


 わたしは焦る。

 焦ってなんとかして凡庸さの発揮と、それから…照れ隠しをしなきゃならない。


「だってほら。春休みが終わったら3年生になってさ、どこの大学受けるかって真剣に勉強しないといけないわけだしさ」

「ふうん。ねえ」

「なに」

「僕が居ないと寂しい?」

「…うん」

「そっか」

「そうだよ」


 こんな感じでお互いが生まれて初めての彼と彼女となったリリーホワイトとわたしはこうやって背が他の誰よりも極端に高くて教室の最後列しか座席にしてもらえないリリーホワイトの自席のところで向かい合ってお弁当を食べながら雑談に興じる。


「ねえ」

「なに?リリーホワイト」

「僕たち付き合い始めてから半年だよね」

「うん。そうだね」

「そろそろ次の段階に行ったらどうかな」

「次の段階?何かやらしいこと考えてるんじゃないの?リリーホワイト?」

「ああ、その感性好きだよ」

「?どんな感性?」

「『エロいこと』じゃなくって『やらしいこと』って表現する感性」


 どうしてかわたしは言えないんだ。


 ウザい、キモい、エロい、エモい、ヤバい、すらも。

 だからわたしとリリーホワイトとの会話を聴いた周囲の子たちは、『熟年夫婦?』とか言ってくるしね。


「で?次の段階って?リリーホワイト?」


 手を繋ぐ?ハグ?もしかして・・・キス?

 いや、ひょっとして『そういう』こと?


「議論する間柄」

「?常に戦ってるでしょ、わたしたち?」

「そうじゃなくて・・・事実認識をお互いに確認しておくってこと」

「なんの話?リリーホワイト?あ、哲学系の話?」

「そうじゃなくて。もっと切実な」

「世界観?価値観?とか?」

「さっき話題に上がったでしょ。多様性」

「多様性を多用せいってこと?」

「その逆」

「?」


 わかんない

 わかんないよ

 リリーホワイトの言わんとするところが


「ねえ。僕は多様性の一種?」

「ううん」

「キミならそう言ってくれると思った」

「だって…リリーホワイトは普通でしょ?イギリス人なんて珍しくもないし」

「うん」

「グリーン・アイも、背の高さも、お母さんがイギリス人なのにリリーホワイトは英語をわたしと同じレベルでしか喋れないし」

「ありがとう。僕の本質を見てくれて」

「リリーホワイトは特別じゃないよ、わたしにとって。ごく普通。あ、でも、まつ毛がとっても長いのはうらやましい」

「ありがとう。キミも普通だよ」

「凡庸、って意味の?」

「いや。普通にかわいいって意味の」

「その言い方好きじゃない。かわいいならかわいいって言って?」

「ごめん。普通に普通にかわいい」

「それってなんなのリリーホワイト」


 あ。

 なんか今韻を踏んだ気がした。

 半年の間にわたしは『リリーホワイト』を合いの手みたいにしてる。


 どこへ行くのよリリーホワイト

 厚揚げ美味しいリリーホワイト

 電車座れたリリーホワイト

 

 それから・・・


「わたしを好きなリリーホワイト」

「なにそれ」

「だって。かわいいって言ってくれたから、これからずっとリリーホワイトに声をかける時は『わたしを好きなリリーホワイト』って称える」

「やめて」

「じゃあやめる、わたしを好きなリリーホワイト」

「ねえやめてないよ」

「電車は慣性止まれないのよわたしを好きなリリーホワイト。あ、一句浮かんだ」


朝起きて

わたしを好きな

リリーホワイト


「ねえ俳句になってないよ」

「じゃあ、リリーホワイトもわたしで一句歌ってみて?」


ねえねえね

ねえねえねえね

ねえねえね


「ふふ。いい」

「ねえほんと?」

「うんいい。わたしを好きなリリーホワイト」

「ねえ」

「うんなに?わたしを好きなリリーホワイト?」

「好きだよ」

「う」

「ほんとに好きだよ」

「うっ、うっ」


 リリーホワイトが急に立ち上がって、教室の窓際の後ろの隅っこまで歩いて行くからわたしもついて行ったら、学校の装備にしては珍しい白のレースのカーテンにわたしごとくるんでくれた。


 浮かんだ


鼻触れて

梅花匂うの

初キッス

わたしを好きな

リリーホワイト


 お粗末さまでございます!(o^^o)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リリーホワイト、いい加減ギアを噛み合わせてくれない? naka-motoo @naka-motoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ