所有権屋さん

結騎 了

#365日ショートショート 027

 男は、近所に新しくオープンした店に来ていた。

「いらっしゃいませ」

 エプロンを着けた店員は、満面の笑みで男を出迎える。

「すみません、看板を見てもよく分からなかったのです。こちらでは、なにを売っているのですか」

 待ってましたと言わんばかりに、店員は身を乗り出した。

「当店では、所有権を扱っております。活きのいい所有権がそろっていますので、ぜひ、手に取ってみてください」

 うむむ。説明を聞いてもよく分からない。男は、とりあえず店内を周ってみることにした。売り場には、野菜や肉、雑誌に日用品と、様々な商品が陳列されていた。なんだ、普通のスーパーと変わらないではないか。

「あの、お客様」

 さっきの説明では不十分と感じたのか、店員が近づいてきた。

「こちらにあります商品の所有権は、現在、全て私どもが保有しております。お客様が所定の料金をお支払いいただければ、その所有権を差し上げる、というルールです」

「では、例えばこのサラダ油の所有権を買ったら、それをどうすればいいのですか」

「もちろん、所有権はあなたにありますから、ご自宅まで持って帰っていただくのも自由です」

 少しだけ首を捻りながら、試しに申し出てみる。

「それでは、このサラダ油の所有権をください」

「お買い上げありがとうございます。290円になります」

 男が小銭で支払うと、店員は軽快な手つきでそれをレジに収め、代わりに小さな感熱紙を差し出した。

「こちらが、所有権売買の記録書類になります。それでは、ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」

 男は、サラダ油を片手に店を後にした。どうやらこれは自分の物になったので、自由に持ち出しても咎められないらしい。なんだかよく分からないが、そういうものなのだろう。

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所有権屋さん 結騎 了 @slinky_dog_s11

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